結局雨は、降り出してしまった。
珍しく、何も予定のない休日だったので、散歩も兼ねて図書館で本を借りた。
家を出た時にすでに曇っていたが、天気予報は夕方から雨の予報で、図書館までそれほど距離があるわけでもなく、戻って来るまでなら大丈夫だろうと、安易な判断をしてしまった事が悔やまれる。唯一の救いは、洗濯物を干していなかったことだけ。
傘も持ているわけではない。図書館から家まで徒歩では三十分ほど。
図書館に戻り、しばらく雨宿りをしようかとも思ったが、予報では明日まで降り続くと言っていたのを思い出す。止むのを待つ事も出来ない。
と、なると、やはりバスを待つしかない。バス停には、雨を凌げる屋根がついていたはずだ。ここから乗車すれば、家のそばのバス停まで行ける。
雨を避けるように小走りに向かったバス停から、バスの後ろ姿を見送った。
残念ながら、今しがた、バスは行ったばかりのようだった。
時刻表を確認すると、次は一時間後。バスが出ている事は知っていたが、今まで利用したのは数回。その時は空いていた。あまり活用されていない路線なのだろう。ここから駅までも、遠いわけではない。
「いつも遅れるのに……」
こんな日に限って……と、雨竜はつい独り言を漏らしてしまう。
特に用事が無かったとは言え、こんな時間の潰し方をするのは本意ではない。
唯一助かったのが、先ほど借りた本。最近気に入っている作家の小説。
家で、お気に入りの奮発して購入した紅茶を入れて、落ち着いて読もうと楽しみにしていたのだが……。
雨竜は、ページをめくる。
雨脚が強まったように感じ、ふと腕時計を見ると、まだ十五分しか経っていなかった。
集中すると一時間くらい時計など気にならないのだが、さすがに、こんな場所で立ちながらでは、すぐに集中力も途絶えてしまう。
激し雨ではないが、やはり傘もないのであれば、濡れる覚悟は必要だ。借りた本もぬらしてしまうだろう。この辺りにコンビニでもあれば、傘を買って帰る手段もあるのだが、生憎、この辺りの地理は乏しい。店を探している間に、濡れてしまう。
やはり、バスを待つしかない。
溜め息を吐いた時に、雨竜は大きな霊圧が動いた事に気付いた。
間違えるはずはない、一護のものだ。
こんなに自己主張の激しい霊圧は、一護以外ではまだ会った事がない。きっと、他に居ない。
近づいて、来ている。
図書館にでも用があるのだろうか。このあたりには図書館しかない。
雨竜は本から目を離さずに、少しづつ近付いて来ている距離を、測る。
500メートル。300メートル………。
真っ直ぐに、雨竜に近付いて来ている。
一護の事だから、霊圧を探るなどしないだろう。
雨竜も、「探る」事をわざわざしているわけではない。長年、滅却師として、習慣化してしまっている。肌で風向きを感じるようなものだ。意識して霊圧の位置を探るのは、虚の出現が明確化した時だけだ。
けれど、一護の霊圧は、大き過ぎて、動けばわかる。遠い場所で動かなければ意識もしないが。
近付いて来ている。
そろそろ、図書館に着くだろう。
そして、建物に入って行くのだろう。
死神だから、と、そんな理由で一護を避ける事もなくなった。教室で会えば挨拶ぐらいは交わす。用があれば話しかけたりもする。
時間もあるし、図書館に向かうだろう一護に挨拶をしようかと、少し考えたが……すぐに、考え直す。
どんな理由で会えば良いか、考えた。
ここに居る事を雨竜が隠す必要などはない。一護の霊圧を感じて近くに居るようだったから。本当にそれだけだ。
だが、それでは、一護がプライバシーを侵害されている気分にならないだろうか。
見張られているような気分にならないだろうか。
それならば……偶然を装い、あたかも今来たように振る舞えば、近くに居たから霊圧を感じて会いに来たと言わなくても済むが、わざわざ嘘を吐く必要性もない。偶然会ったからと言って、一護が雨竜にその理由を聞くことがあるとは思えないが……。
やはり、一護がこのまま図書館に向かい、雨竜がそれを伝えなければ、それで終わる。
それが一番面倒ではない。
わざわざ会う必要もない。特に用もない。どうせ、明日学校で会う。
そう、思い、雨を見る。
このまま、明日まで降り続く雨を見る。
鬱陶しい。
昨日、台所に黴を見付けてしまった。洗濯物は部屋干しになり、生乾きの嫌な匂いがして、結局洗い直す羽目になる事もたびたびある。
溜め息を吐く。
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20120123
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