なんか、少し……いや、かなり緊張してる俺と、学校に居る時みたいに隙のない石田。
自宅だってのに、くつろげてんのか、こいつ。
ピシッとした姿勢は相変わらずで、服もシャツのボタン一番上まで止めてるし、胡坐かいてベッドによっかかってる俺のよか、家の持ち主である石田の方が客みたいじゃねえか?
その上、さっきから目も合わせてくんねえの、気のせいか?
会話だってろくに続いてねえし……。いや、もともと石田と俺で共通の話題って滅多な事じゃ見つからない。共通の授業の話題とか、勉強の話題とか、色気と味気がない話ぐらいしか、あまりできないような関係……それでも、一応、恋人同士ってのになった……はずなんだけど、俺達。
「石田ぁ……」
別に、今日は満月じゃないけど。
一応、石田の了解も得たし、俺達両想いで良いんだよな? 間違ってないよな?
初めて、満月じゃない日に石田んちに来た。
いつも、血をあげたりヤったりすんのが目的だったから、部屋の中を観察したりとか、あんまり余裕なかったけど、独り暮らしのワンルームにしては、広い。広いっていうか、六畳だけど、モノが、片付き過ぎてて生活感がないって言うか……。
石田んちだって言うのが納得できるような部屋。
明日休みだし、泊まりに行っていいかって聞いたら、少しはにかんだ笑顔で、じゃあ夕飯の買い出しの荷物持ち頼むって言われて、大根やらキャベツやら買って、石田んちに来て、俺のリクエストに答えてくれて石田が夕飯に煮物を作ってる間、俺は生物とか勉強してて、石田が作った煮物がすごく旨くてお代わりして、結局全部平らげて、多めに作ったのにって呆れられて、それから石田が風呂入って、次に俺が風呂入って……。
んで、今。
普通……これから、そういう感じになること期待してる俺は、何か間違ってるんだろうか。
石田は本なんか読んでる……って何だ?
一応、両想いになってて、お付き合いして半月で……。
一応、両想いで、良いんだよな? 付き合ってるんだよな?
だから、甘えて見たんだけど……。
恋人以前に、お客様を無視かよ。
だから石田の邪魔するように後ろから抱き締めてみたんだけど……。
「なあって」
「……ん」
本に集中してんのか、生返事。
やっぱり、両想いだってのは月に一度、満月の日だけで、俺の血を飲んだ時だけ? やっぱり、石田って俺の身体目的だったわけ?
両想いじゃねえの?
一応、確認したよな?
俺は、別に月一で満足できるほど枯れてるわけじゃねえんだけど……。
惚れてる相手とヤりたいだなんて、悪いけど毎日なんだけど。いや毎日はさすがに時間的な制約とかあって物理的に無理なのはわかってるけど。
でも、吸血鬼だから石田が好きなんじゃなくて、吸血鬼だって石田だから好きなわけで。
血を飲んでる石田も、今の石田も変わらないのに……石田だって、俺の事好きだって言ったのは、俺の記憶が勝手に創作した妄想じゃないはずだ。
悔しいから、シャツの間から手突っ込んで、肌に触る。
「……っ黒崎! 何だ一体」
さすがに、驚いたようで、反応してくれたけど……。
「別にぃ」
冷たくねえか? 何なの? 俺、拒否されてる? 今お前の邪魔してるだけで鬱陶しいとか思われてたら、凹みたい。
一応、俺は、こいつの恋人だよな? そうゆう約束したわけだよな?
「今いいところなんだから、邪魔するなよ」
休みの前の日に遊びに来た付き合って間もない恋人より、お前は学校でも読んでた本の方が気になるわけですか。
俺も、ずっと惚れてて両想いになったばっかの石田のうちに来て、お泊りで、夜は長くてって、状況で石田を前にして、すごくいいところのはずなんだけど。
……やっぱりこいつ、俺の血だけが目当てなのかよ。
って、思いたくないけど、思わずに居られない態度……はやっぱり石田らしくてムカつく。
「俺もいいところだから邪魔すんなよ」
後ろから首筋舐めて、シャツの中に入れた胸を触って。
触ってる間に胸が固く立ち上がってきたから、指先で潰すようにしてみる。けっこう胸が感じるみたいだから、そこばっか触ってみる。
「っ……黒崎! やめろって」
うわ、けっこう傷つく。マジで拒否してるよな、この口調。けっこう鋭かったぞ。
「………」
なんか、がくりと肩が落ちた。
やっぱり俺ってお前にとって満月の日だけの存在かよ。
「……先寝る」
一応、泊まりに来たからさ。客用の布団なんかないし。なんかこのまま俺帰った方がいい?
俺、やっぱり邪魔か?
「……黒崎?」
「………」
布団かぶって壁に顔向けて寝たふりしてみる。
てめえがそんな態度なんだから、悪いんだって。てめえが悪いから、ちゃんと謝って来いよ。
「黒崎?」
布団をめくられたから、拗ねたふりしてみる。いや、実際拗ねてるんだけどさ。
「……その、ごめん。怒ったの?」
謝られた。
から、うっかり、拗ねてんの忘れて、石田の事見た。
ら、石田の顔、真っ赤。
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