今、石田、なんつった?
今の、俺の空耳か聞き間違い化妄想かのどれかでしかないと、思ったけど……石田は、俺を見た。
ちゃんと、俺を見てた。
赤い、目をしてたけど……皮膚の中の俺の血を狙ってるわけじゃなくて、俺の目を見てた。
「君が僕に血をくれるのは、僕に対しての同情でだって、それだけでも良かった……本当に、嬉しかったんだ」
「石田……」
「だから、君が血をくれないなら仕方ないけど……苦しいけど、今だって意識が飛んで君の首に噛み付きたいくらいだけど……でも、君が気持ち悪いから嫌だって言うなら諦めるから! だから……」
「おい、誰も気持ち悪いだなんて……」
そんな事が、あるはずなんてないのに……石田をいやらしい目で見る事はあっても、俺の欲求の対象として見ちまうことはあっても、気持ち悪いだなんて、思うはずがねえ。
「だから……僕を変な目で見ないでくれ」
石田が……。そんな事考えてたなんて、俺は、気がつかなかった。言われて、気が付いた……俺の態度が、石田に妙な誤解をさせてたって。
確かに俺だってガキの頃、幽霊が見えて他人と違うものが見えるって事で悩んだけど……
「気持ち悪いのは解るから! 僕だってこんな……吸血鬼なんて……」
吸血鬼の自覚持ったの最近らしい。そう言ってたし。
今まで俺がいないから大丈夫だったわけだから、最近自分が普通じゃないって気がついたら、こんな反応なんだろうか。
しかも石田だ。
感情があるのかないのかわかんねえくらいまで喜怒哀楽抑圧できて、理性だけで生きてるような石田だ。
自分があんな風に血を欲しがるなんて、自分が気持ち悪いって思ってんのかもしんねえ。自己嫌悪とか、無駄なことで悩んでんのかもしんない。石田なんて、常識と理性が服着て歩いてるような奴なんだから、きっと、もっと強い葛藤があったに違いない。
俺は吸血鬼じゃないからわかんなかったけど。
「石田……違うって」
石田をエロいって思った事はあっても、気持ち悪いだなんて、俺は思った事なんかない。
妙な体質で大変だとか同情する部分はあったけど、でも気持ち悪いなんか思ったこと無い。
結局、俺が死神だってのと同じじゃねえ?
「僕は黒崎に嫌われるの、嫌だ。僕を好きになってくれなんて望んでない。僕にそんな風に思われるのも気持ち悪いなら、もう二度と言わない。友達でいい。だから……」
「………」
「僕を……避けないで」
石田が……泣きそうな顔、した。
俺が一番、見たくない顔。
石田にこの顔されると、俺が泣きたくなる。
俺が泣きたくなる。
石田が悲しいのに、俺が何もできなかったんだって悲しくなる。
俺がお前の事、好きになったの、そんな顔が見たいからじゃない。
お前の泣きたくても泣けない顔が見たくないから。
俺が、守ってやりたくて……だから、好きになった。きっと、あの時、お前のあの顔見た時から、この感情は始まってたのかもしれない。
「違うって!」
「違わないだろう! 実際僕を避けていたじゃないか」
「違う! お前の事避けてたの、そんなんじゃない」
全然、違う!
根本から違う!
俺が、お前の事好きだから……
って、さっさと、言えば良かったんじゃねえのか?
「なんだ……そっか」
ポロリと憑き物が落ちたような気がした。
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20111225
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