「てめ、何で居んだよっ!」
石田が通行人に紛れて、影から虚を狙っていた。
場所は、駅前。
帰宅ラッシュ時につき、駅前は人でごった返してる。つまり、でかい攻撃ができねえ。虚はすぐに見つかったけど……どうする?
石田に駆け寄ると、石田はジロリと俺に一瞥を加えた。
石田は飛廉脚で人波を上手く避けながら、人に当たらないように動く。
「石田!」
駅前で、帰宅ラッシュ時に、これだけ人が居て、誰も石田に気が付かない。石田は生身なのに、人が気が付く以上のスピードで動くから、駅前の街並みはいつもと変わらねえ。
霊圧を上げて虚の注意を自分に引き付けながら、時々人目につかないようにしながら弧雀まで放ち、人気の無い方におびき寄せようとしていた。
「俺の事待ってりゃ良かっただろうが! 今日ぐらい家で大人しくしてろ」
具合、悪いんだろ?
今日満月だろうが。
もし石田が虚に気づいても、出てこれないと思ってたのに。
戦ってる場合じゃないくらい、具合悪そうだったのに。歩くのだって、ふらついてた。だから、戦える状況なんかじゃなかったんだ。それなのに……
隣を走りながら、でかい声で言っても、睨み付けられたけど、石田は無視を決め込んだように、何も言わない。
「てめ、無視かよ!」
横で怒鳴ってんのに、石田は俺の方を何度か見ただけで、やっぱりなにも言わない。
もしかして、今日のこと怒ってたりすんのか? いや、さすがにこんな状況で俺達が喧嘩してる場合でもないだろう。俺よか石田の方がその辺の打算は効いてるから、もし怒ってたとしても、俺と協力しないって事はないと思う。
石田だって、なるべくなら魂を滅却せずに返した方がいいって考えてるんだ。そのくらい知ってる。いつも、俺が来るのを待ってるから。
虚が攻撃を放つ。攻撃は衝撃波となり、俺達に向かって来たから、相殺できるだけの攻撃で威力を潰した。
が、相殺した衝撃で街路樹の太い枝が折れて人混みの中に落下し、悲鳴が上がった……が、怪我人は、居ないようだな。
高く跳び、駅のアーケードの上に着地した石田を追って、俺もそこに行く。
騒然としてる駅前の広場が一望できる。虚は、逆に人込みから俺達を観察していた……こっからじゃ、手が出せない。
「てめえ、無視してんなよ」
「うるさい! 僕の方が近かったから先に来た! 待ってたから滅却しなかった! 君は霊体だからいいが、僕は生身なんだ」
あ、そっか。
石田は生身だから喋ったら人に聞こえんのか。
今は、街路樹が折れた事で、駅前は混乱しているから、こんな場所に石田がいるなんて誰も気付かねえだろうけど、さっきまでだったら、俺の声は誰も聞こえないだろうが、石田の声は丸聞こえだ。
そっか。
無視されてたわけじゃないんだ。
良かった。
とか、こんな場合で安心してる余裕もねえけど……ちょっと安心した。
「……誘き寄せる」
石田はそれだけ言うと、弓を構えた。
ぴんと背筋の伸びた姿勢。石田が一つの武器になったように、石田ごと霊圧が白く光ってる気がした。
放たれた矢は、真っ直ぐに上手いこと人を避け、虚の足元に被弾する。
駅前の石畳が少し壊れる程度の、軽い攻撃だったけど……。
「っぶねえ。人に当たったらどうする気だ」
「当てるわけ無いだろ。君と違って僕は自分の矢の命中率には自信があるんでね」
「万が一って事もあるだろ?」
「僕に限ってあるわけない」
「んな事言ったって……」
「……黒崎」
続きの文句を言おうとしたら、石田は静かに俺を呼んだ。
虚が、俺達を見てた。
「……ああ」
石田が軽い身のこなしで、駅に向かい、線路に降り立つ。俺はそれに続いた。
線路を走る俺達の後ろから、虚が俺達の後をつけてくる。
俺達の脇を電車が通りすぎて行く。俺は誰にも見えないけど、石田のスピードも、きっと誰にも気づかれないはずだ。
でも、ここじゃ、まずい。
「高架下、川原で」
隣を走る石田はそれだけ、端的に伝えた。
俺も目指してんのは高架下。
確かに、あそこなら誰も居ないはずだ。
中学生の頃、ケンカで良くあの場所使った。陽も完全に沈んだこんな時間に、先客も居ないだろう。ちょうどいい場所があった。
「先に降りてろ、黒崎」
「ああ」
ひらりと着てたジャケット翻しながら、石田は振り返って俺たちの後を追ってきた虚に一撃を放つ。
虚が攻撃を避けようと後ろに飛び退いた。
その隙に、俺は線路から高架下に飛び降りる。
降り立った高架下は暗く湿っていた。
さらさらと流れる川音。
静か。
斬月を握り締めて、気配を伺う。
降りた先で待ち構える。
石田が、虚を誘導するから。
線路から逃げて、降りて来た瞬間を狙って……
放つ。
攻撃が虚にぶつかった……
断末魔の叫びを上げながら虚が消えた。
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20111214
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