【School Life 2】 04










 次の日。

 今日が寒いのは、気のせい? 電気がついてないような気がするけど、ちゃんとついてる。
 教室中がピリピリしてて……休憩中もほとんど誰も喋らない。

 明らかに、冷気の出所は黒崎。
 どす黒いオーラ出してる黒崎は石田の後頭部をガン見して、石田はそれに溜め息を吐いてる。のに、気付いているのってどのくらいいるんだろう……。

 霊感とかオーラが見えるとか特異な能力無いけど、明らかに、黒崎が発してるオーラが教室を冷やしてるのは解る。

 みんな黒崎と石田が険悪な雰囲気なのには気付いていると思うけど、まさか痴情のもつれとかを疑う人はいないはずだと思うけれどとにかく……明らかに、何かあったわね。
 今日は空気の読めないような浅野すら、黒崎に声をかけるのを躊躇ってるくらいだから。





 3限目は視聴覚室で、人体のビデオ鑑賞だった。4限目が始まる前にペンケースがないことに気付いて、さっきの視聴覚室に忘れたようだったから、視聴覚室に取りに行ったら……。





「だから誤解だって言ってるだろ? 最近入部したから次の作品の買い物に付き合うだけだよ」

 中から話し声がした。
 この声は……石田。話相手は……この話からすると……。

「だからって、相手はそうとは限らねえだろ?」

 やっぱり黒崎………。

 昨日のあの事で良いのかしら。きっと、あの事の話題でしょうね。女の子と石田。石田の話ぶりからすると、告白されてたわけじゃなかったのね。

 結局昨日は決着つかなかったのね。ご愁傷さま。


 それにしても、新しく入部って……この時期に?
 それは間違いなくアンタ狙いよ。意外と人気あるのよね、このモヤシ。私は不良と喧嘩してる石田を見た事あるけど、見た事なかったら、殴られたら吹っ飛びそうな石田のどこが良いのかしら? やっぱり成績かしら。
 頭が良すぎる奴は扱いにくいって、誰か教えてあげた方が良いわよ。


「彼女が? あり得ないよ」
「何で解るんだよ」
「解らないけど、でも違うと思うよ」

 いや、多分石田狙いじゃないの?  この時期に入部だなんて。昨日見る限り、女の子、顔赤かったし、なんだか必死そうだったし。


「だからっ! てめえは危機感無いんだよ!」

 多分黒崎の危機感はたぶん的中してるから納得しそうになったけど、、女の子に好かれることに危機感って言葉、普通使わないんじゃないかしら。むしろ普通はモテる為に努力すんのが正しい青春だと思うけれど……。

 黒崎、頭が沸いてるわ。



「万が一にそうだとしても、君が僕を信用してくれてれば問題ないだろ」
「だからって、不安なんだよ」
「君は僕を信用してくれてないの?」

「……してるけど……」

「だったら問題ないよね?」

「……でもさ」


「黒崎……僕は君が好きなんだ。ちゃんと覚えていてくれよ」

「石田……」

「もし彼女が……誰が僕を好きでも、僕は君だけが好きだよ」




 限 界 ……


 何で私がここに居ないといけないの!? 何でここに居るのが私なの? 何で今日に限ってうっかりペンケースなんて忘れちゃったの?
 あああまた私は現場を目撃してしまうのかしら! 見たくもないのに。
 いや、今回は見てないけど、扉一枚隔てた向こう側でのやり取り聞いてるだけだけど………!

 でも、今扉の向こう側でどんな事態が起きているのか、想像できる。いや、想像したくない! 誰か今私の頭の中に出てきた映像消してっ!


 なんで、またっ!
 何でまた私が現場に遭遇しなきゃなんないの?
 なんで、本当にペンケースなんて忘れちゃったのよ! 今日朝星座占い見てこなかったけど、最下位だったのかしら。





 私は耐えきれなくなって………今回も逃げた。



 ただ、逃げる前に、隣が階段だったから………その場に誰もいなかったから。

 廊下中に響き渡る音を立てて、扉を思い切り蹴りつけてやった。















「国枝さん」

 教室に戻って数分後、無表情の石田が、私の席まで来た。ぎくりと背筋に冷たい汗が流れたのを感じた。
 私は全力で走ったのに……もしかして、私の後ろ姿でも見られたのかしら。

 いや、ありえない。そんなはずはない! すぐに逃げたし、扉も締まってたし。私はただ中の話聞いちゃっただけで、誰かが外に居るのは私が扉蹴りつけたから解ってると思うけど、それが私だってバレるはずなんてあるはずがない!

「これ、忘れ物」

 石田はそれだけ言って、ペンケースを机に置いた。
 あ、コレか。コレでバレたわけ。いや、ペンケースと私を結びつけたりしなくてもいいけれど……いや、別に見たってことを咎められたわけでもなく、私のペンケースがあったから持ってきてくれたってだけね。
 良かった。
 見たの……というか、あの現場を聞いてしまったのを私だってバレたら色々気まずいというか……いや……見てない。私は何も知らない。

 だから、いつも通りでいい、はず。


「見覚えがあるペンケースだったから。国枝さんのだよね」
 石田は、いつもの無表情で、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。

 あ……ばれてない。ような気がする。
 成績順に委員長みたいな仕事を任されてしまっていたので、当然私と石田がいろいろと担任から雑用を仰せつかることも多いわけで……まさかクラス約四十人全員のペンケースを覚えているはずはないけれど、私のは別にその辺で売ってる誰が持っててもおかしくない普通の物だったのに……良く覚えていたわね。

 でも、ばれてないならそれでいい。






「僕も少し頭に血が上っていたから……ごめん」


 あ、やっぱり扉蹴ったの私だってバレてた、らしい。





「……あら、アリガトウ」

 アリガトウに、私が込められる全力の嫌味を込めた。

 別に扉蹴ったの私だって石田にばれたって何も困らないけどね!

 別にオトリコミ中に扉を蹴ったのが私だってばれたって、私は全然かまわないけどね!

 見られて困るのは、学校なんかで非常識にいちゃついてるアンタ達だけどね!














20111125