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「ただいま」


 ボロボロだ……。

 帰ってきた石田を見ての感想。
 転んだのか投げられたのか。着てた服の袖破けて、擦り傷作って、顔も怪我してなかったみたいだけど汚れてた。

 さっき、石田んちで一緒に飯食ってたら、虚が出た。


 石田が顔を上げたから、それが合図だって解ってた。行くななんて、俺に言う権利もない。俺も行くなんて、そんな足手まといになるようなことはしない。
 授業中抜ける時にノートはとってるけど、俺にできることってそのくらいなんだ。

 石田が出ていって……普段だったら飯が冷める前には帰ってくんのに……。強いから、石田。あれから腕を上げたとかわかんねえけど、俺が今までやってた量をこなしてるから、腕は鈍ってるはずはないだろう。細い身体で、少食で、それで生身で虚と戦ってる毎日。
 強くなったのかもしんねえ。強くなっても、俺にはもう何も関係ない。

 石田は何も言わないし俺も訊かない。虚が出たとも言わないけど、行ってくるとだけ言えば、俺もわかる。訊きたいけど、訊いたってどうにもならない。

 今日も……だから俺は、石田が帰ってくるまで待ってる。

 でも、今日は二時間しても三時間しても帰ってこなくて。寄り道なんてする奴じゃねえし、何かあったとしか思えないけど、俺にできることは信頼してここで待ってる事ぐらい。その間、俺は何にもできなくて、ただ石田んちで飯も食えなくて。どんどん冷めてくカレーライスを前に、テレビを付ける気にも勉強する気にもならなくて、ただ俺は石田を待っていた。
 探しに行ったって、どこに行けばいいかも解らない。もし場所を事前に聞いてたとしても、移動されちまったらもうわからない。今どこで何してるのかとか、生きてるのかすら解らない。

 何にも、感じない。
 なんも感じねえし、なんもわかんねえ。

 霊力あっても霊圧見たりすんの苦手だったけど、うっすらとは感じることができた。虚がいて、消える。強いか弱いか。そんくらいは、何となく解った。


 何にもわかんねえ。

 今は、ただ静かだ。家の下を通った車の音とか、塾帰りの学生の喋る声とか、聞こえてきたけど……静か。何も感じない。
 ただ、俺は石田の帰りを待つだけしか出来ない。



「お帰り」

 お前が、どんなのと戦って怪我して、こんなにボロボロになって、どんな風にやられてどんだけ苦しかったとか、痛かったとか、もう解らない。



「黒崎、お腹空いた」
「先に手当てだろ? 消毒ぐらいしろよ」
「……別にいいよ、このくらい」

 俺は、何にもできねえ。
 石田が傷つくの、止めることもできねえ。やめろなんて、言えない。



「黒崎、変な顔してる」
「うっせえ。生まれつきだ」

 何にも、できねえ。

「ねえ、黒崎」
「あ?」

「やっぱり、手当てよりも先に、甘えていい?」

 こいつは、今俺が何考えてんのかなんて解ってんだろう。今俺がどう感じてるかなんて、きっと解ってる。

 石田は俺の首に腕を回して少し息を漏らした。

 擦り寄ってくるこんな態度、昔はしなかった。

 力がなくて、護りたいって思ってる石田ばっか傷ついて怪我して、でもどうしようもなくて。
 力を無くした事を後悔してる訳じゃねえけど、歯痒くて掻きむしりたくなる。

 そんな俺を力づける言葉も慰める言葉もどうせ用意なんてされちゃいない。

「黒崎……」
「ん?」

 そんな俺がいいって、言ってくれてる。石田は俺がいいって言う。

 それでも俺は石田に何もできない。

 

 俺が悩んでるの、石田にも伝染させちまってる。だから、こんな態度なんだろう。

 好きなのに、こんなに好きなのに、俺はこいつが怪我したって死にそうな目にあったって、俺はその時に背中を護る事も隣にいることも出来ない。

 俺は、何もできない。




 俺は、石田の背中に回した腕に力を込めることすらできなくなっていた。




「ずっと僕のそばに居てくれ」


 ずっと、お前がそばに居てほしいから。





 俺は、それだけじゃ嫌なんだ。






















うわああ、なんか、テンションパーンてなって読んで速攻20分で書き上げてみた。

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20101101