絶頂に達した直後の身体は重力を強く感じて、深くベッドに沈んだ。
黒崎は、躊躇いなく、僕のを口に含む。最初の時からだ。黒崎は、僕に与えようとする。快感も優しさも、全部黒崎の持てるものは僕に渡そうとする。僕が必要としていなくても、黒崎は僕に与えたがる。
「……黒崎」
「ん?」
「気持ち悪くないの?」
黒崎は少し不思議そうな顔をしてから、優しい笑顔を作った。
黒崎のこんな表情、僕は今まで見たことがない。
きっと誰も見たことがない……僕にしか見せたことがないだろうと思えるような、甘い顔。それは、多少の優越感にもなった……それ以上の罪悪感も抱えながら。
「お前が気持ち良くなってんのとか、俺が気持ち良くさせてんの、すげえ興奮する」
黒崎は僕の上から覗き込む。僕に体重をかけないようにして、腕の中に閉じ込める。黒崎の体温。僕の体温は低いわけではないはずなのに、とても暖かくて、安心できる。その温度に安心する事を僕は厭う。黒崎の不利益の好意は僕には辛かった。
「石田……いい?」
黒崎は優しい。
時間をかけて丁寧に僕の身体を解していく。
僕に一切の苦痛を与えないようにして、快感だけを引き出すように僕の身体を壊れ物のように扱う。
一護はそんな事しなかった。
一護は、どこまでも自分本意に僕を扱った。向けられた感情は痛みを伴うほどに強くて、だけどそれが僕には心地よかった。一護とは与えられるのではなく、奪い取られるようなセックスをした。
僕にはそれがちょうど良かった。一番気持ちの良い温度だった。
……こんなに黒崎とずっと一緒にいるのに、僕はなんで一護に会えないんだろう。
一護に、会いたい。
僕は優しくなんか、されたくないんだ。優しさを必要としていない。
優しくされると、困る。
僕にはそんな価値はない。黒崎の優しさは僕の罪悪感を喚起する。
「……別に、」
黒崎だって勝手にすればいいんだ。
好きに僕を扱ってくれれば……そっちの方が楽なんだ。僕は何も考えなくて済む。結局は僕は僕が可愛いから、君を嫌う為にはその方が有り難いのに、黒崎はこんな時も僕を気遣う。
勝手にすればいいのに。
だってそんな事じゃ、君を嫌わない。
最初っから僕は君が嫌いなんだ。
憎悪より罪悪感の方が、言い訳を必要とする分、苦しい時だって在る。黒崎が憎くて、嫌悪している時の方が楽だった。その感情だけで良かった。
黒崎を、ただ嫌いだと思って居たかった。
「……嫌なら、こんなことしないよ」
勝手にすればいいじゃないか。
僕は黒崎の顔を見たくなくて、見れなくなって、横を向くと、さっき脱がされた制服が脱ぎ捨ててある。ああ、シワになってしまう。
僕の部屋。
僕の居場所。
いつもの部屋。
そこで、僕は黒崎と裸になって抱き合って……。
何、やってるんだろう。
僕は何がしたいんだろう。
何も見たくなくて目を閉じる。全て、閉ざしたくなる。何も考えたくない。僕はどこに居るんだろう。
「へえ、嫌じゃないんだ?」
ざわりと。
全身が総毛立つ感覚。
自分の部屋なのに、僕の空間ではなくなった。
ざらついた空気が、肌を撫でる。
鳥肌が立つ。
「雨竜は、嫌じゃないんだ?」
「…………」
黒い、闇の色をした目が僕を映した……。
「お前は、俺じゃなくて良いんだ」
僕は、本物かを確かめたくて、手を伸ばす。その、顔に触れる。
黒崎と同じ顔。
黒崎と同じ体温。
黒崎なのに……。
………僕の上に居るのは……。
「……雨竜」
「………一護…」
一護が、居たんだ。
「雨竜」
呼んで欲しかった。
一護に僕の名前を呼んで欲しかった。
僕を確認して。
認識して。
僕は君に必要とされたい。
「……なんで俺じゃなくて」
一護の霊圧は痛い。黒崎と同じ霊圧なのに、何故か肌を刺すように、痛い。
僕は、一護を抱き締めた。強く。抱き締めた。
僕の心を力に出来たら、きっと圧着している。そのくらいの力で抱き締めた。
「一護……っ」
苦しい。
怒りの感情が彼の霊圧となって襲われる。潰されるような圧迫感を伴い、僕は肺呼吸すら難解になる。
会いたかった。
会えて嬉しくて苦しい。
「なんで俺以外に触らせてんだよ!」
霊圧だけじゃなく、その声音の震動で、一護の感情が伝わってきた。
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20110805
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