何回目?
僕達はこうやって、何度抱き合った?
僕が、一護を至上の価値とすれば……最低でも黒崎よりも一護を大切だと認識すれば、僕は僕自身を一護に認めてもらえる。そんな暗黙の契約が僕達には成り立っている。
黒崎の意識が落ちて、一護の意識が浮上してくるのが解ると、僕は一人になるようにした。一護は僕の霊圧を探して僕を見つけた。
放課後誰も居ない教室、誰も部活に来なかった被服室、使われない階段、裏庭校舎の影、使われていない教室……他には?
僕達は他には何処で触れ合った?
誰か見られるかもしれない。人の気配は途絶えることはない。誰も居ないなんて、そんな事ない。一護の霊圧で、誰も近寄ろうとはしないだろうけれど、僕は一護と学校で抱き合った。
一護の手が、僕の皮膚を滑る。
心臓の上に、彼の手が乗る。
このまま……本当なら心臓をあげたってかまわない。
触れられるだけで、歓喜に心が震える。
「なあ、どうしたい?」
耳の中に声を吹き込まれると、頭の芯が溶けるような気がする。常識とか、理性とか、そんな僕の僕として機能させている中枢部分を溶かされる気がする。
「どんな風の、吹き回し?」
いつも、どうせ僕の身体を勝手に扱うくせに。
僕が悲鳴を上げて泣いても、許してくれないくせに。
僕がどんなに嫌だと懇願しても、笑って見ているくせに。
どんなに恥ずかしい事も強要するくせに。
「今日はそんな気分なんだよ」
「ふ……ぁ…」
耳朶を口に含まれて、皮膚が粟立つ。一護の声が僕の耳から脳の中まで入ってくる。
「して欲しい事してやるよ」
して欲しい事?
どうされたい?
僕は、どんな風に彼に抱かれたい?
本当は……こうやって触れ合うだけでもいい。一護が僕に触れているだけでいい。霊圧にくるまれているだけでいい。
でも……それじゃ足りない。
それじゃ足りないんだ。僕は足りない。もっと強く感じたい。強く、僕を彼に刻みたい。
抱いて。
そう、言えば伝わるのだろうか? 僕がして欲しい事は、その言葉で一護に伝わるのか?
抱いて欲しい。でも優しく抱いて欲しいわけじゃない。僕達は、そんな甘い関係じゃなくていい。
僕は、彼に強く抱かれたい、激しくていい。僕が壊れてしまうような抱かれ方が好きなんだ。壊れてしまいたい。
一般的な愛し方なんか、僕は知らない。
第一、愛し合っているだなんて、おかしい。好きなんだよ。愛しているわけじゃない。ただ必要なんだ。
感情じゃない。ただの執着だ。同じ温度の心と混ざり合いたいだけ。一つで完成出来ない物なら、二つ混ざればいいだけなんだ。
愛し方とか、要らない。
そんな知識も必要ない。愛とは何だって? 哲学や宗教学なんか暇人がする事だ。
そんな事をやっている時間なんか無いんだ。
「だったら……命令、してよ」
君が、一番気持ち良くなればそれでいい。
僕は、支配、されるのが、気持ちいい。
僕を束縛されるのがいい。
主導権を彼に明け渡して、素のままの僕を見て。
服従して従順にしているのが好きだ。
支配受ける事により、彼が隅々まで浸透する。
「変態」
「お互い様だよね」
君も足りないから、僕で補えばちょうどいい筈だ。
「じゃあ……」
彼は、少し考えるふりをして、僕の瞳を覗き込んだ。
「まずは、脱げ」
「……ここで?」
「ああ。全部」
………ここで?
学校で?
「雨竜の裸、見せてくれよ」
一護は僕の頬にキスをした。
柔らかく、優しく、そんなキスを僕の頬に落とした。
僕は、ボタンを外す……。
逆らえないのではなく、僕は逆らう気がないだけだ。僕が何をしようとしているのか、そのくらい解っている。こんな所で、服を自分で脱ぐだなんて……それでも、僕は一護の言う通りにしたい。
一護は、僕の様子を楽しそうに見ていた。
抱き合ったまま、僕の中に一護を感じたまま……ずっと、こうしていたい。このまま、ずっと。
「何で、僕だったんだ?」
最初の時、僕はその質問をした。
「………」
『腹の中の温度が、俺と一番近そうだったからな』
ちゃんと、覚えている。そう一護は答えた。
今でもそう思っていてくれるのだろうか。僕と一護の共通点は、きっとそれだけだ。だからこそ、大事な繋がりだと思ってる。
一護はその言葉をちゃんと覚えていてくれるのだろうか……。
抱き合ったまま、肌を重ねて、一護の体温が、暖かくて気持がいい。一護の肌が好き。
「一護が見てたんだ、雨竜を」
返事は、予想外だった。
「……黒崎、が?」
「あいつが欲しかったものを、先に俺が手に入れれば、俺は俺を手に入れられるような気がした」
……黒崎は、関係ないだろ? 何で僕達の関係に黒崎が入ってくるんだ?
その、不満は正当性がない事は解っている。
この身体は、黒崎のものだ。
そして、一護も、黒崎と同じものだ……。
関係がないはずがない。だけど、僕達の間に黒崎は入ってきてもらいたくなかった。黒崎の事を考えたくないのに……。
でも……僕も、黒崎を見ていた。
羨望などしたくはない。ただの妬みだろう。いやな、感情だ。
僕も、ずっと黒崎を見ていた。
僕はきっと、どこか黒崎に憧れていたのだろう。でもそれを認めるわけにはいかない。今も認めるつもりはない。
強い、黒崎を見ないわけにはいかなかった。黒崎は、明るい太陽の日差しのようで、僕はそれに陰る。一番見たくもない自分を見せつけられてしまう。
だから、嫌い。
僕は、黒崎になりたかった……そう言うと御幣が在るけれど、僕は黒崎のような強さが欲しかった。
「じゃあ、きっと僕と同じだ」
きっと僕は、一護が黒崎だけれど黒崎じゃないから許せた。他の誰でも許すことなんてしなかっただろう。僕は、黒崎じゃないけれど、一護を手に入れた。
「今は?」
もう、手に入ってしまった今は?
もう、僕は君にとって興味の対象から外れてしまうんだろうか?
「俺が……一護じゃなくて、俺がお前を手に入れたんだ」
背に回された腕の力強さは、僕が欲しかった答えだと思ってもいいのだろう。
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20110719
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