風邪を引いた時看病しながら 02










「お邪魔しまーす…」
 万が一寝てたら、起こしたくねえから、小声で一応一言断って入る。


 ……石田は寝てた。

 けど……、なんか……違和感。違和感覚えるほど、石田のことよくわかんねえけど……でも


 あ、そっか眼鏡。

 そう言えば、さっき俺が来た時は眼鏡してたけど、今は外して寝てる。普通、そりゃ、眼鏡かけたまま寝るはずねえよな。
 石田の素顔、初めて見る。
 石田の寝顔、見る。






 ………なんか、整った顔つきしてる。って、今初めて知った。

 睫毛は意外と長い。

 意外と、綺麗な顔だった。


 横向いて、こっち側に顔向けて寝てるから、なんか、今する事ねえし……つい、観察してみる。こんなにちゃんと石田の顔見たの初めてかもしんねえ。

 男のクセに、長い横の髪が頬にかかって、ちょっと邪魔そう。変な髪型しやがって。

 やっぱ、呼吸苦しそうだし。

 さっき、抱えた時に……本当に薄い身体してた。内蔵とか、俺と同じように詰まってんのか? って、不安になるぐらいだった。いや、学校で見る限りでも細い身体してんのはわかってるけど。実感したってか…



 そろそろ起こして、せめて薬だけでも飲ませないと。
 辛そうだし。


 解熱剤と、スポーツドリンク、冷却シート、とさっき買ったレトルトお粥と桃缶をテーブルの上に並べてた。





「……くろさき…?」


 ふと、うわ言のように、石田が俺の名前を呼んだ。

「お、起きたか?」

 振り返ると、石田が充血した目を、ぼんやりと開いて、俺の事見てた。


「………黒崎?」
「? ああ、そうだけど」
「……黒崎、何で居るの?」
「何でって…、居ちゃ悪いかよ」

 てめえのために、薬買ってきたんだよ。

 って言いたかったけど。
 何か、石田のクセに、俺が見たこともないような、不安そうな表情してて、文句言う気もなくした。


「少しは食えるか?」
「……うん」

 すぐに薬飲ませて熱下げさせねえと、って思うけど、少し、胃に物入れた方が効きが良いから。

「ちょっと待ってろよ、今用意してくるから」

 軽く手の甲で頬を撫でてやると、少しくすぐったそうに、石田は笑った。



 勝手に台所漁って、適当な器見付けて、レンジで暖めて、スプーン見付ける。
 勝手のわかんねえ初めて来た他人の家の台所だから、かなり手間取ったけど。



 うっかり、遊子や夏梨と同じように顔触っちまった……。
 だって、あんな事して、石田の事だから、子ども扱いするなとか、馬鹿にするなとか、そういう苦情が返ってくるんだと身構えたけど……絶対なんか文句言われるって思って、一瞬慌てたけど………拍子抜けするような反応だった。
 笑ったし、石田。



 手間取って時間かかったけど、レトルトのお粥持ってくと、石田はぼんやりと目を開いていた。

「起きれるか?」
「…うん」

 身体を起こしたけど、やっぱり少し苦しそうだし。テーブルまで来させるの、気が引けるから、そのまま器を渡した。トレイになりそうなもの探したけど、よくわかんねえ。

「熱いから気を付けろよ?」


 一応、石田は、器とスプーンを受け取ったけど……手付きが、危なっかしい。
 布団に器を置いて、スプーンで救って、食べようとしてる、そのスプーンを持つ手が、なんか覚束無いっていうか……見ててハラハラするってゆーか……もどかしい。


「貸せ!」


 堪えかねた俺は、石田から器とスプーンひったくって、少し息吹き掛けて冷ましてから、石田の口元に持って行く。
 口元に粥を突きつけられた石田は、少し驚いた表情で、俺の事見てた。

「………黒崎、なんか、食べにくいんだけど」
 そこで……反応されると俺も恥ずかしいんだけど……何も言わず食ってくれりゃ、俺だって百%看病してる気分で終われると思うのに。

「いいからとっとと食え!」
 有無を言わせないで、俺はスプーンを石田の口元に突き付ける。


 と、石田が俺に少し何か言いたげな視線を投げてから、小さな口を開いて、俺の持ってるスプーンに食いついた。

「……………」

 ………………。

 何だろう。

 いや、何でもねえけど。でも、何だろう。



 ガキの頃、どっかの動物園の触れ合いコーナーで、ウサギに餌をやって、俺の手からキャベツ食べてた時の感動のような……。



 嬉しいって言うか。可愛いっつうか……。


 お粥なんだから、飲み込むような流動食一歩手前なのに、なんだか口動かして、飲み込むまでじっと見てた。



 いや、石田だぜ、これ。
 可愛いげなんかどこ探したって無い奴だぜ?

 って思うけど。


「黒崎?」

「あ……いや」

 可愛いって思った何て、言えるわきゃねえし。

「熱くなかったか?」
「うん」

 俺は、また石田の食事を再開させた。掬って、少し冷まして、石田の口元に持って行く。今の俺なら、三十秒で食いきれるような量を、時間かけてゆっくり。

 半分ぐらい食べた所で、石田がもう食えないっつうから、薬飲ませた。




 あとは……着替えだけど、いくら何でも気まずいってゆうか。

「着替えのパジャマ、どこに入ってる?」
「そこのタンス。上から三段目」

 言われた場所から、適当なパジャマと下着出して……。

「タオル持って来るから、汗拭いて着替えろよ?」
「……うん」

 とりあえずタオル探して……。





 ……何だよ。
 何で、石田が、素直なんだ? 石田と素直はイコールで結ばれることは絶対にありえないと思ってたのに。
 いつもイエスかノーの質問しただけだって、挙げ足取るような第三の解答持ってくる奴が、何でこんなに素直なんだ?

 うん……だって。

 普段だったら、君に言われなくても、とかこっちがカチンと来るような言い方しかしねえ奴が……。

 ……風邪ひいてる石田は素直で可愛い。
















090702