風邪を引いた時看病しながら 01










 朝のHRで出欠確認した時に、ようやく、来てないのに気付いたくらいだけど。

 まあ、一緒にルキア助けに行ってみたり、一緒に戦ってみたり、多少の縁はあるわけだから、見舞いにでも行った方が良いのかなとか、何となく思ったけど、別に仲が良いわけでもないし。
 仲が良くねえってか、あっちが話しかけようとすると睨んできたりするから、仲良くなりたくねえって言われてる気がするから……なかなか仲良くなれねえ。
 でも、せっかく一応、仲間として戦ったわけだし、見舞いぐらい……。



 とか思ってたら。
「月曜日までに提出の三者面談のプリント、日直、届けてやれ」
 って俺じゃん。
「石田と仲良いだろう?」

 って、言われて……良い程良くもねえけど、でも、俺以上に仲良い奴がいるなら見てみたいってぐらい、俺ですら仲良いって思われるくらい、石田の交友関係は皆無だった。
 誰かと話してるとこを見ることすら稀だ。丸一日一言も喋んないで帰る日だってざらなんじゃねえの? とか、無用な詮索までしてしまう。手芸部員らしいから、まあ部活で仲良い奴もいるだろうけど、知らねえし。いや、石田が誰かと仲良さそうに喋ってる姿を想像できねえ。

 まあ、住所教えて貰ったけど。一応遠いけど徒歩圏内ギリギリ範囲。
 まあ、クラスじゃ多分一番仲良い……ってのも語弊があるけど……かもしれない、から。
 見舞いにも、行こうかとかチラって思ったし。






 風邪っつうと、桃缶か? 一人暮らしだって、聞いたことあるし。風邪ひいてりゃ、一人じゃ買い物にもろくに行けねえだろうから、レトルトのお粥と桃缶買って……。










 たぶん、ここで良いんだけど。

 なんか……ボロアパート。築年数骨董級。

 いつも姿勢真っ直ぐ伸ばして、風貌もあんなんで、いいとこのお坊ちゃん然としてたから、似合わないってゆうか……まあ知らねえんだけど。
 表札も特に出てなかったから、扉の前でしばらく……時間にして二、三分、立ち往生してた。


 ら、突然。

 顔面すれすれの動線で、扉が開いた。
 いや、肩に打撃が来た。

「ってぇ」
「………何、やってんだよ」

 いや、そこゴメンだろう? ぶつけてごめんってとこじゃねえの?

「今、ぶつかったんだけど」
「人んちの前にずっと居るだなんて、不審者だろ? 迷惑なんだよ」

 何で俺がしばらく玄関に居たのわかんだよって。思ったけど。ああ、そっか霊圧。

 出てきたパジャマ姿の石田は、なんかいつもと雰囲気が違った。パジャマだったし。
 そりゃ寝てたんだろうから、パジャマだっての当然だろうけど。
 いつもと違う服着てるから……って寝る時に制服着てるわけねえし、変な滅却師のコスチュームだって着てるわけねえけど。なんだか、変な気がした。
 別に普通の青地のチェック柄のパジャマらしいパジャマだったけど。


「で? 何? まさかお見舞いとか殊勝な事言わないよね?」
 風邪ひいてても、憎たらしい口調は健在だったようだ。

「………届け物」
 の、ついでに一応見舞い。って言葉はムカついたから飲み込んだ。
「………そう」

 なんか、風邪だってだけあって、マジで具合悪そうにしてた。
 ちゃんと食ってんのか心配させられるほど、いつも白い顔しやがってって、思ってたけど。

 なんか、今は顔が赤い。唇は、カサついてて、目も充血してる。
 具合悪そうだな……。うちに来る風邪ひいて熱出てる患者さん、こんな顔してる。


「はい」
 石田が、手を俺に差し出した。
「は?」
「届け物って言ってたよね?」
「ああ、そうだ」

 忘れてた。いや、そんなに忘れてねえけど。
 鞄にとりあえず突っ込んだから、どこしまったけ?
 さっき買ったビニールが邪魔。なんかムカついたから渡すの躊躇うけど、でも持って帰っても仕方ねえし。

「ちょっと持ってろ」
 って押し付けて、このまま忘れた振りして帰っちまえばいいか。

「何?」
「ああ、三者面談のプリント」
「要らない」
「は?」
「必要ない。持って帰って棄てて。じゃあ」

 って、それだけ言って石田は俺の渡したビニールを、俺に押し付けて扉を閉めようとした。
 けど……

 ちょっと待て。
 いや、必要ないって、石田がどう処理すんのかは石田の勝手だけど、俺は渡しに来たんだから任務を全うさせろ。

「おい、石田っ!」
「わざわざアリガトウ。じゃあね!」
「てめ……」

 扉を閉めようとするから、俺はドアノブ掴んで開けようとして、ドアで引っ張り合いなんかを繰り広げて……。

「うおっ」
 ふと、石田が急に手を離したみたいで、全力で引っ張ってたから、うっかり転ぶところだった。

「てめ、なにす……」
 んだよ、って、最後まで言えなかった。


 扉の隙間から……石田が俺に向かって、倒れてきた。


「おい、石田?」

 ぐったりと俺に体重を預けて……熱い。

「………ごめん」

 石田がフラフラしながら、俺から身体を離そうとしてたけど、かなり辛そうだった。
 いや、具合悪そうだって思ってたけど、熱けっこうあるぜ、これ。熱い。

「大丈夫か?」
「………ごめん……」

 石田が、俺の肩につかまって、俺は鞄降ろして石田の身体支えてやってるけど……熱い。薄い布越しに、石田の体温が伝わる。

「お前、今何度だ?」
 石田の額に手を当てて、みるけど……八度は越えてる。


「さっき計った時、九度一分」

「………馬っ鹿野郎!」


 で、そんなんで、わざわざ出てきて、俺と全力で扉引っ張り合ったりしたわけか? 馬鹿か?

「ちょ、黒崎っ!」

 制止の声なんか聞く耳もたねえ。

 俺は石田を横抱きに抱えて、勝手に石田宅へ上がり込む。


「黒崎、降ろせ」
「布団にな」
「勝手に、入るなよ」
「やかましい!」


 整然としたワンルーム。

 ベッドと、テーブルにグラスが置いてあって、倒れてた。あんまり水が入ってなかったみたいで、それでも零れてたけど被害は少ない。拭いてやんねえと。


 とりあえず、ベッドに降ろして、上から布団をかける。
 石田が、気まずそうに布団をかぶって俺のこと見てた。


「薬は飲んだのか?」
「………」
「おい」
「………解熱剤の買い置きが、一昨日、飲み終わったから……」

 それから、薬も飲まずに高熱と戦っていましたって言うわけか? 馬鹿か?
 いや、一人暮らししたことねえから、こんな時に誰にも頼ることができないとなると、やっぱ厳しいな。友達ぐらい作れよ。


「飯はなんか食ったのか?」
「………」

 この反応じゃ、食ってねえな。

「じゃあ、俺薬買って来るけど、あとなんか要るか?」
「……喉、渇いた」
「了解。んじゃ薬とポカリな」
「黒崎」
「ん?」

「……ありがとう」

 石田は、少し目を細くした。







「別に、気にすんな」






 俺は石田を安心させるように笑顔を作って、石田んちを出て、薬局に向かう。











 ………びびった。
 マジでびびった。

 石田が、あの石田が! 俺にありがとうだって。嫌味で使われることぐらいはあったけど、さっきのは、本当に誠心誠意の石田の感謝の言葉だって受け取っていいような気がした。いいよな?
 布団を鼻先までかぶって、目だけこっちに向いてたけど、表情見たわけじゃねえけど、それでも、なんか……微笑んでた気がする。のは、俺の思い過ごしか?

 にしても……細かったな……。
 ぶつかった時の肩とか、支えた時のわき腹とか、俺だって別に太ってる方じゃねえけど、それにしたって……。日ごろの不摂生がたたったんじゃねえのか? ベッドに運んだ時だって、軽かったし。いや、軽いっても、男なんか抱え上げた事初めてだから、一般的なのかも知れねえけど。俺の筋力上がったんだろうか。

 あと、かなり、しっとりしてたから、寝汗かいてたみたいだから、着換えさせねえと。布団も薄かったけど、もう一枚毛布とか、ねえかな。

 一応、一般的な市販の解熱剤買って、薬屋でスポーツドリンク3本ぐらい買って、アイスノン買って。ついでに自分が腹減ったから、コンビニでパンいくつか買って。


 鍵開けっ放しだし、少し小走りになりながら、石田んちへ向かう。















090627