「……黒崎?」
黒崎は、僕の型に頭を乗せたまま、溜息をついた。
何だか、変な事を言った。君が死ぬかと思っただなんて、変だ。君は、一撃で虚を倒したじゃないか。
「お前が、やられてるの見て……怖くなった」
「………」
「お前が、万が一、居なくなったらって……」
黒崎が掴んだ左腕が……傷には触れていないけれど、強く握られて、痛かった。
「怖くなった。お前が居なくなると思ったら、心臓潰れちまう気がした」
「……悪かったな」
弱くて、僕が強くなくて。力不足は、自分が一番自覚している。
「石田」
「何だよ」
「俺……きっと、お前が好きなんだ」
「……………………は?」
急に、場をわきまえない黒崎の発言に、僕は間の抜けた声を出した。好きだって言われたような気がするのは気のせいだろうか?
「お前の事、なくしたくないって思った」
「気に入ってくれて光栄だね」
共闘できる仲間として、僕を認めてくれているんだとしたら、それは、例え死神と滅却師という仲であっても、嬉しい事だ。死神だったとしても、僕も黒崎の能力は認めている。認めざるを得ない。
「お前が、好きだ、石田」
「ありがとう。放してくれないか? 痛いから早く帰って傷の処置をしたいんだ」
「石田、好きだ」
「…………黒崎?」
何か、様子がおかしい。まず、意志の疎通が量れて居ないように思うのは、気のせいだろうか。
僕の肩に、額を押し付けるようにして。霊体でも、圧力かけられたら、それなりに重いんだ。
いや、嫌いだと言われるよりは嬉しいとは思うけど、こんなに連呼されると……。
「お前が、好きなんだ」
「君、変だよ。まるで愛の告白を聞いているみたいだ」
「だから、告白してんじゃねえか」
「……………は?」
再び、僕の声は間が抜けた。
「好きなんだって言ってんだよ。お前が! 今、お前が死にそうになってんの見て、気付いた。お前が殺されたら、俺が死ぬ。お前が居なくちゃ駄目なんだ。だから、お前が好きだ」
「………………」
それは、とんでもなく、結論を急ぎすぎてやしないか? 飛躍し過ぎだ。
「君は、もし今の僕の立場が井上さんでも茶渡君でも、同じようにそう思うんじゃないか?」
黒崎が、身内を懐に入れたがる習性があることは、短く浅い付き合いの中でも解っていた。
たぶんその範疇に僕が入ってしまっただけなんじゃないだろうか。
「わかんねえ。けど、今は石田だ」
「君は死にそうになっている相手を助ける度に恋愛感情をむけるのか?」
「……違う」
「君のそれは、ただの錯覚だ。今は戦いが終わったばかりで、僕の傷を見て不安定なんだよ」
傷口は、広範囲に焼けただれているが、見た目はそれなりにエグいが、深くはない。神経系に異常はないし、今はただ痛むだけだ。
皮膚の色は、しばらく落ち着かないかもしれないが、年内には戻るだろう程度のもの。
「そうだよ。考えてもみなよ。君が僕を好きになる要素があるのか? まず僕は男だ。残念ながら、君の子を生むことは出来ないよ。だから、今は少し興奮しているだけで明日になれば、自分の発言に赤面するよ、きっと」
何で僕がこんな事を黒崎に諭さなきゃならないんだろうか。
傷口も痛いから、早く帰りたいのに。
まあ、助かったのは事実だけれど。
「……悪ぃ」
ようやく、黒崎が顔を上げて僕を見た。
ようやく解ってくれたのか。
なんでこんな事で時間を割かなきゃならないんだ。明日も学校だし、日直だから早く行かなきゃならないし、早く帰って寝たいんだ。
「解ってくれたのなら良かった」
「ああ、言い方が違った。抱き締めて、いいか?」
「…………………は?」
何て言った? ……解って無いのか?
「お前の事を今、すげえ抱き締めたいし、キスしたい。お前見てると、頭、変になりそうだ」
「………………」
それは、もうすでに変になってるんじゃないだろうか。抱き締めたいって辺りからおかしい。しかも、キスだなんて……それは、ちょっと……黒崎が変だ。
「悪い、抱いていい?」
「く、くくく黒崎っ!? 君は……」
僕の制止も間に合わず、黒崎は僕の身体を抱き締めた………。
「黒崎っ! 君は何をしてるんだ!」
「良かった。俺が間に合って……」
ああ……何を考えているんだろうか、この男は。
だいぶ、疲れているんじゃないだろうか。
「良かった、間に合って」
「……黒崎」
「お前が死なないで良かった」
「………」
「良かった……お前を失わずに済んで、良かった」
とりあえず、苦しいよって、言いたかったけど………なんか、黒崎が、あんまりに泣きそうな声で、良かったって繰り返すから……雰囲気に飲まれてしまって。
「……うん」
黒崎が、落ち着くまで、こうしてようと思った。
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090526
チャド君を、佐渡にしてた……いけねえ。修正0528 |