あれ?


 ここ………。


 ちょっと、頭の回り具合が覚束無い。自分の部屋じゃないことぐらい解ってるけど……?


「黒崎、起きたの?」


 ふと、声が降ってきた。


「あ……」

 顔を見て、ようやく………。



「わり、寝てた」


 そう言うと、石田は少し溜息をついた。
 俺が寝てる間に風呂に入ったのか、髪の毛が濡れてて、長い前髪から雫が落ちたのを、なんとなく見る。

「起こしてくれりゃ良かったのに」
「起こしたよ」
「……悪い」

 まだぼやける頭を掻いて、起き上がる。
 さっきまで教科書広げて勉強してたのに、横になって爆睡してた。毛布をかけられたことにすら気付けなかった。

「今何時?」
「七時半」
「マジかよ……。俺二時間も寝てた?」
「だいぶ疲れてたのは解るけどさ」


 石田のでかい溜め息は、俺の罪悪感を喚起するためには妥当だった。

「悪いって」
「どうする? 帰るよね?」
「いや」
「まだ居るつもり?」
「本当まずいんだって、頼む」











 ここ最近、虚の出現の頻度が増し、なおかつ何故か数学に偏り、おかげで試験が差し迫った今、俺の学力の著しい低迷が切迫した状況にある。
 今日の授業も、かなり意味不明だった。
 霊体だろうと戦闘になりゃ、それなりに疲労は蓄積し、夜も復習しながら、昨日も気が付いたら教科書を枕にしてたし……。
 一応、これでも自分の学力には自信があるわけで、水色やケイゴに訊くのもなんとなく気が引ける。それに俺は授業中はちゃんと真面目に授業を受けていたわけであって……コンがサボってない限りは。

 俺の事情知ってる奴に頼もうと思ったけど、井上はたつきやクラスの女子連中と帰る所だったから言いにくくなった。チャドもバイトだか何だかで……帰りのHR終了と同時に居なかった。
 消去法で残ったのが石田。
 帰ろうと荷物まとめてた所を捕まえた。



「頼む、数学教えてくれ」
 突然に、両手合わせて拝み込んだ俺を見て、石田は目を丸くした。

「………僕に?」
 それから、少し眉間に皺を寄せた。

 夏休みにあっちに行って死闘を繰り広げてから、少しは打ち解けたと思ったのは、どうやら俺の勘違いだったようだ……いや、井上やチャドとは、だいぶ距離を縮めてるみたいだけど。石田が井上と話しているのを時々見るし、石田からチャドに話し掛けてる姿も見た事がある。チャドと何の話題があんのかわかんねえけど。
 俺とだと、朝、下駄箱で会っても、軽く挨拶するぐらい。いや、それでも大した進歩か?

「頼む、今回まずいんだ。今日の所も俺、授業聞けてないの知ってんだろ?」
 今日こそちゃんと授業を受けてやろうと躍起になって集中してたら、また虚の出現で、かなり萎えた。
 虚の出現は石田の方がやっぱ早く勘付いて、顔を上げた。その石田を見てから、俺も知ったんだけど。で、霊体になって出てく時に、石田が俺を見てたのも、当然知ってる。

「………別に、いいけど」
「助かるっ! 本当に助かる!」

 思わず石田の手を握って振り回したら、嫌そうな顔をしながら、俺の手から手を抜き取った。あからさまな態度に多少ムカついたが。

「いいけど、今から?」
「ああ。明日土曜日だろ? 休みは家で勉強したいから、出来れば今からが良いんだけど」
「いいけど……ただ」
「ん?」
 何だよ、交換条件かよ。一瞬、石田がどんな要求突き付けてくるか躊躇した。

「僕の家でいい?」
「……いいけど」
「帰りにスーパー寄って帰るけど」
「……いいけど」
「卵と鶏肉が、特売日なんだよね」

 って………結局。主婦みたいな理由で、荷物もちを条件に、石田んちで勉強会。
 初めて行った石田の家は、独り暮らしにしては殺風景だった。独り暮らしだってのは聞いてたけど、ここに生活必需品が全部収まってんのが不思議なくらい、物が少ない部屋で。ワンルームで八畳ぐらい。布団はたたんであるから、けっこう広く思えた。


 んで、最初のうちは、石田の授業真面目に聞いて、意外に解りやすくて、この分なら家に帰って夕飯間に合うかと思ったんだけど……。



 気が付いたら寝てた。途中、睡魔と必死に格闘してたけど……結局寝ちまった。
 ここんとこ試験も近いのにろくに勉強も出来なくて、疲労だけ蓄積してて、授業中でも本格的に眠れそうなぐらいには疲れてるけど。

 一応、遊子には遅くなるかもしんないって言っといたから、待ってる事はないだろうけど。


 まさか、初めて来た石田ん家で熟睡するとは思わなかった。




 寝た分、二時間のロス。
 そろそろ家に帰ってる予定だったんだけど。
 だけどこのまま帰っても……土日で取り返すっつう俺の予定が狂う。

「いや、もう少し教えてくれ。お前が嫌じゃなけりゃの話だけど」
「僕は構わないけど……ノート持って帰ってもいいよ。月曜日に返してくれればいいから」
「そりゃさすがに、悪いって」

 この、中間試験一週間前って状態で、他人のノート二日も俺が持ってるわけにもいかないだろう。

「土日は他の教科勉強するから」
「いや、でも……」

 石田の教え方が、解りやすくかったから、もうちょい教えて欲しかったんだけど……数学が一番厄介だけど、他の教科だって怪しいのがいくつかあるし。

「やっぱ、俺、邪魔か?」
 邪魔してる自覚はあるけど、独り暮らしなんだし、別にちょっとぐらい……って思ったり。そりゃ、学年主席の足引っ張るんだったら大人しく帰るけど。

「ぶっちゃけて言うとね。お腹が空いたんだ。君は家にご飯あるだろう? 一人で食べるのも、気がひけるし」

 言われて気付いた。
 俺は物凄く、腹が減ってる。
 しかも、空腹を助長させるような、いい匂い……煮物? に、気付いて、俺は盛大に腹を鳴らした。




「………黒崎も、少し食べる?」


 俺の腹の虫を聞いて……石田は、少し、笑った。



 笑った……。

 見下したように、嘲笑っぽく笑うのは、見たことあったし、俺以外の奴に笑ってる所も何度か見た。
 けど、俺に、笑ったのは初めてだったから………。だいたい、無表情で、時々嫌そうな顔で、たまに溜息が、石田の顔だと思ってたから……。




「何?」
 石田の顔をマジマジと見つめた後で、ぎこちなく視線を反らした態度は、わざとらしかったかもしれない。

「えっと、飯……いいのか?」
「一人分しか作ってないから、あんまりあげないよ」

 って、飯を……貰って……。
 半端なく、旨かった。のに、驚いた。さっき買ってきた肉と野菜がこうなるんだ……と思うと、感動する。
「すげえな」
「何が?」
「お前、いつでも嫁に行けるぞ」
「嫁って……誉められてる気がしないけど」
「褒めてる褒めてる。すげえ旨い」
「…………そう」

 石田は、ちらりと俺を見て無言で食べ始めた。今の会話も、石田が咀嚼が終わって飲み込んでからようやく話すから、少し時間がかかるんだけど。
 余ったら冷凍するらしくて、飯が余分に炊けていて……結局そのほとんどが俺の胃袋に入った。
 何だかんだ言って、俺のがたくさん食ってるのに、俺が食べ終わってから、しばらくして、ようやく石田が箸を置いて手を合わせた。

「俺が寝てる間に飯作ったの?」
「君が寝てたからね」
「お前、風呂入ったの?」
「寝てたからね」

 返す返す申し訳ない。。

 けど、俺も成績がかかってる。けっこう順位キープすんのに努力してるし、落としたくもない。


 気が付いてたけど、石田が風呂入ったのは見りゃ解る。服が、さっきと違うし。俺が居たからだと思うけど、帰ってきて、制服のまま勉強会始めたから、石田はさっきまで制服着てたのに。
 いつも第一ボタンまできっちり止めてるくせに。
 髪もまだ濡れてるし。

 意外、って、事はないと思うけど。俺だって、風呂入った後は大抵はパジャマに着替えるし。
 でも、石田のそんな服見たこと無いから、意外と言えば意外。


 片付けて、勉強を再開して。


 さっきまで、制服着てたから、違和感なかったけど……さっきまではいつも見てる石田だったから、違和感なかったけど。


 石田が細い……のは、知ってる。
 そんな事は、制服着てる時だって解ってる。

 白い、のも知ってる。けど………。


 教えて貰って、近くに寄ると、シャンプーのいい匂いするし。
 下を向いた時に、襟元から覗く胸に……何で、俺が心拍数上げる必要があるんだ……。

 その下に繋がるのは、平らな胸板だって解ってんのに……っ!


「黒崎?」
「いや、悪い」

 すみません、今の所、聞いてませんでした。
 胸元にばっか目が行って仕方がなかった。珍しい物見たい心境だと思うけど。

「少し休憩する?」

 時計は、いつの間にか、十時近くになっていて……気が付かなかった。
 石田は、いつもと違って、ピリピリした空気はなくて……。さっきから、特に飯食い終わったあたりから、表情も柔らかい。

 石田と一緒だなんて、たとえ勉強だってもあんまりいい空気じゃなくて、教えてもらうだけ教えてもらったらさっさと帰るんだろうって思ってたのに、意外にも居心地がよくなってて、時間に気付けなかった。



 問題解いてみて、正解する度に、石田のクセに微笑んだりして。
 石田の笑顔がご褒美かよ、とか思うが、悪い気はしない。というか、つられて俺まで笑ってる始末。

「でも、あとちょっとだし……も少しいいか?」

 せっかくなら、終わらしてすっきりして帰りたい。
 俺としちゃ、もうここまで来たらって感じなんだけど。
 さっき居眠りして、だいぶすっきりしてるはずだし。

「いいけど……」

「悪いな」
「どうせなら……」
「え?」
「いや、何でもない」

 少し、歯切れが悪い、言い方だった。石田にしては珍しい。良いことも悪いことも、間違って無いことをズバズバ言い続けてるくせに。


「何だよ、気になるだろ?」
「何でもないよ」
「何でもないなら、言えばいいだろ?」
「うるさいな、別に君が気にすることじゃないよ」




 ……とりあえず、俺は、何故今の会話で石田の機嫌を損ねたのか、理解できない。



 そりゃ、俺が理解できてる石田なんか、たかが知れてんだけど。
 急激に、石田の機嫌が低下したのは解った。さっきまで、居心地良かった空気が、急に冷たくなった気がする。
 障らぬ神にタタリなしとは言うが……気になると気になる俺の性格もそれなのに厄介だとは思うけど……。


「あのさあ、俺なんか言った?」
「何が?」
「何で怒ってんの?」
「怒ってないよ」
「怒ってるじゃねえか。眉間にシワ寄ってんぞ」
「君ほどじゃない」

 ……こいつは…………。



「お前さ……」

 言い草に、頭きた。
 ってのもあるけど。
 俺も頭に血が上りやすい方だし、こいつはこいつで頑固だし。

「気に入らない事あったら言えよ。お前と喧嘩する為に来たわけじゃねえし、お前と喧嘩したいわけじゃねえし、気に入らない事あったら言えば直せる所直すし」
「だから、何でもないって言ってるだろう!?」
「じゃあ、何で怒ってんだよ!?」
「怒ってないよ、別に」
「だったら、何が気に入らなかったんだ?」
「……君は……何が言いたいんだ?」
「お前と仲良くなりてえって言ってんだよ!」


 とか、何で、そんな、大マジに照れるような台詞を大声で言わなきゃなんねえんだよ。
 言ってから、自分で顔が赤くなるのが解った。
 仲良くなりたいんだってさ。俺が、石田と。
 言ってから、気付いたけど。
 嘘、じゃねえ。
 仲良くなりたいってのは、本当。

「今だって、勉強教えて貰って、助かってるし」

 解った時に、石田が笑うの、嬉しいし……。
 もっと、石田の笑顔が見たいって思ったし……。
 今度の問題一発で解けたら、もっと笑ってくれんのかな、とか……勉強なんかじゃなくて、学校でだっていいし、どこでだっていいし……。


 もっと、笑ってる顔が、見たいって………。

 までは、さすがに、言えねえ。口が滑りそうになって、ますます赤くなった。耳が熱いから、赤くなってんだろう、どうせ。

 俺ばっか熱くなって、石田と言えば、何時もの凍ったような鉄面皮を貼り付けて、じっと、俺を見てた。


「……別に、本当に怒ってないよ」
「怒ってるだろ?」
「それは、君のせいじゃないよ」
「だったら………」

 無表情のまま……。

 ここに、居ない方が良いんだろう、さっさと帰った方が良いんだろうって、寒冷化した空気が漂ってたけど……。

 ここで帰るわけには行かねえ。
 そんなに俺は石田と友情を築きたかったのかと、びっくりするぐらい、それでも俺は真剣だった。

 だって、さ。

 嬉しかったんだ。
 石田が笑ってるのが嬉しかったんだ。


「それは………言わなきゃ駄目か?」
「気になるだろ。俺がお前の気に入らない事言ったなら、これから言わないようにするし」
「だから、君のせいじゃないって!」
「そんな事言われたって、わかんねえよ」
「………」

 ふと、石田が俺から視線を外して、立ち上がろうとしたから……俺は石田の腕を掴んだ。

 このままはぐらかされたくなかった。

 握った腕は、そりゃ、こいつだって弓引いて虚倒してるんだ、それなりに筋肉ついてて固かったけど……細かった。
 少し、それに驚いたけど、でも、今放す気なかった。

「黒崎……」
 逃がさねえって意味で睨み付けた。握った手の握力を少し強めた。

「……珈琲、冷めちゃった、から入れ直してくるよ」
 それでも、なおも逃げようとする石田に、いい加減腹が立った。

「お前が喋ってからな」
「……何で言わなきゃならないんだよ!」
「どうしてもだ。お前が気に入らない事、しないようにしたいから。お前が何が嫌で、何が良いのか知りたいから、話せよ」
「……………………嫌だ」
「何でだよ!」

 俺の事見ようともしない石田の態度に腹が立ったから、腕を引き寄せて無理やりこっち向かせた。

 苛苛する。
 こっち見てくんないのに、苛苛する。

「恥ずかしいから嫌だって言ってんだよ!」
「だから、何がだよ!」


「………」

 石田が、ようやく俺の顔を見た。
 ずっと、鉄面皮かぶってたはずの石田の顔が……、赤く、なってた。

 ………石田が、そんな表情するなんて、見たことないし、多分これからだって見る機会はなかなかないと思うけど……。耳まで赤くなってて、それでも、俺の事上目遣いに睨んでて……そんな赤い顔で睨まれたって、いつみたいな凄みなんか一ミリもなかったけどさ。

「どうせなら………泊まってくって、言おうと思った」

 ………。

「………で」
「それだけだよ!」
「はあ?」

 今ので、何が?

 泊まってく? とか言われたら、そりゃ学年随一の頭脳にみっちり家庭教師してもらえりゃ、助かんの、こっちだし。
 明日休みだし。
 家には電話入れりゃ、それでいいし。ケイゴんちとか、水色も一緒に、時々泊まるし……頻繁にあるわけじゃねえけど、友達んちに泊まるなんて、時々あるから……

 俺だってさ、

 もっと、石田と一緒に居たいって、思ってたし…………。


 俺が要求して、そっちが図々しいって機嫌悪くすんなら、わかるけど。
 そこで、何で石田が機嫌悪くなってんのかがわかんねえ。


「だから! 別に大して仲良いいわけでもないのに、急にそんな事言ったら、変だろ?」

「………えと」



 ………。


 確かに、俺のせいじゃないよな。
 そこで、俺がどこをポイントでツッコんでいいのか、すら、わかんねえ。ってか……何? 数回すっ飛ばした数学の教科書が、とても簡単に思えてくる。こいつの今言ってる事理解できる頭脳があったら、俺は常に100点を取れるに違いないと思ってしまう。


「仲良くないから?」
「そうだよ」
「じゃあ、仲良くなりゃいいんじゃねえ?」
「君と僕が?」
「………仲良くなりてえ、って、俺言ったけど」
 そう、言ったと思うけど……。あれ、けっこう照れたんだけど。
 でも、マジなんだけど。






「だって………君は死神だし」





 ………。


「………」
「…………」



「だから……」
「…………」



 ぷちって、頭の血管切れた音がした気がしたのは気のせいじゃないだろうきっと。

「だから、何?」
「それが理由だ」
「で、何?」

「だから、君は死神だろ?」

「で?」

「だから、君と僕が仲良くなれるはずなんて、ない」



 ………って、断言された。
 断言されたけど………。



「別に、お前が死神嫌いなのは知ってるけどさ」
「だから……泊まって行けばいいだなんて、そんな馴れ合いを要求する言葉を言おうとした自分を恥じただけだ」
「なんで、お前はさあ……」


 俺、仲良くなりたいって、普通に思ってんだけど。
 そんなんじゃなくて……死神とか、滅却師とか、そんなんじゃなくて……俺はお前が


「そりゃさ、俺が死神になんかなんなけりゃ、お前と話す機会すらなく卒業してたかもしんねえけど……」
「そうだね」

 いや、そこ肯定するところじゃねえだろ。
 確かに、死神になんなけりゃ、石田が俺に話しかけてくることもなかっただろうし、俺もそのまま気付かないうちにクラス替えだったかもしんねえけど……。
 確かに、俺が死神になったから石田と話してるんだと思うけど。



「俺は、石田と仲良くしたいんだって」
「……だけど君は死神だろう?」
「その前に俺は黒崎一護だ」
「………でも、君は」

 石頭。
 は、知ってたつもりだけど。それにしても、いい加減にどうにかならないもんだろうか。

「俺は滅却師と仲良くしたいつってるわけじゃなくて、お前、とっつってんだよ」
「………でも」

 どう、言ったらいいんだ? どういえばこいつは、何の蟠りもなく俺に笑顔向けてくれるようになんの?


 そりゃ、さ。俺なんか考えもつかねえぐらい、こいつにとって大事なことだろうけど。俺みたいな俄死神と違って、こいつは昔から、虚って存在知ってて、それと戦ってきて……俺なんかと持ってるもんの重さ全然違うんだろうけど。
 そういうのがあっての、石田なんだって解ってるけど。
 
 でも、俺は笑って欲しいって。俺に笑って欲しいって。石田に……隣に居て、笑って……


「だからっ! 俺はお前が好きなんだって言ってんの」


 一番、多分この言葉が近いのは本当で、でも言ってから慌てた。これって、告白じゃねえ?

「……黒、崎?」
 案の定、石田が真っ赤になったまま、固まってる。いや、俺も自分で言って固まってっけど……。

「いや、あ、てか、そういう意味じゃなくて、なんてえか。お前と一緒にいて、なんか楽しいし、飯作るの上手くて尊敬するし」
「………」
「大した話してねえけど、もっといろんな話してみてえって思うし、お前の笑った顔好きだし、もっと笑った顔見たいし」
「……黒崎」
「一緒に居たい思うし、俺の事も見て欲しいとか思うし……」
「黒崎、ストップ!」

 石田が、顔真っ赤にして、俺に捕まれてない方の手で俺の口塞いでた……。
 俺、今何言ってたけ? なんか心底恥ずかしいこと言ってる気がしたけど。
 コレじゃそういう意味でも変わんねえんじゃねえとか、思った。なんか、もうどっちでもいいけど、引かれたくねえし。でも、喋れば喋るほど墓穴を掘る気がする。

 でも、なんか滅茶苦茶一生懸命になってたのが、伝わったんだろうか。俺の顔もきっと真っ赤になってるだろうけど、でも、それ以上に石田の顔が……耳まで真っ赤。で……こいつの済ました顔しか見たことないから……こういう顔もアリだな……とか、思ったり、して……いや、何がアリなんだよ……。



「あ、いや、だから」
「……いいよ、もう」
「……悪い」
「いいって」
「……言いたいこと、わかったかよ」
「………あの、黒崎」
「ん?」
「……その」
「何だよ」
「どうせなら、泊まってく?」
「……良いのか?」
「別に、君んちが良いならだけど」
「あ、じゃあ電話入れる」
「そうだね」
「………あ、じゃあ」


 かばんから携帯電話出そうとして、その時になってようやく俺は石田の腕掴みっぱなしだったことに気づいた。テンパってたから、けっこう握り締めてたかもしんねえ。痛くなかったなら良いけどとか、思ったけど。

「黒崎……」
「ん?」




「ありがとう」


 未だかつてないぐらいの全開の笑顔で、石田は笑った。









 それが、多分、石田に惚れたきっかけだったんじゃないかと、今になって思う。



















090413
サイト傾向一雨としたいが為に、頑張って書いた。
けど、私、一雨は読んでる方が好きだと思い知った。
一護の口調に慣れない……銀さんよりももうちょっと硬派な感じで……難しい。



7900