33

























 まだポッターは僕の上にいて、達したまま僕達は繋がったまま。








 だって、涙が止まらないんだ。
 泣いてるわけじゃないんだ。
 ただ、胸が潰されてしまいそうなんだ。
 それが痛いんだ。
 泣いているわけじゃないんだ。




「泣かないで」



 ポッターが繰り返すから。そんなに僕が泣いてることにしたいのか、だったらその通りにしてやるよ。泣いてやるよ。


 ポッターがあまりに僕を泣いてる事にしたいからなんだ、僕が泣いてるのは。
 もう、泣いてやるよ!



 僕は泣いた。




 声を上げて泣いた。


 胸の中に詰まったモノを吐き出さないと心臓が潰れてしまいそうだった。泣き声を上げれば、少しでも胸の中にたまったものが吐き出されるような……溜め込んでいるのが不可能になって押し出されただけのような……。






 僕は泣いてしまった。











「ドラコ………」

 ポッターが困ったように僕に僕を呼んだ。
 知ってるよ、お前が呼びたいのは僕の名前じゃなくて、他の名前なんだろう? 悪かったな女じゃなくて。




「ドラコ、なんで泣いてるんだよ………」

 困り果てた声。狼狽してる。
 うるさい。
 理由なんか言えるか。言ってやるものか。





「ドラコ……ごめん」

 ポッターが僕に謝った。

 謝られたって……。


 お前はなんで僕が泣いているのかなんてわかって無いんだろう、どうせ。






「泣きやんでよ……」

 やだよ、馬鹿。馬鹿ポッター。


 なんでこんなに辛いんだ。
 お前を離したくないんだ。





 いい加減に泣きやまない僕をポッターは抱き締めてくれた。
 強い力だった。




 体温は暖かかった。




























 どのくらい経ったのだろう。

「ドラコ、起きた?」



 …………寝ていたのか、僕は。


 いつの間にか、ポッターは服を着ていて、僕はローブをかけられて、ポッターの膝で寝ていた。

 いつから寝てしまったんだ。





 起きようとして、身体がギシギシすることに気がついた。
 特に腰! 痛くて動けたもんじゃない。


 何があったんだと思い出して、さっきのことを思い出す。
 やってしまった。
 その上にあんなに大泣きしてしまった。


 僕はなんて恥ずかしい奴なんだ。



「ごめん、そんなに痛かった?」


「違う」

 恥ずかしくてポッターの顔が見れない。

「じゃあ気持ち良かったんだ」
 ………………。

 僕が泣いていた理由に関してはスルーか。いや、別に言うつもりもないからいいんだけど。訊くつもりがない事には何だか腹が立つような気がする。

「良かった」
「…………」


 良くない。
 僕は男なんだぞ。
 後ろに入れられて気持ちがいいだなんて、そんなことあっていいはずが無いだろ! 性別を考えろ。



「帰る」


 どうせ僕が何を考えてるなんか興味ないんだろ? お前の恋愛は独りよがりなんだよ。僕の事なんてどうせ好きな女と顔が同じだとかしか思って無いんだ。
 そう思って立ち上がろうと思ったんだけど……。

「つっ……」

「まだ動かない方がいいよ」
 動かない方がいいんじゃなくて痛くて動けないんだ!


 ポッターが僕の腰を優しくさする。


 優しくするなよ。


「………」
 僕が勘違いするじゃないか。

 やばい、また泣きそうだ。



「………好きだよ」
「………」



 僕じゃない。

 ポッターが好きなのは僕じゃないんだ。



 勘違いするな。
 自意識過剰なんだ。

 ポッターが僕を好きになるはずが無い。そんなとこ、僕が一番よく理解している。


「……ふうん…」


「………ドラコは?」

「…………」

 僕は………。


 僕はお前なんか……。


 嫌いだと、言おうと思った。

 ポッターを傷つける事が出来たら僕は快感だった。そんなとこに喜びを感じていた。今ポッターに嫌いだと伝えれば、きっとポッターは傷つくだろう。ざまあみろだ。

 それなのに、胸が鉛になったように重い。口が開けない。




「………」

「僕は君好みの男になれたかな?」

 ああ………こいつはそんなとこまで覚えていたのか。
 僕がリズだった時に何だかそんな事を言っていたような気がする。

 僕好みって……。僕は男なんだから男は好まないぞ。さっきのは何かの間違いだ。





「ねえ、そろそろ僕のことを好きになってよ」

 ………。
 好きになるわけない………はずだ。
 こいつは男だし、それにしかもそのうえにポッターなんだ。好きになるはずなんか……。


 …………。



 僕は……。




「お前が本当に好きなのは僕じゃない」

「…………は?」

「僕じゃない」






 嫌いだなんて言えなかった。嫌いだって、言ったら本当に終わってしまいそうなんだ。



 でも、結局終わりか……。ポッターがリズが現実にいないって気がつけばそれで終わりなんだ。
 ポッターが本当は僕を好きなわけじゃないと気付けば僕に触れて来ることももう無いだろう。




 ポッターの手は本当に気持ちがいいけれど、今までだってなかったんだ、最初のうちは寂しいかもしれないけど、いつか慣れるはずなんだ。
 変わりの人なんかは見つからないかもしれないけど、それでも。










「ドラコが何言ってるのかわからない」





 ポッターが困惑げに僕を見た。僕の腰を撫でていた手が止まってしまった。



 理解できないと言うのか、馬鹿め。ない頭を雑巾のように捻って良く考えて見ろ。


「だってそうだろっ! お前は女装した僕が好きだったんだろ? 僕は女じゃない」
「え、もしかして気持ち良くなかった?」
「そういう問題じゃないだろっ!」
「じゃあ、気持ち良かった?」
「だからっ!」



 ああ……そうだ、こいつとは話が噛み合わないんだ。
 だからと言っても今はそのことを話してるのではない事くらいは理解しやがれ。空気を読め。


「お前は僕の顔をした女が好きだっただけで、僕を好きなわけじゃない!」

 そういうことなんだ。
 ポッターは馬鹿だから、そのことに気付いてないんだ。僕とリズをまだきっと混同してるんだ。
 僕は女じゃない。

「でも、リズはドラコだったんだよね?」
「ああそうだ」
「じゃあ、間違ってるわけじゃないじゃん。僕が好きになったのは君だよ」
「だって僕はリズじゃない」
「名前が違うことくらいは大した問題じゃないと思うんだけど……」
「性別だって違うのだが……」

「それについては僕はかなり悩んだんだけどね」

 ポッターはそう言いながら言葉を切る。苦笑いを浮かべた。



「将来子供は三人は欲しかったし、やっぱり結婚式には白いウエディングドレス着て欲しかったし、奥さんには家にいて欲しいし、海の見える丘の上に白い家で……」



 ポッターはどこかの夢見がちな幼女のようなことを並べ始めた。僕は呆気にとられてただ聞き入るしかない。何回か聞いたが、真剣にそう考えていたとしたら大した英雄だ。


「……はあ」

 そこまで具体的な将来の青写真が出来ていると感服してしまいそうだ。



「ドラコを好きになったおかげで僕の将来設計図はめちゃめちゃだよ」

「なんだよ、僕のせいじゃないだろ」
「ドラコのせいだから責任取って僕を好きになってよ」
「はあ?」

 言っている事がわからないのはこっちの方だっ!

 本当は言うつもりはなかったんだ。言わないでそっと胸にしまって置けばいつまでも僕に触ってくれるような気がしたから。だから言いたくなかったんだ。

 だけどもう限界なんだ。
 僕は僕であってリズじゃないんだ。
 このままでは僕が勘違いをしてしまう。本当にポッターが僕を好きなのだと錯覚を起こしてしまう。そして、僕も……



「ちゃんと女の子を好きになればいいだろっ? 僕は違うんだ」
「だからっ! 僕は女の子が好きなんじゃなくて君が好きなんだってば」
「それは僕が女だと思ったからだろ」
「でも男だったんだから、仕方ないじゃないか」
「何がしかたないって? オオゴトだろ」
「そうだけど仕方がないじゃないか、ドラコが女じゃないんだから」
「だから無理なんだって」
「無理じゃないよ。気持ち良かったでしょ」
「今はそんな話をしているわけじゃない」
「だから、君であれば男だろうと女だろうとどっちだっていいじゃんって話だよ」
「良くないだろ。いくらお前だって僕を孕ます事なんかできないだろ!」
「うわー、すごく卑猥な単語」
「うるさい!」
「頑張って孕ましてみます」
「何を言ってるんだ、馬鹿」
「いや、今日はもうしないけどさ」
「当たり前だ、大馬鹿」
「また明日しようよ」
「断る」
「また気持ち良くさせてあげるから」
「こんな痛い思いをさせて置いて何が気持ち良くさせてあげるからだ」
「次はもっとうまくやるからさ」
「ふざけるな」



 ああ………僕は一体何の口論をしているのだろうか……。子作りに対しての熱意を見せられても困るんだ。
 僕が言いたいのは………。




「ポッター……冷静になって考えて見ろ」


 同じ顔を晒して歩いていたって今までポッターは、僕がリズだと正体を明かす前は僕に対しては何の反応もしなかったのだ。髪を長くしてスカートを一度履いただけで僕だと気付かないどころか、迫って来たうえに惚れたとほざく。僕の事は別に好きなのでは無いんだ。どう考えたって僕じゃなくて、女の子が好きなんだ、ポッターは。





「だから、君が思ってる以上に僕は色々考えたんだよ」
「何を?」

 考えれば考えるほどポッターが僕を好きだと言う可能性は無くなっていくのだが。
 しかも、この薄っぺらさのどこで考えたと言うんだ一体。



「結論は、好きになっちゃったんだもん、何を言っても無駄だよ」
「………はあ?」
「忘れたくたって忘れられないし、リズがドラコだってわかったらドラコ見ればドキドキしたし、ドラコは男なんだって思ったけどさ」
「理解してるなら何で……」
「でも君がいいんだ」


 ポッターの、目を思わず覗き見てしまった。


 どんな馬鹿面下げているのかと……



 僕が見た、どんな時よりもポッターの顔は……笑っていたけれど、それでも真剣だった。




「………本気で言ってるのか?」
「恋愛は理屈でするものじゃないんだから。君がどんなに完璧な理論を持って来て諦めさせようとしたって無駄だよ。そんなんで諦められるなら僕がとっくにそうしてる」


「…………」





「君が好きなんだよ、ドラコ」






 ……………………………。







 僕の顔は今何色をしているだろう。

 きっと耳まで熱いから、赤くなってるんだろう。


「ポッター……」
「君は、僕の事を拒否しなかったよね」
「………それは……」

「君の理屈で行くなら君は僕の事を好きじゃないだろうけど、僕の理論を通すなら君は僕の事を嫌いじゃないと思うんだ」

「……………」



 ……………。
 この僕がポッターに言いくるめられる日が来るとは思いも寄らなかった。



 ずっと馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、こいつは大馬鹿だ。



 負けたよ、わかったよ、僕の負けだよ。
 僕は悪いけどどちらかというと頭のいい部類だ。
 だけど、ポッターは馬鹿なんじゃなくて大馬鹿なんだ。

 敵うはずない。



 僕が、頭がいいんじゃなくて、大天才じゃない限り勝てなかったんだ。



 こんな大きな勝負でこんな奴に大敗するだなんて僕のプライドはガタガタだ。
 ああ、負けるなんて思っても見なかった。



















「ねえ、僕の事、どう思ってる?」






































































長くて中弛みがありましたが……
こんな長い文章をここまで飽きずに読んでくださって有り難う御座いました。
いや、実際飽きたことと思います。
何とか最後まで辿り着きました。
通して読んで下さった方、本当に有り難う御座いました。
少しでも笑って下されば、幸いです。


そして、お疲れ様、私!
あとがき含まないで102000文字、ありました……
よくもまあ、書き散らしたものだ。
本当お疲れ様、私。

さーて、次だ次!
070329