きみのことがすきなんだ。
って言ったら、君は、ねえ、どんな反応する?
だってさ、僕達そんな関係じゃなかったじゃない?
僕を見たら君は嫌そうな顔をしてさ。仲良くしたことなんかなかったし。
ずっと僕は君と仲良くなろうだなんて、そんなこと考えた事もなかった。
君の事が嫌いでさ、君なんかいなくなっちゃえばいいのにって、ずっと考えてた。寝る時も、起きてる時も、君の事ばっかり考えてたんだ。
だから、今とおんなじ。好きになってからと、好きになる前とあんまり変わってない。ずっと僕の中は君ばっかりだったんだ、結局。
気付いたのは最近だけどね。
考えも及ばなかったしさ、君の事が好きだなんて。もしかしたらまだ嫌いなのかも。よく分からないよ。
君が、先月喧嘩したの覚えてる?
僕以外の奴と。
君といつも一緒にいるデカい二人が、ウスノロだとか馬鹿にされてさ、君が怒って派手に喧嘩したでしょ。レイブンクローの上級生だったよね。
君の口の回りはたいそう達者だから、君に口で勝てる奴なんかそうそう居ないから、君は殴られてさ。
君ってどうして、そんなに痩せてるのに喧嘩っ早いの? すぐ頭に血が上ってさ、疲れない?
そこで黙ってれば、君だって減点されなかったのに。だって明らかに君の方が弱そうなんだから。上級生の方が背も高かったし、体格だって良かったし。そこで回りの目の同情買っておけば良かったんじゃないの? お得意の泣き真似でもしてさ。
でも結局殴り合いの喧嘩になって……。
お昼休みで、中庭で、見てる人が大勢いて。
僕は、最初っから見ていたんだ。
初めはさ、ざまあみろって。こんなみんな見てる所で喧嘩して、絶対に減点される。ざまあみろって、思った。
思ったんだけど……。
君の目が、見てたの、僕じゃなかったから。
僕の知らない誰かに、君の視線が注がれててさ。睨み付けて………いつも、その目で僕を見てたのに。
ここに僕がいるのに、君は、何で僕以外の奴とそんなことしてるの?
……って………。
すごく、嫉妬した。嫉妬だって言葉だって気が付いたら愕然としたけど、すごく嫌な気分がしたんだ。
いつも君は僕だったじゃない。僕ばっか見てるのに、僕が今ここにいるのに、何で他の奴のこと見てるの……なんて。
そうやって具体的に言葉にできるようになったのは、後になってからだけどさ。
ただその時は、なんだか、かーって頭に血が上っちゃって、とにかく相手に腹が立って、その上級生に怒って。
僕が、止めるだなんて、思ってなかったでしょ?
僕だって思ってなかった。
気が付いたら、間に入って、君の変わりに殴られてたんだ。
その時の、君のびっくりした顔は、今でもまだ覚えてる。最初殴られると覚悟して、ぎゅって目を瞑ってたけど、変わりに僕が殴られて、君の上に倒れた。
僕がいきなり、君の上に倒れてさ。
君は、本当に驚いたみたいで、なにも言えなくなっててさ。
戦意を喪失したらしい上級生が、捨て台詞でどこかいなくなったけど。
「大丈夫? マルフォイ」
下敷きにしちゃってたから、慌てどいて、立ち上がって、君に差し出した手は、弾かれた。
しばらく、ぽかんって間の抜けた顔で僕を見てたんだけど。突然、僕の顔を睨んで、僕の手を払い除けた。
さっきまで、上級生に向けてた視線で、いつも僕を見るきつい視線で……なんか。
その時、ようやく嬉しくなった。
って言ったら、僕はやっぱり変な人みたいだけど。
ようやく、デカブツ二人が君を慌て助け起こして、服についた枯れ草とか土とか、いつも通り気取った仕草で払って、僕に一瞥を投げると、僕に何も言わないで行っちゃったけど。
でも君よりも僕の方が驚いていたの、知らないでしょ。君のために殴られるなんて、僕は何やってんだろう、まったく。って。
みんな見てたからさ。
あの後、僕達は呼び出されて、色々先生にお説教を受けて、レイブンクロー減点。
スリザリン減点。
グリフィンドール、10点。
喧嘩を治めた勇気に加点。
「お偉いな、英雄殿は」
すごく、憎らしそうに僕を見てた君だったけど。
先生がいなくなった後、君は喧嘩した上級生なんか、もう目に入って無くて、なんか僕に言いがかりとしか思えない事を言ってきた。喧嘩した上級生なんて一度も見ずに、僕を見てくれた。
その事に僕は何故かすごく満足したんだ。
「喧嘩は見過ごせないって偽善者気取りか?」
「そんなんじゃないよ」
「なら、なぜ邪魔をした?」
邪魔してなかったら、君は減点どころか医務室行きだったじゃない。
「どういうつもりか知らないが、ありがとうなんかは、絶対に言わないからな」
「別に、いいよ。君にお礼を言われるだなんて、気持ち悪い」
「……………」
お礼を言われたいだなんて、考えても見なかったし。君が、僕にそんなこと、言うはずない。それこそ天変地異が起こるよ。
まあ、マルフォイとと話すことなんか何もないんだし、さっさと帰ろうって思って、足早に歩いてて。殴られ損にならなくて良かったし、とか自分で慰めて。
ふと、気が付いたら、横にいた君がいなかった。
「あれ、マルフォイ?」
二人きりで一緒に並んで歩くなんて、そういえば、初めての経験かもしれないって。
だからって、相手の歩調に合わせる気もなかったけど。
気が付いたら横にいなかったから、置いてきたんだと、ちょっとびっくりした。
「マルフォイ?」
後ろを振り向くと、君が立ち止まって下を向いて、黙りこくってて。
「何やってんの、マルフォイ? 先に行くよ」
後から考えたら、なんで僕はマルフォイに声をかけたのか、自分でも不思議だった。
「ポッター!」
「なに?」
「その、………」
珍しく、歯切れの悪い言葉に、君が何を言いたいかだなんて、わからなかった。下を向いていたし、どんな顔をしてるのか、とかもわからなかったけど。
ただ、耳まで真っ赤にしてるのは、暗かったけどわかった。
「何だよ」
「…………ありがとう」
「え?」
「せいぜい気持ち悪がればいいさ!」
って、そう言って、それだけ言って。
君は僕の横を、走り去った。すごいスピードで。
君が、どんな気持ちで言ったかなんか、考えられなかったけどさ。
君みたいに、僕まで真っ赤になって、その場に立ち尽くしてた。
それからだよ。
君が、好きだなんて、そんな結論になったのは。
いつも君の事考えてて、だって今までと同じじゃないか。
君だって僕の事、いつも考えてるだろ? どうやって陥れようか、とか、嫌なことばっかだろうけどさ。
でも結局君が僕の事をいつも考えてるのは、本当でしょ?
僕もいつも君の事を考えてたよ。嫌いだって思ってたのから、好きだって思ったのに変わっただけで、それだけで別に変わらないよ。今まで通りだし。
ねえ。
君の事が好きなんだ。
そう、言うつもりで呼び出したんだけどさ。
僕に何かされると思ってるの? そんなに身構えなくてもいいじゃない。まあ後ろめたい事とか思い当たる節とか色々あるんだろうけど。
そんなに警戒しないでよ。
「何だ、一体。僕はお前と違って忙しいんだ」
いつも通りに偉そうにしちゃってさ。
これから言う僕の言葉、想像もつかないんじゃないかな。
ねえ、君は一体どんな反応するんだろうね。それで、なんて言うんだろう。
一体何の冗談だ?
気でも狂ったのか?
何の嫌がらせだ?
どの台詞も、なんかすごく自然な反応で、すぐに想像できてしまうよ。
君が、僕の事を嫌いだって、そんなこと誰よりも一番よくわかってるんだ。
一番、君と同じ気持ちだったんだから。
だからさ。
君の事を、僕が一番よく分かってるんじゃないかな。
だから、一番僕が君の事を幸せにしてあげられるんじゃないかな。
なんて……。
思うんだけど。
「一体、何なんだ、ニヤニヤと気色悪い。帰って良いのか?」
ああ、マルフォイはどんな反応をしてくれるんだろう。
「あのさ。僕、マルフォイの事が、好きなんだ」
了
20120429
何だか発掘されました。