「君を好きだって、言ったよね」 彼が僕を見つめてくる視線は相変わらずの質量を持っていた。強い眼差しに込められる感情の重さに潰れそうになりながらも、僕は同じ強さでその視線を返す。 ただ、今まで以上に息苦しさを覚えるようになったのも事実。 僕達の関係はあれ以来、なんの変化もなかった。相変わらず、だ。僕は彼の視線を嫌味と言う稚拙な手段で要求したし、彼はそれに応えて僕にそれを供給してくれた。それでうまく巡回しているんだ、僕達は。 このままの関係がいいのに……。 僕はポッターの視線に気付かないふりをした。 気付かないふりをわざわざ気が付かせるように、そうやって振る舞った。 僕が僕が気付いているのに、気が付かないふりをしていると、そう認識させるのに成功した。 だから僕を見る視線がますます重くなって、それが嬉しい。ふと、気が付くとポッターは僕を見ていた。いつも僕を見ていた。授業中窓の外を見るふりをして窓側の席の僕を見ていた。窓から外を眺めるふりをして、中庭で友人と話している僕を。睨み付けるふりをして、僕を。 ………とても。 このままの関係がいいだなんて、それはただの僕のエゴだ。 今までの関係が僕には理想的だった。それ以上なんて、要らない。 ポッターからの視線に込められた気持ちにはある種の確証があったが、この前のことで、僕はポッターの気持ちを把握した事にしなければならなかった。 ポッターの気持ちに「気付いていないふり」から、「知っているけれど無視している」という態度に変えなければならなかった。 でもそれだけの変化。 それだけでいいと、思っていた。だから、ポッターからの気持ちの告白なんか、要らなかった。欲しくなかった。 そんな確認は不要だった。 僕は、欲張りなんだよ。 我が儘で、強欲なんだ。知っているだろう? 罵り合う時に、いつもお前は僕をそう言って貶めるだろう? それは、本当に正しいんだ。腹が立つくらい、正しい。当たっていると、腹が立つものだ。 お前は僕が好きなんだろう? もっと、もっと僕を見ればいい。 ポッターからの気持ちが手に入った。 もっと……求めてしまう。僕は強欲なんだ。今までじゃ足りない。 お前は僕が好きなんだろう? 僕を振り向かせる努力をしたらどうだ? 今までと同じだったら、僕は今までのままだ。何も変わらない。僕にもっと必死になれよ。もっと僕におまえの視線を向けてくれ。僕以外目に入らないほどに。 「君を好きだって、言ったよね」 僕はポッターの視線がこちらを向いていることを確認したうえで、僕はそれに気付いていないふりをしながら、いつもの空き教室に足を運んだ。 彼が僕の後をついてきている事は、わかっていた。僕がそう仕向けたから。 ポッターの視線がこちらを向いていたことを、視界の片隅で確認して、わざと視線を合わせなかった。お前が僕を見ていても、僕はお前を見ていないんだって……。 本当は、その時のポッターの顔をしっかり見ていたかったけれど……どんな表情をしていたのかは解らないけれど、それでも強く僕を見ていたことは解った。背中でもお前の視線を感じる事が出来ると思う、そのくらいに強い視線。 僕は、ポッターの視線を意識して、声のかけられない程度に近い場所をわざと通りすぎる。 ついてこいよ……って。気付かせないように。それでも、ちゃんと付いてくるように。 だから、僕が一人になりたい時にいつも行く空き教室に再びポッターが現れた事に動揺を示したのは、わざとだった。 「……ポッターか、驚かすな」 「君が好きだって……僕は言ったよね?」 重く、低い声で、怒りを押し潰したような苦しげな声は、僕の耳には心地が良かった。 「……なんだ、冗談じゃなかったのか」 冗談なんかじゃないことくらいは、良くわかっていた。その言葉よりはその視線で強く理解していたんだ。 「君に冗談なんか言わないよ」 冗談を言い合う仲じゃない。冗談すら通じない仲だ。 嫌悪と良く似ていた強い執着を、好きだと言う気持ちに擦り変えるのに大した葛藤もなかった。僕にとっては強く、想う気持ちには、嫌悪でも好感でもどちらでも大差なかったからだ。他人に対して、これほどまでに強い執着を向ける事が出来ると、その事に何より驚いていた。 だから、同じだけの質量で僕に執着して欲しかった。それは好意でも嫌悪でもどちらでも同じだ。 僕に対して感情を乱しているのが、楽しい。感情を荒立てる程度に僕が彼の心に在ることが嬉しい。 表情を固くするのに苦労しそうだ。僕は僕の欲求を満たすためには、強固に心を漏らさないことが必要となってくる。僕はそれが得意なんだ。 僕は僕の一番欲しいものを手に入れる。そのための苦労は嫌いじゃない。 「冗談でないとしたら気の迷いか? 僕はわざわざその事に対して言及しないでやっているんだ」 「気の迷いだったらいいのに」 ポッターは溜息をついた。 気の迷いで、そんなに強い視線を送らないだろう。もうずっとだ。僕もお前もお互い、ずっと見てきている。気の迷いだなんて感じる事も無い。 「今までが今までだろ? そんな話は信用できないな」 ポッターの気持ちには疑う余地すらない。真っ直ぐに真摯で僕を射抜くような視線には言葉のような曖昧にできる部分は存在しない。 「どうすれば、信じてくれる?」 「証拠を見せろ。そんなものがあるならな」 何よりも、その強い視線が証拠だった。 僕が、いつものように嘲るとポッターは眉根を寄せた。 → 091021 |