同窓会で久しぶりに再会して










 ……何で、ここにいるんだか。


 4寮合同の同窓会。

 時間もあるし、久しぶりにみんなに会いたいと思ったから来たんだけど………まさか、の人物が居た。


 まさか、こんな所に来るなんて思わないし。


 いや、別にさ、居たっておかしくないけど。
 おかしくないけど、まず話すこともないと思ってた。来た時点で存在を確認してはいたけど。明るいブロンドは昔から目立ってたから。

 人だかりの中心にいて、だから別に話すこともないと思ってた。ちらりとこっちを見たのを気付いたから、あっちも僕の事気付いたようだったけど。

 僕も直ぐに親しい友人見つけて話し始めて、楽しくなっちゃって、忘れてたのに。



 話し疲れて、お酒も入ってたし、ちょっと離れて。




 酔いも冷ましたかったし。



 テラスに、出た。




 ら。




「あ……」

 まさか、居ると思わなかった。

 ぼんやりと外を見ちゃって。

 細身のシルエットのスーツは、様になってたけど。


 気付かれないうちにやっぱり退散しようかと思ったけど……。



 振り返った。


 から、気付かれた。今更、無視するのも大人げない。
 もう、学生の頃と違って、僕もいい大人なんだし。
 仕事もして、ちゃんと社会人やってるんだから。


 とりあえず軽く挨拶ぐらい。



「……ポッター…」

「や、やあ。久しぶりだね、マルフォイ」


 僕は、ぎこちなく片手を上げた。

「……久しぶりだな」


 マルフォイは、そんな僕の様子を見て、少しだけ笑った。
 嘲笑ってる顔しか記憶に無かったけど、マルフォイは、あっさりと、普通の笑顔で僕に対応したから、なんか、拍子抜けしたと、いうか……。


 まあ、マルフォイも大人になるわけだろうし。


「酔いを醒ましに来たのか?」
「ああ、うん。飲みすぎちゃった。マルフォイも?」

 さっきまで、人だかりの中心にいて、話し相手には困らなそうだったから、こんな場所に一人でいるなんて、僕の想定外だ。



「僕は、あまりこういう雰囲気が得意では無いから」
「ああ……」

 なんか、そんな雰囲気。

 マルフォイに似合うパーティーは上流階級の静かなお上品なパーティーなんだろう。

 立食パーティーで、会場こそ豪勢な場所だったけど、空気は大衆居酒屋と変わらないような……。

「マルフォイが来ると思わなかったよ」
「僕も、来るつもりはなかったんだが、この屋敷はマルフォイの所有だから。無償で提供している手前、顔ぐらい出しておくべきだろう」
「……ああ、そう」
「まあ、会いたいと思う奴も、来るかもしれないと思ったから」

 未だにたいそうなお坊っちゃんで。
 僕なんかジャケット着れば正装だと思ってるくらいなのに、細身のシルエットをしたマオンカラーのスーツは、たぶん彼にあつらえたんだろう。

 会いたい人か……誰だろう。

「最近、何してんの?」

 お貴族様は、どんな生活なんだろうって、気になっただけだけど。

「最近? 毎日仕事だ。来る日も来る日も仕事しかしていないな」
「へえ。僕と同じだ」
「お前もか?」
「うん。結婚とかは?」

 そろそろ僕達も適齢期だし。
 去年、親友達が、めでたくゴールインしたし。

 マルフォイの指をちらりとみた。エンゲージリングはしてないようだったけど。念のため。先を越されたら悔しいような気もした。

「見合いの話が面倒だ」
「ああ、大変そう」
「お前は?」
「仕事に追われた平社員には出会いなんかないよ」

 女の子と出会うのは学生のうちだね。それ以降は、仕事で女の子が居たって、そうゆう対象じゃなくて、まずお仕事だ。


「そっちはそっちで忙しいようだな」

 マルフォイは、右手を軽く口元に当てて、軽く笑った。

「何がおかしいんだよ」

 笑い方は、昔と違って、鼻につく笑い方じゃなかったけど。

 綺麗な顔は昔から。
 上品な仕草も昔から。


 昔より、美人になったけど。

「いや、天下の英雄様が、しがない平社員とは……」
「………」

 ああ、やっぱりマルフォイか。嫌味を言うのを忘れないとは。

「別に、仕方ないだろ?」
「いや、気を悪くしたら謝る。だが、な」


 マルフォイが謝るだなんて、前代未聞だ。

 それでも今のマルフォイは、謝り方一つでも、昔みたいに嘲る感じるじゃなかった。



「マルフォイ、なんか棘が取れたね」

 そう言うと、マルフォイは少しだけ僕を見た。

「嫌味か?」
「ごめん、違うよ。気を悪くしたらごめん」


 さっき、マルフォイが同じこと言った。
 僕の棘も抜けたんだろうか。


 抜けたのは、確かかもしれない。嫌いだって、思ってたけど。今だって苦手意識あるけど、それでも、嫌悪剥き出しで喧嘩腰になるわけじゃない。

 お互いに知らない時間が流れるうちに、大人になったんだろうな。


 このマルフォイだったら嫌いじゃなかったのに。

 昔は、全然駄目だったけど。


「そうだな。昔は僕も子供だった」
「それはこっちもだよ」

「いや、僕の方が子供だった。振り向いて欲しい相手には喧嘩腰でしか接することができなかった」

「……そうなんだ?」

 まあ、マルフォイなら。
 わかるかも。

 相手を貶すことにかけては、右に出る奴なんか居なかったし。

「ああ。接し方がわからなかったんだ。自分から折れるのも癪だったし」
「へえ」
「結局、喧嘩した記憶しかない」

 ちょっとだけ自嘲気味にマルフォイは笑った。

 でも、マルフォイはずっと僕の事を見ていた。眼差しが懐かしむようじゃなくて、少しだけ熱っぽかった。


 なんか、マルフォイが言ってるのって、もしかして僕の事かな、なんて……それは自意識過剰ってやつだと思うけどさ。

 簡単に考えれば、きっと好きな女の子が居たんだと思うけど。

 親友達だって喧嘩ばっかだったし。



 ただマルフォイが言ってたように、僕もマルフォイとは喧嘩した記憶しか残ってない。

 それに……マルフォイは女の子にはいつも優しくしてたような気がしたから。

 まあ、四六時中一緒に居たわけじゃないから、僕の知らない所で色々あったんだろうけど。


「会いたかった人って、その相手?」
「………まあ、な」


 マルフォイがじっと僕を見るから……。


「マルフォイ、もしかして酔ってる?」



「……そうかもしれない」


 そう、言ってマルフォイは僕から視線を剃らした。



 酔ってるんだ、きっと。


 マルフォイが、あんな目で僕を見るだなんて……。



「そろそろ帰る」
「え? もう?」

「明日は大事な会議があるんだ。酒の匂いをさせて出席するわけにも行かない」

「そっか。仕事じゃ仕方ないね」

 もう、ちょっと、マルフォイと話してたかったけど。


 昔のマルフォイは苦手だったけど、今のマルフォイとなら、きっと昔話しに花が咲くと思うんだ。
 今の君となら……。


「君が会いたいと思ってた人には会えたの?」


 なんか、少しでも話を引き伸ばしたかったから、思い付く話題を振った。


 親友以外に、僕は結局一番記憶に残ってた相手は君だった。

 同窓会があるって聞いて、真っ先に思い出したの、マルフォイの顔だった。こんなに綺麗になってるだなんて、予想外だったけどさ。


 だから、マルフォイも僕に会いたかったって思ってくれてたらいいだなんて、そんな事を思った。


 ちょっと、あと、マルフォイの心を占めてた相手に嫉妬。





「ああ……会えた」


「そう。誰か訊いていい?」

 ちょっと不躾な質問だとは思うけど。
 僕は酔っ払いだし、君だって、少し酔ってるんだ。無礼講だよね?


「駄目だ」

「ケチだな。じゃあ、僕の知ってる人かどうかだけでも教えてよ」

 知って、どうするんだろう、とか思ったけど……。
 知った所で、どうするわけでもないのに。


「それも駄目だ」

「じゃあヒント」


 尚も食い下がる僕に、マルフォイは溜め息を吐いた。呆れられたかと思ったけど、マルフォイは、苦笑してたから。


「知ってどうなる?」

「だって知りたいじゃん。かつてのライバルの心を占めてた相手っての」


 知ってどうなるわけでもないけど。


「じゃあ、ヒントを一つだけ」


「うん」

 僕は知らずうちに、喉をならした。










「今、僕の目の前に居る」










「………え?」






 それって。



「時間だ。迎えが来るから、先に失礼する」


 マルフォイが…………僕を?


 振り向いて欲しい相手に喧嘩腰だった相手って。


 会いたかった相手って。




 呆然と立ち尽くす僕は……テラスから立ち去ろうとしているマルフォイの後ろ姿をただ見ている



 見ているだけなんて……。



 これで、終わりだなんて……




 もう、会えないなんて……





「マルフォイっ!」


「………」


「今度、時間あったら、ご飯でも食べに行こうよ」


 マルフォイが立ち止まった。


 だけど、こっちを振り向いてくれなかった。



 これで、マルフォイともう会えなくなるだなんて嫌だった。もっと話したいって、そう思った。



「時間なかったら仕方ないけど、たまには、息抜きにもなると思うし、昔はあんなに喧嘩ばっかだったけど、今なら僕だって大人になったんだし、楽しい思い出だって作れると思うんだ。これからだって遅くはないよ」


 ……僕は、何言ってんだ?


 でも、それでも、僕は……。

 今、マルフォイと別れたらこれっきりになるって確信してた。





 だから。


「……ポッター…」

 ようやく、マルフォイが僕を見た。


 困惑げな顔して……でも、暗いけど解った。マルフォイの顔は真っ赤になっていた。


 でも、僕だって………。



「ね。嫌な思い出しかないんだ。これからだって、いいじゃないか」


「…………」


「そりゃ、君が嫌だって言うなら……」


「嫌、じゃ、ない」


「だったら」

「本当に?」

「………ポッター」

「あ、なら」


 僕は慌て懐を漁る。
 仕事用のだけど、名刺。

「僕の連絡先。書いてあるから」
 マルフォイは、僕の渡した名刺と、僕の顔を見比べてから、少しして……。



 微笑んだ。



 僕に……学生の頃、一度も見せてくれたことがない、花の蕾が綻ぶような、綺麗な微笑みだった。












090511
誤字
学生の頃→学生残ろ