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 マルフォイを抱き締めている僕を僕は信じられない。

 なんで、僕は、こんなことを、しているんだ?

 落ち着け?
 落ち着いて考えろ。


 どこからどういう流れで僕はマルフォイを抱き締めているんだ?

 だってこいつは、男で、その上にマルフォイなんだ!
 僕が優しくしなくても誰からもちやほやされて……頭だっていいし、家族だってちゃんといるし、顔だって……ちょっと女の子みたいに線が細いけど……綺麗だし。
 僕は家族もいないし、頭もよくないし、頭もぼさぼさだし……。









 なんで、僕なんだろう……。








 マルフォイは、可愛いし、綺麗だし……僕なんかよりもっといい人なんか選り取りミドリじゃないか。



 僕は、嗚咽を漏らしているマルフォイを抱き締めている腕に力をこめる。


 僕以外にだって……もしマルフォイがそういった性癖の持ち主だったとしても、僕より背が高い奴だって、顔がいい奴だって、成績が優秀な奴だってたくさんいるのに……僕だってうっかり可愛いとか思ってしまうんだから、マルフォイが好きだって言ってよろめかない奴なんかいない、きっと。僕以外にたくさんいるはずなのに……。





 たくさんいるけど……。実際に、マルフォイは人気があった。女の子からもだし、そういう感情があるのかはわからないけど、同性からだってよく声をかけられていた。
 そういう奴で良かったんじゃないのか、好きだとか言う相手は。僕じゃなくたって良かったんじゃないのか? だって、マルフォイは僕と違って……なんでも持ってるんだ。

 今日、マルフォイが楽しそうに話をしていた奴を思い出してみる。


 嫌な気分がした。


 僕の知らない誰かと楽しそうに話していると、腹が立つんだ。頭に来る。




 だってずっと僕だけだったじゃないか、君が特別に見てくれていたのは。君にとって特別って僕だけだったじゃないか、ずっと。




 僕は劣等感の塊で、家族がいないこととか、マルフォイがそばに来るとそれがますます刺激されて、自分が嫌になる。だから、見るのも嫌だった。

 だけどその反面、僕が欲しいものを全部持っているマルフォイが、僕だけに拘泥することが、僕の優越感を刺激したりもしていた。

 あのマルフォイが、僕を特別に思っているんだ。



 僕が、特別じゃないなら、君が僕を要らないって言うなら、だったら、誰の事も見ないでよ。



 君は、僕だけを見ていてくれればいいんだ。




「放せよ、ポッター」


「やだよ」

「どうせ僕のことを好きじゃないんだろう?」

「うん」




 好きじゃないよ。
 あんなに、散々僕のことを馬鹿にして。君の何気無い言葉で僕がどれだけ傷ついていたのか、君はきっと一生かかったって理解できないよ。僕が説明したって、わかったふりはできるだろうけど、僕が悲しかったことに対して同情はするんだろうけど、でも理解できるはずなんてない。
 君は何でも持っているのに。



「だったら!」


「放さない」


 君が、誰を好きになるのも許さない。君は、僕だけでいいんだ。


 嫌いになるのも、好きになるのも。
 君の一番は、僕なんでしょ? 君の中の一番を、僕以外の人に譲らないでよ。






「ポッター……、もう、嫌なんだ。お前に好きになってもらえないなら、もうお前なんか、どうでもいい奴にしたいんだ」





「駄目だよ」


「だって、苦しいんだ」



 僕のことを想って苦しがればいい。
 君は全部僕でいいんだ。君の中が全部僕で埋まっていればいいんだ。


 僕はそれが嬉しいんだから……。




「ポッター?」


 マルフォイの声は、柔らかく僕の鼻腔を擽り、彼がいつもつけているコロンが澄んだ音色を立てる。


 抱き締めている、僕の腕の中の存在は、僕には必要なんだ。


「僕は君の事を好きになるかもしれないよ」


「………」

「今は好きじゃないけど、でももしかしたら好きになるかもしれない」

 今、離れてしまってもいいの? 君は期待することだってできるんだ。


「卑怯だ」


 卑怯で、いい。
 だって僕は君が必要なんだ。僕に感情を向ける君が要るんだ。


「………ポッターは……僕を好きになってくれるのか?」


 好きになってあげたっていけど……。



 そうしたら、僕の事が要らなくなるんじゃない? 君は何だって持っているんだ。素直に気持ちを表現できる勇気すらあるのに……。

 僕が手に入らないから、君は僕を気にしているだけで……僕が君を拒絶したから、僕を手に入れたくて必死になっているだけで……。

 君は手に入っているものを当然のように享受している。恵まれた環境、才能、容姿、全部持っているのに……それを維持する努力なんてしないだろう?
 僕を手に入れたら君の興味はどこかに向いてしまうだろう。

 だからもっと僕を求めて頑張ればいいんだ。




「……ポッターは、ずるい」



「狡いのは、君の方だよ」



 僕は、君をよく見ていたんだ。喧嘩をして勝つために、君を傷つけるために、ずっと見ていたんだ。きっと誰よりも僕が君の事を見ていた。

 君だって僕を見ていたんだろう?
 わかっているはずだよ……僕は卑怯者なんだ。









「ねえ……キス、してあげようか?」




 少しだけ、僕達の間に隙間を作って、僕は彼の顔に柔らかく微笑みかけた。



 マルフォイの頬が真っ赤に染まり、耳たぶまで熱を持ってくる。

「可愛いね」


 可愛いよね。
 こうやって、頬を染めて、恥じらっている姿はとてもいとおしい。
 大事にしてあげたくなってしまう。

 大事にしてあげるよ。やさしくしてあげる。






 でも、好きになってあげない。

 君は僕をもっと求めていればいいんだ。

 ずっと僕に執着していてよ。
 絶対に僕を、どうでもいい存在になんてしないでよ。君は全部持っていて、きっと望まれて生まれてきているんだろうね。そんな君にとっての一番が僕ならば、僕は世界に存在していてもいいって、そう思える。ただの優越感だよ。




 そうすれば、もしかしたら好きになってあげるかもしれないよ?




 マルフォイが、おずおずと、僕の背に腕を回す。もし、これをわざとやっているのだとしたら、たいした才能だ。僕を喜ばせる才能があるよ、マルフォイには。



 放してあげないよ。



 君は僕のために、ずっと僕を好きでいればいい。



 再び触れた唇は、ふんわりと柔らかくて………………





















































080217
UtatanEruはりどら文初のラブラブオチじゃない話。
……24話だけ、ハリー、暴走。真っ黒く変貌。
この話で一番書きたかったのは1話目。
後は惰性。
ラストはプロットできてないまま書いてみたらこんなんなりました。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
………
……


一応、この続きは考えてあるんですが……まだ書いてません。
そのうち、なるべく早いうちにこのハリーとドラコを幸せにしてあげたいです。
本当にスミマセン。

さて、次だ次。