ああ、憂鬱だ。 僕は最近常日頃からこのイライラが慢性化しつつある。こんな若いうちから僕の眉間にはしわができてしまうではないか、僕の美貌に傷が付いてしまったらどうするつもりだまったく。 苛立ちの原因ぐらいは良くわかっている。その原因を根本から断ち切らなければ、僕のこの眉間のしわはトレードマークになってしまうのではないだろうか。それは絶対に避けたい事態だ。 根本原因を絶たねば。 僕は、はっきり言って魔法界の英雄であるあいつの事が大っ嫌いだ。 はっきり言わなくても嫌い。 本当に嫌い。 見るのも嫌だ。 見たら嫌味の一つでも言ってやらないと気が済まない。 ただ、嫌味を言っても通用しないことがある。平然とした笑顔……しかもにやついた顔をして、鼻で笑いやがって。 もう、本当に存在全てを消してやりたいと常々思っている。 今日も今日で嫌味を言いに言ったら、晴れ晴れしい笑顔を返された。 絶対に馬鹿にされている!!!! 頑張って頑張って思いついた嫌味を、だぞ! そんな余裕な態度をとられると、僕が惨めになってくる。まああっちはそれを狙ったのかもしれないけれど……許せない。 僕が紳士的に嫌悪感を表現しているのだから、そっちだって対等に返せばいいものの、なんなんだ! 喧嘩を売っているのか!? いや、僕が売っているのだけれど! 何なんだ、一体、あいつの最近の余裕ぶった表情は。新しい嫌がらせか? くそう、あの笑顔を出されたら僕は次どんな嫌味を思いつかねばならないのだ。けっこう思いつくのも苦労しているのだ。育ちがいいものでな。 どうやったら、僕の憂鬱は解消されるか。 あいつとあいつらをこてんぱにのせば、きっとどれほどにすっきりするだろうか。 僕の最近の夢はそればかりだ。 あいつらさえいなければ、僕のこの学園生活は、夢と希望に溢れて有意義なものであったに違いない。そして父上にもたくさん褒められたに違いない。 あいつを、僕は許さない。 魔法界の英雄、ハリー・ポッター! いつか僕の手で引導を渡してやる! それについては、下準備が必要になってくると考えられる。 最近のポッターの様子を見るに、僕の発言に対して堪えている様子はないのだから。もっと僕が効果的で素晴らしい嫌味を思いつくためには、ポッターの弱みを握らなくてはならない。 ゴイルやクラッブに嗅ぎ回るように言いつけてはいるが、どうにも収穫はない。 一昨日は夕食を残さず食べていたとか、昨日は友達と遊んでいただの……今日はなんと、クィディッチの練習の時に素晴らしい飛行技術を見せ付けてくれたらしい。二人がその素晴らしさについて熱く語っている……洗脳されるな馬鹿どもめ。僕はポッターの粗を探して来いと言った筈だ! こいつらが使えないとなると……まあ、もともとそれほどの期待をして送り出していたわけではないが……僕がポッターを観察しなければならないと言うことになる……。 それはそれで…仕方がないと考えよう。 ポッターを陥れるためには、そのくらいの労力は惜しくはない。 ポッターのここぞとばかりの弱点を探し、傷を抉るように言ってやる! 僕は、自分で見ても性格が悪いと思う。 狡猾なスリザリン生代表だと、スリザリンの中でも言われることが多い。 狡猾とは、あまり良い意味では使われないことぐらいは理解しているが、まあ、頭がいい、賢い、に置き換えることも可能だ。別にそのことについて僕は何も思わないし勝手に言っていればいいと思う。 そんなこの性格のおかげで友人も少ない。いないわけじゃないがな。 まあそれでも別に構わない。 友人なんて馴れ合いは嫌いだ。みんなが楽しそうにしていると多少寂しく思うことはあるけど、別にそんなことぐらいで僕はへこたれたりしない。 部下は必要だけど、対等な奴は要らないんだ。 僕は高貴な生まれなんだからな。その辺にいる奴らとは違うんだ。馴れ合いなんかは必要としていない。 そんなおかげで、僕はここでは最悪な性格だと評判が高い。近寄ってくる奴は僕の家名ばかりが目当てだ。まあそれすらもない奴は僕が羨ましいのだろうけどな。 完璧な容姿に付け加えて幼少からの英才教育による優秀な頭脳、そしてこの古くからの純血の由緒正しい血統による高貴な生まれ。 顔は男らしいとは言いがたいものではあるが、まあ、まだ成長期なんだし、これからだ。これからの成長期が楽しみだ。身長だって高くなってやるんだ。鍛えれば筋肉だって付くだろうし! 今はグレンジャーに及ばないが、最近の授業は僕の得意分野のものが多いのだから、今学期こそ絶対に負かしてやる。次こそは僕が主席だ! 生意気なあのマグルの鼻っ面をへし折ってやるぞ。スリザリンの寮内では僕が一番なのだから、僕が首席になるのもそう遠い未来の話ではないはずだ。 奴らはここにいる全員が僕と対等だと思い込んでいる馬鹿どもだ。対等なわけないじゃないか。僕は純血を重んじる古き良き血統のマルフォイ家の長男であり一人息子なのだからな。大事にされて当然だし、僕以上の血統の人間がこのホグワーツにもいないのだから、僕が偉くても当たり前だ。 みんなから嫌われている。そんなこと百も承知さ。構わない。望むところだ。 僕のどこをとってもケチをつけるところなんかは性格ぐらいだろう。そのくらい、他人のやっかみとしては大歓迎だ。勝手に言っていろ。僕はそんなやっかみや僻み、妬みを糧により輝くだろう! 僕の性格が悪いくらいは、そのくらいまあ許容範囲だと僕は思っている。別に誰に文句を言われようと今更変えるつもりなんてないし、変えられるとも思っていない。 別に僕はいいんだ、放っておけ。 外野は言いたいことを言っているのが役目だ。 それに引き換えあいつは……。 英雄と名高く、この魔法界にその名は知れ渡り、知名度としては僕のはるか上空に位置するだけでも腹立たしい。 英雄として気取っていてお高く留まって鼻持ちならないくせに、その八方美人の性格のおかげで友人も多い。自分の寮のグリフィンドールばかりか他の寮の生徒ともよく喋っているのを見かける。スリザリン生とは喋らないけどな。僕の寮の人間は僕の味方なんだから、ポッターとなんて喋るはずがないと思っていたけれど、最近ではあの調子の良さで、徐々にポッター側に付く奴も出てきている。 ぼくの味方であるはずのスリザリンの奴らがポッターと話しながら僕の方をちらりと見て、少し苦めに笑っていたりする。 なんて、感じの悪い。 僕が気付かないとでも思っているのか? 気付かないふりをしてやっているんだ。僕は優しいからな。 お前もポッターと同罪だからな、いつか見てろ! 僕が大人になって偉くなってもお前のことなんか庇護してやらないんだからな。 そんなこんなで、ポッターには友人が多い。 しかも、僕だって箒の扱いは得意だし、飛行技術だってセンスがある方だと思うのに……。 この前の試合も負けた。僕だって下手なほうじゃないのに。 グリフィンドールごときに正々堂々と勝負してやるつもりなんてないけど……僕がスニッチさえ掴むことができればスリザリンは勝っていたんだ。 僕の技術が足りないのか……もっと早い箒を手に入れることが出来れば僕の方が強い! はずだ、きっと! 勉強はそこそこ中の下から下の上か下の中か下の下ぐらい。教科によって差が激しい。魔法薬学の実験以外の実技を伴う教科に関してはほぼパーフェクトだ。教科書を丸暗記するような魔法史などは留年ギリギリ。 全体を通してみれば、まあ、魔法使いとしてのセンスはある方だと思う。ただ覚えることが嫌いなようだ。公式を覚えてしまったりした場合はどんな難しい教科に関しても問題なく解いているようなので、考えることが嫌いとかではないようだ。覚えるのが苦手なようではあるが。 ただ、奴自身が気にしていないから、弱みにはならない。 顔は、悪くない。 まあ、僕には劣るがな。 全体のパーツは整っているし、髪はぼさぼさだが、櫛さえ入れれば髪質は悪くなさそうだし……服の着方はだらしないけれど、どうにも気崩すのがかっこいいとわけのわからないマグルの文化がホグワーツにも浸透し汚染されつつあるので、今の僕はその考え方に対しては多数決によると弱者の方に入る。まあ、おまえら下級貧民が僕と同じに服を着たら、あからさまに僕の方が綺麗に服を着こなせるから、より僕が目立ってしまうだろうがな。 気に入らない。探ってやらねば。 なにか、言い負かせるものを。 言い負かせて、ポッターが二度と僕に楯突かなくなるような建設的な嫌味を言うために、僕はポッターのこれ以上ないくらいの――…… なにか弱点を……!!! 僕は最近ポッターの弱点を探すために、ポッターのことを隠れてこっそりと見ている。 こんなこそこそして奴の周りを嗅ぎまわるだなんて、マルフォイ家の嫡子として恥ずべき行為である気もするが、まあ、そのあたりはこれから快感を味わうための下準備だと思えば辛くも苦しくもない。耐えられる。 今日のポッターは、放課後女の子に呼び出されていた。中庭で木の陰に隠れられる場所だから、僕もその近くの陰に隠れてこっそりと様子を窺う。 こっそりと隠れて見ていると、どうやら告白をされているらしい。 女の子が顔を真っ赤にさせてポッターに何かを言っているから、そうなんだろう。 なかなか可愛らしい女の子だ。馬鹿な男どもなら彼女の外見だけで性格を知ることもなく、ほいほいと浮かれて付き合ってしまうだろう程度には、可愛らしい外見をしている女の子であると思う。 ただ、えてしてああいう可愛らしい子に限って性格が悪い。 ちゃんと見極めてからでないと、あとあとひどい目に合うぞ。 なんて、僕が心配をしてやる義理もないがな。 ポッターなんか、浮かれて付き合って手ひどく振られてしまえば良い。その上に僕が追い討ちをかけてとどめを刺してやるんだ。 「ごめんなさい!」 勢い良くポッターが頭を下げている。 なんだ、彼女は好みじゃないのか? 断るのか? 勿体のない。 「僕には好きな人がいるんだ。だから君とはお付き合いできません、ごめんなさい」 とか、何とか言いやがって。誠実ぶりやがって。本当は面倒なだけでそう言ったに違いない。 それにポッターに好きな人が出来れば噂好きな女子の耳に入って、瞬く間にホグワーツ全体に広がるはずだ。僕はそういった情報には敏い方なんだ。その僕が知らないとなると、なかなか極秘なのだろう。 それにこの前ポッターが女の子に惚れているらしい噂を聞いてポッターを観察してみたが、あんなにわかりやすい態度をとられて、噂のレベルでもない。一目瞭然だった。 最近のポッターを見る限りでは変わった所もないようだ。 つまり、誰かポッターに好きな人ができたと言う事はデマだ。 以前も、ポッターに好きな人が出来たという噂が耳に届き観察をしてみた所、あまりにもあからさまで見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいだったのだから。 最近のポッターは特に通常通りに生活をしているようだ。 変わったことといえば、まあ僕の嫌味に反応しなくなったことぐらいか。 なにやら和やかなムードで、お互いがぺこぺこと頭を下げて、照れ笑いをしながら別れて行ってるのが目に入った。 そうやって断れば女の子はどうやら機嫌がいいのか? 同じ状況を作り、同情を引く作戦というわけか。 僕に言い寄ってくる女の子はどうにも煩いから、煩いとか邪魔だとか、何が目当てだと訊くと、後々に厄介なことになる。いや、その場で号泣されたりとか、その時からもう酷い厄介ごとに巻き込まれてしまう。 そんなこんなで女の子は全般的に苦手だが、これは使えるかもしれない。是非とも今度使わせて頂こう。ポッターのくせになかなか賢いじゃないか。 …………いやいや、褒めてどうするんだ。 僕はポッターとその隣にいる女の子に気付かれないように、こっそりとその場を去った。 とりあえず、部屋に戻り、宿題を仕上げ終わってから、ゴイル達のいびきを聞きながらポッターについてのメモをまとめる。 今の所のポッターの収穫はほとんどゼロに等しい。 《外見》 外見は、まあ悪くはないほうだと思う。僕の方が勿論美しいが。身長は僕と同じくらい。少しだけ僕の方が低いようだが、そのうちに負かしてやる。これについて口論になった場合勝率は五分五分。 ポッターの寝癖を見る限り、あまり外見にこだわっているようではない。まあ、好きになった女の子を見る限り、どうにも面食いの可能性は否定できないようだが。 《成績》 勿論、悪い。この場合の勝率は80%くらい。ただし、ポッターが一人でいるときに限る。横にグレンジャーがいると分が悪い。あの三人はいつもつるんでいるからな。あの三人の平均点を算出した場合は勿論僕よりも酷く落ちるが、僕の方もいつも一緒にいるゴイルとクラッブを入れて平均化した場合は……教えているのに、何故いつまでたってもあいつらは学ぼうとしないんだ。気の良い奴らなので決して嫌いではないし、幼い時から良く遊んでいたから、今更好きも嫌いもないが、それにしても使えない奴らだ。 僕とポッターとで比べた場合には勿論僕の圧勝だが、ポッターは勉強に対して何かをこだわっているようではないので、僕が成績に対して何かを行った所で気にしてもらえない可能性がある。 これは、やめておこう。 《家柄》 は、悪い。 育った環境はどうにも階段下だというじゃないか。僕の家にも階段下ぐらいはあるが……スペースとしては問題ないが……何だか良くわからない。話を聞いているとどうやら物置のような場所であるらしいが……、良くわからない。どちらにしても良い場所とは言いがたい。 ただ、マグルで育ったために粗野で貧乏臭さを滲み出してはいるが、出生はマグルが混じっているとはいえ、決して悪くはないらしい。どうにも両親はホグワーツで優秀な成績を収めて卒業したというではないか。親に関しては……まあ、父上も母上も非の打ち所がないが、ポッターに関してもあまり文句をつけるところもないだろう、マグルという以外は。マグルの穢れた血を馬鹿にするのであれば、グレンジャーなど100%だし、スリザリンにも混血は多くいるのだから……そのことを言われると僕の嫌味の対象が重点を絞れなくなる。僕は的確に効果的にポッターだけに対しての嫌味を探しているんだ。 それにマグルの穢れた血が混ざりこんでいるとしても、あいつが気にしていないのでは嫌味にならない。 《交友関係》 交友関係は広いようだ。この前も他寮の生徒と仲良く話しているところを見たから。グリフィンドール生からの支持は熱い。それは見ないでもわかる。誰とも気さくに話しているところを見る。英雄というものを抜きにしてもどうやら性格は温厚で僕に対して以外喧嘩をしている所を見たことがないので、友人は多いのだろうと思われる。 まあ、この魔法界の英雄なんだから、奴を慕っている生徒は多いのはわかる。実際に魔法界の脅威と戦って何度か撃退しているという実績も持っている。いや、真実の所は僕が隣にいたわけではないからわからないけれども、先生方もそれに対して認めているから本当なんだろう。 僕だってこの家柄のために支持されて当然なのだが、まあ家柄目当てで寄ってきている友人は使えるから友人としてそれなりに扱っているが。 《異性関係》 この前も女の子に告白されている所を見ると、女性からも男として支持されているということだ。まあ、英雄というブランド目当てで寄ってきた女の子じゃなかったという保証はない。僕に言い寄ってくる女の子が僕の外見か成績か血統かどれ目当てなのかがわからないのと同じだ。 ただ、どこの寮の誰と誰がポッターのことを好きだという噂とかもよく耳にするから、どうやら人気はあるらしい。どこがいいのかさっぱりわからないけどな! だが、ものすごく不細工であったり、あまりにも性格が良くなかったりすればきっと寄ってくることもないだろう。英雄なんて、それほど稼げる仕事でもなさそうだ。こいつと将来結婚したって明るい未来が開けると思うなよ、女ども。 《性格》 ……僕ははっきり言って嫌いだ。お人好しの偽善者の八方美人め。誰にも好かれると思ったら大間違いだ。それを僕が証明してみせる。まあ、グリフィンドールというだけでスリザリンからはとても嫌われてはいるがな。 だが、まあ、友達が多いところを見ると良好なのだろう。僕がまあ、これは言われたら傷つくだろうと思われることを言っても、限界まで我慢をしている。まあ、限界を超えたときに殴り合いになることも多々あるが。 ポッターに関しての陰口を聞いた事は少ない。というか、ない。僕が率先して言ってやらないとポッターに関しての陰口の一つも聞けやしない。どうにもやってられないけど、周囲からは良く思われているようだ。 ………総合した結果、いまのところポッターを思い切り気持ちよく傷つけるほどの効果を持つ弱点は見つけることが出来ない。 もっと深く探らなくては。もっと何か効果的な弱点を! それを探して、僕はこっそりとポッターを付回す。 もしかしたら気付かれるのではないだろうかと思われるほど近くまで行って、ポッターとその友人達の話を聞くことにした。 何を話しているのかさっぱりわからない。 とりあえず、弱点としては、あまりセロリが好きではないらしい。だが、ポッターが食事を残したところを見たことはない。僕は偏食大魔王なので、セロリは何とか飲み込めるがピーマンもグリンピースも食べることが出来ない。これを弱点とは言わないだろう普通。これは聞き流しておく。 いや、弱点か? 「英雄殿はセロリが嫌いなのか? お子様だな」 まあ、せっかく見つけたポッターの欠点だ。 今日の夕食のサラダの中にセロリが出たので、せっかくなので先に食事を済ませてポッターの横を通り過ぎるときに嫌味を一つ。 ポッターに取り分けられたサラダの皿にはセロリだけが残されていた。まあ、きっとポッターは残すことはないだろうから最後に食べるのだろうけれど。 僕の皿はもう下げられたから、まあセロリを残したことは気付いていないだろう。他にも今日は僕の苦手なメニューだったからほとんど食べられなかったのだけれど。 振り向いたポッターは、なにやらちょっと照れくさそうに下を向いた。 「ああ、うん。独特の苦味があってあんまり好きじゃないんだよね。小さい頃から、従兄弟がセロリ嫌いだったみたいで育った家では食べたことなかったし」 うん。わかる。 あの苦味が、な。好きな奴に言わせればあれが美味しいのだそうだけれど……僕は慣れない。家でも僕が嫌いなものはどうせ残すからあまり僕の嫌いの物は出されなかったから……食べてない。昔から食べつけていないと、この年になってから好きになろうとかは思わないものだしな。 いや、わかっている場合じゃない。 「僕は、お前がお子様だといいたいんだ」 「え、でもマルフォイだってセロリ嫌いでしょ?」 ………。 何故知られているんだ? 食べるときは食べるぞ。今日は残したけれど。 今日だって僕の皿はすでに片付けられているのだから、ばれているはずなんてない。 「いつも残してるじゃん」 「うっ」 いつも……残していたのがばれていたのか? 「それに、ピーマンもグリンピースも嫌いでしょ? あと、ラム肉とレバ」 ………。 ……………。 何だ? 何故ばれている? こいつも僕のように僕の弱点をあさっていたのか? ああ、駄目だ。このままじゃ僕がこいつのセロリ嫌いを責める場合じゃない。もっと多くのことで言い負かされてしまう。こんなことでは勝てない。 「ふん」 今日の所は負けを認めて引き下がってやるよ。 捨て台詞もはけないまま僕は大広間を後にした。 だが、このままじゃ悔しい。 セロリは……セロリが悪かったんだ。あんなに不味い物を食物として認識しろというほうがおかしい。お子様味覚という以前にあれが美味しくないだけだ。 このままじゃ、負けを認めるようなものだ。 どうにかして、ポッターの弱点を探らないと。 僕は、ポッターの後をこっそりとつけて回る。 僕はポッターの後をこっそりとつけて行きグリフィンドールの寮の手前で見失った。 どこに行ったのかわからないから、こっそりと柱の陰に隠れる。 まあ、グリフィンドールの寮の生徒達から何か噂話でも聞ければ儲けモノだ。そう思ってこっそりグリフィンドール生が行き交う寮の入り口付近にこっそりと隠れる。 ざわざわと騒がしい。 スリザリンだってまあ、学生なのだから授業が終われば雑談は煩いほどだと思っていたが……これは酷い。喋るじゃなくて喚き合うように喋る。笑い声じゃなくてこれはもはや動物園のレベルだ。やかましいというよりもけたたましい。 歩きながら通る学生の会話が耳に入った。 「そう言えばこの前ポッターと一緒に寮に戻ってきた時に話したんだ」 「へえ、羨ましいな。僕だってなるべく近くに行くのに話す機会なんてあんまりないし」 ……話すだけでも喜ばれるのか……寮内での人気は高い、らしい、やはり。 「ポッターはすごいよな。なんてったってシーカーだしな」 それがすごいのか? 僕だってシーカーだ。もっと僕を敬うがいい。 まあ、あいつの飛行技術に関しては確かに右に出るものはいないだろうが……それだけしか能がないじゃないか。そのことぐらい気付けよ、馬鹿ども。 何か、ないのか! 僕がこんな所に小さくなって聞いてやっているんだ。何かポッターの重大な弱点を僕に教えるんだ。 「あいつって本当いい奴だよな。シーカーだし、しかもなんて言っても魔法界の英雄なんだぜ」 「それが同じ寮にいると思うだけでも、なんかかっこいいよな」 どこがっ! 英雄だか何だか知らないが、あいつから英雄とクィディッチを抜いたらみすぼらしいなりをした生意気な貧乏人じゃないか。 グリフィンドールの目は腐っているのか。 「かっこいいし、気取らないし。話しかけても笑顔で話してくれるし」 「なっ」 ……なんだ、これは。 こんな所で僕が情報を得ようとしても収穫なんかはないのではないだろうか。無駄骨か。まあ、ゴイルやクラッブに任せるよりも自分の耳で聞いたほうが確かなのだから仕方がない。 「ただなー」 ……おや? 話の流れが変わりそうだぞ? 「ああ……」 隠れて聞いているので、そこにいるグリフィンドールの生徒がどんな顔をしているのかわからないけれど、声は浮かない声をしていた。 「な。あれは酷いよな」 酷い? 酷いって何が? もしや、ポッターの弱点か!? 「ああ、本当に、あんな酷い趣味だとは思わなかった」 なんだ? 趣味が酷いのか? ポッターのことだろう? 「ハリーは何でもかっこいいと思ってたけど……あの趣味の悪さだけには俺は付いていけない」 「あれは……いくらなんでもな。俺言ったんだよ、それはまずいって」 「だって、あれだろ? もっと他に目を向ければハリーなんてヨリドリミドリだろ」 「他のにしろよって。あんなの良い事ないってって言ったんだけど……」 「ああ、俺も言ったさ。何回もな」 「あの趣味の悪さだけにはついていけない」 「同感」 グリフィンドール生達はそう言いながら深い溜息をついた。そしてなにやら合言葉を言って寮の中に消えていった。 ……………。 そうか、趣味が悪いのか。 収穫があったぞ! ポッターは趣味が悪いんだ。あんなに盛大に溜息をついていたんだ、よっぽど酷いんだろう。あのグリフィンドール生も言っていた。酷い趣味だと。 だいぶ慕われていたようだが、それをも凌駕するほどの悪趣味。 ようやくポッターの弱点らしい弱点を見つけたぞ。 ただ、趣味が悪いよな……とは? 何だろう。 洋服の趣味か? いや、それはグリフィンドールに共通することだ。誰一人としてシャツの第一ボタンまで留めようともしていない。私服を見るも、ほとんどがトレーナーとジーパン。センスとかお洒落とか……この寮からは欠落しているとしか思えない。 思い当たることといえば…… 「まったく、英雄殿は悪趣味だな?」 「え……?」 グリフィンドールとの合同授業が終わった後、ポッターの目の前を通り過ぎた時にさりげなく言ってやった。 いつもの通りの嫌味。 いつもポッターは僕の嫌味に、顔をしかめて無視をするか言い返してくるかのどちらかだ。最近はなにやらポッターの態度がおかしいから、最近のポッターだったら、嫌みったらしい笑顔を浮かべて僕の言ったことを全部にこやかに受け流しているのだけれど。またその態度が腹立たしい。 だけど……今日はまた違う。 何だ? ポッターは固まっていた。 目を丸く見開いて僕をじっと見て固まっていた。 おや? いつもと反応が違うんじゃないか? それに、がやがやとうるさいグリフィンドールの生徒達もなにやら僕の方を見つめている……。 僕がポッターに喧嘩を吹っかけるのはいつものことで、殴り合いになったりしなければ、いつものこととして、僕達のことは放置しているというのに……。 何だ? この反応は? やはりポッターの悪趣味はみんなに知れ渡っているのか? やっぱりポッターのこの丸眼鏡はみんな何とかしたいと思っていたのか? きっとそうだ、そうに違いない。 それにしても……何だ? ポッターの反応がおかしい。 こんなに固まった上に、なにやら顔が赤くないか? 普段だったら、何が悪趣味なの、とかの文句を言ってくるだろうに……。 「知ってたの?」 「知ってたって……見ればわかるだろう?」 知ってるも何も、そのまんまじゃないか? 「いつから、知ってたの?」 「いつからって……」 いつからも何も、初めて会った時からじゃないか! 初めて会った時からお前はそのダサい丸眼鏡だったじゃないか。 悪趣味だ。 心底から悪趣味だ。きっとこれだ。 ポッターの悪趣味といえばこれしかない! 本当にこの眼鏡の趣味は最低だと思う。けど、まあ愛嬌があっていいんじゃないかと……僕が思ったわけでもないけれど。 あれからもう少し周りをかぎまわった所、ポッターが悪趣味だと言われだしたのはなにやら最近のことのようだが…… 今更……。そう思わないこともなかったけれど。 顔はけっこう整ってるんだから、あんな変な眼鏡で隠すこともないだろうけれど、まあ別に本人がそれを気に入ってつけているのだろうから、僕が何を言っても嫌味にはならないだろう。と思ったのだけれど……。 まあ、低学年の頃は別に男女も美醜もあまり気にせずに暮らしていたけれど……今もう、女生徒達は色づきはじめ、化粧をしている女子も多くいるし、男子生徒だって校則に逆らわない程度に身嗜みには気を使っている奴が多くいるんだ。 そのなかで、その丸眼鏡はないんじゃないか? だいぶ慕われているグリフィンドールの奴らに悪趣味といわれるほどなのだから……眼鏡だろう、きっと……たぶん。僕にはこのくらいしか探れなかった。 せっかく他の人間も趣味が悪いと認めているんだ。グリフィンドールの生徒だって後押ししてくれるさ。 趣味が悪いとは、きっと眼鏡のことだ。 「初めて会った時からお前はその変な丸眼鏡じゃないか!」 「………」 どうだ、ぐうの音も出まい! ほら、落ち込むんだ。 落ち込んで肩を落とすんだ。 周りだってそうだろう? ポッターのこの眼鏡が気に食わないんだろう? 「ああ、眼鏡ね……」 ポッターはなにやら眼鏡眼鏡とぶつぶつ呟いていたが……しばらくすると大きな溜息をついた。 いつもの嫌みったらしい笑顔が、ちょっと曇っていたけれど……少しは効いたのか? 「眼鏡、似合わないかなあ」 「…………」 そんなことを訊かれたって。 僕はお前のその眼鏡顔しか見たことはないんだ。 「その眼鏡の形がダサいんだ」 「そっかなあ……」 そう言いながら、ポッターは眼鏡を外した。 ………。 僕は、初めて見るんじゃないか? ポッターが眼鏡を取った素顔は。 なんか……。 うん、勿体ない、ような気がする。 顔立ちは整っているのに、何でそんな丸眼鏡なんだ。 素顔のほうが断然もてるんじゃないか? それなら、お前から英雄とかシーカーとかなけなしの肩書きを差し引いても、顔が少しは残るぞ。 「ねえ、眼鏡と素顔とどっちのほうがいいと思う?」 「何でそんなことを僕に訊くんだ」 「いや、マルフォイっていつも綺麗だから」 ……………………………。 トリハダ。 何だ? 何があったんだ、ポッターに。 何か悪いものでも食べたんじゃないか? いや、もちろん僕が綺麗で、このホグワーツ内でもトップクラスの美貌を誇っていることは自他共に認めることだけれど! 何だ? 新しい嫌味でも見つけたのか? ………。 ああ、それは有効的だな。 僕は、ぐうの音も出なかった。 完敗だ。 それにしても悪趣味……。 再び僕はグリフィンドールの寮の前の柱の陰に隠れて、グリフィンドールの生徒の噂話に耳を傾ける。 何だ? 悪趣味だと、そうグリフィンドール生も言っていたじゃないか。 何が悪趣味なんだ? あの反応からすると眼鏡、じゃあないようだ。 眼鏡だと思ったんだけどな。 ポッターの悪趣味はグリフィンドール内では有名なようで僕がポッターを悪趣味だと罵った途端に全員がこっちを振り返っていた。みんながわかることで、みんながわかるポッターの悪趣味。 一体それは何だ!? それさえ……その弱みさえ掌握できれば僕はポッターに勝ったも同然なんだ! ポッターの悪趣味! それを調べ上げなくては。 ポッターについての話題は、どうにもみんな好きらしく、なにやら色々と聞けるのだが……この前のクィディッチの試合がどうだったとか、この間誰かに告白されただとか、あいつのここがいいとかあそこがいいとか! 別にそんな話はどうでもいいんだ。見ればわかる。もちろん僕はその意見には賛同しかねるがな。 なかなかポッターのその悪趣味の話題については触れないようにしているのか……出てこない。 何なんだ? ポッターの悪趣味。 僕はノイローゼになりそうだ。何が一体そんなにポッターのどこが悪いんだ。 ポッターの素顔を見てしまったが……外見はやっぱり眼鏡ぐらいしか何か文句をつけるところはないだろう。僕が認めるのも甚だ悔しいが、まあ……一般的に見ればかっこいい部類に入るんだろうな。眼鏡顔だと思っていたが、実際はそうでもなく、意外と素顔もたいしたものだったから。 もちろん僕の方が麗しいことぐらいは誰の目から見ても明らかだけれど、それでもまあ、認めてやらないことはない。 好きか嫌いかといわれれば、ポッターの顔なんて好きなはずもないが。 何だ? 一体。 僕はそれを知らなければならない。 ポッターを宿敵としての地位を築き上げることが出来たのはこの僕ただ一人だけだ。 だから、ポッターを貶めていいのもこの僕だけだ。 探らなくてはならない、ポッターを貶めるために。 ポッターが英雄とかいきがっているその鼻っ面をへし折るために、僕はポッターのその悪趣味の内容を知らなくてはならないのだ。 ポッターの何が悪趣味なのかを知って、それを使ってポッターをぎゃふんと言わせる。 それは僕にしか出来ない。 そして僕に託された使命なんだ! 「何してるの、そんな所で」 「うわあっ!」 いきなり、目の前に、ポッターがいた。 「何やってるの、マルフォイ」 最近のこいつは、おかしい。 今まで合わせればしかめていた顔を、思い切り晴れやかにしやがって。 絶対に新手の嫌味だ。 僕は、そんなものには引っかからない。僕は思い切り不機嫌そうな顔をしてやる。 「何だ、ポッター。驚かすな」 「ずいぶん前から目の前にいたけどさ。気付かないんだもん」 「………」 しまった、自分の中に入り込みすぎていた。このうるさいグリフィンドール寮の前にして……いや、うるさすぎるからか? 「いや、散歩だ」 「散歩って……そんな狭い隙間に入り込んで、散歩?」 ………。 「…………」 「なんかさー、最近視線が気になるんだけど、マルフォイは知らない?」 「な、何ガだ?」 まずい、声が裏返った。 冷や汗が流れる。背中を今一筋流れ落ちたのがわかったぞ。 ポッターについて調べ上げているのだ。もちろんその視線の正体は僕に間違いないだろうが。 そんなこと知られては困る。 「うん、最近なんか誰かに見られているような気がしてさあ。マルフォイに心当たりがあったら教えてもらおうかと思ったんだけど」 「僕が知るわけないだろう!」 いや、僕です、すみません。などと謝ることはしないが。 僕の視線でこいつがノイローゼにでもなってくれればいいが、ポッターはそんなことはあまり気にしないだろう。 ニヤニヤと……。 もしかして、気付かれている? この笑顔の裏にはそういう意味が隠されている? 僕がポッターのことを探っているのがばれているのではないか? それは、まずい。 何がまずいって、プライドの問題だ。 ポッターなんかに拘っているなどと知られてはまずい。付け上がらせる原因になる。 なぜなら僕は優秀で完璧だからだ。 英雄の肩書きを剥いだらただの駄目学生なんかに、僕がこだわるはずがないだろう。 「まあ、いいけどね」 ポッターは、余裕ぶった笑顔を振りかざした。 絶対に感づいている。 それをわざと言わないつもりだな。 僕は知っているんだと、余裕ぶって僕を窮地に追いやって楽しんでいる笑顔だ。 まあ、いい。 こんなことは終わりにしてやる。 ポッターが悪趣味なことがグリフィンドールでこんなに有名なのだ。そのうち他の寮にも伝わるだろう。そうすれば僕の耳にも届くはずだ。 それからでいい。 この僕がこんなこそこそとポッターの周囲を嗅ぎまわる必要性などはなかったんだ。 「あのさ、マルフォイ!」 「何だ」 思い切り、不機嫌そうな顔を僕は全開にした。 これ以上ないほど顔をしかめてやった。 眉間にしわが出来たら、それは絶対にポッターのせいだ。 「………あの、その、さ」 「何だ?」 最近のポッターはどうにもおかしい。 調子が狂う。 今までは僕と同じように嫌悪を示す態度をしてくれていたから、僕もそれ以上を目指せばよかったが。 僕が今のポッターと同じ態度をとるとなると、僕は顔を少し紅くして、口ごもらなければならない。 なんだ? ポッターの舌の回りは僕よりも多少劣るが、それほど悪くはない。何しろ僕の嫌味についてこれるんだからな。 それなのに……。 「なんだ、一体」 気色悪いな。ポッターはいつも僕に対しては、なかなかはっきりとモノを言っていたはずだが……。こんなふうに口ごもるだなんて、よっぽど言いにくいことなのか? 言いにくいこと、何だ? チャックが開いているとか? いや、それはない。思わず確認してみたが、やっぱり僕に限ってそんなへまをしでかすことはありえない。僕は一年365日24時間360度上から下までパーフェクトなんだ。外見が好きですと寄ってくる女の子はだいたい二ヶ月に一度のペースだ。 「話があるんだけど……今度時間取れないかな?」 話? 話など、何をするんだ? 今ここで話しているじゃないか。改まって話すことなど何もないはずだが。 勉強でも教えて欲しいとかか? そんなことで頭を下げることはないだろう。 「何だ? 言いたいことがあるならここで言えばいいじゃないか」 「いや、ここだとちょっと……」 ふと、周りを見ればグリフィンドールの視線が僕達に集中していたことに気付いた。 ……気付かなかった……いつの間に、というかポッターが僕に話しかけたりなんかするからだろう。見ぬふりをして通り過ぎればいいものを。 なにやら皆様方の視線がぶすぶすと突き刺さる。 とても居心地の悪い空間。しかもここはグリフィンドールの目前。敵陣にいるのだ、それを失念していた。 「言いにくいことなのか?」 言いにくいことであれば、まあこんなに視線が集中している中では言うこともできないだろうから……。 言いにくいこと? 僕達の間にそんなものが存在するとも思えないのだが。 言いにくいことほど相手の弱点で、揚げ足だ。それをとりさえすれば天下を取れるのに……。僕たちはお互い目の上のタンコブに他ならないのだからな。 「ちょっと、ね……」 「何だ、一体。言ってみろ」 「いや、きっと君が嫌がると思ってさ」 「………」 僕が嫌がることか? 僕が嫌がることならば、今この場で人の目がある状態で大げさに言ったほうが僕のダメージにつながるというのに……。 そんなに、僕のことを気にするほどに言いにくいことなのか? 何だろう。 もし僕がポッターの立場だったら人目のない所でポッターにこっそりと伝えること……などない。ポッターの後ろの髪の毛が寝癖で跳ねていた時も、ポッターのブラウスのボタンが掛け違えてずれていた時も、ポッターのネクタイが曲がっていた時も、ポッターのズボンのファスナーが全開だった時も僕は堂々とその場で指摘してやったのだが……周りの奴が気付かないのもグリフィンドールはどうにかしている。 「僕も落ち着いて話したいし」 「?」 ますます持って意味不明だ。 ポッターが何をしたいのか、僕に何を伝えたいのか。 そして、ポッターの何の趣味が悪いのか!? それを訊き忘れていたことに、僕は自分の部屋に戻ったときに気付いた。 まあ本人を目前に、お前の弱点は何だと聞いても答えてくれるはずがない。僕が探らなくてはいけないのだ。 それがわかった瞬間に僕の勝利は確定することは間違いない。 まあ、明日でいい。 どんなことがあっても、ポッターに腹を立てずに、慎重にしっかりとポッターの弱味を探ってやる。 最近のポッターは何か上から目線のような気もするが、どっちが上かということをしっかりと思い知らせてやらなければならない。 悪趣味……悪趣味か。 さて、一体どんなものだろう。 グリフィンドールの間ではポッターが悪趣味ということはひどく有名なことらしい。 ゴイルやクラッブ以外の奴に少し探らせたが、それは実際どのグリフィンドールの生徒も知っているという。 僕が探った中ではその悪趣味の正体を知ることは出来なかったけれど…… 僕のようにほとんど全部がパーフェクトでほぼ非の付け所がないと、少しの欠点……例えば性格とかの粗が大幅に目立ってしまうようだけれど、ポッターのように中途半端だと、逆に弱点を探すのに苦労する。 「ああ、来てくれたんだね」 指定された場所に僕が一人で来ると、ポッターが憎らしいほど晴れ晴れとした笑顔で待っていたことに気付いた。 本当に、何なのだろうか。 そういえばここは、この前ポッターが女の子に告白されていた場所じゃないか? 人目に余りつかない場所だ。 そんな所に僕を呼んで置いて、一体何のつもりなんだろう。 もしかしてこの僕との関係に決着をつけようというつもりか? いい加減にライバルとしての関係に飽き飽きしていた頃だ。いいだろうどちらが上かということを思い知らせてやる。 切り札は『悪趣味』だ。 ポッターはどうやら趣味が悪いらしい。グリフィンドールの生徒にああまで言われるということは、本当に趣味が悪いのだろう。他のやつに探らせた所、ほとんどの生徒がポッターのその趣味の悪さを嘆いていたということだ。 そんな素晴らしい趣味の悪さ。 何だ? 一体それは何だ? ……ここは、この前ポッターが告白された場所だ……。 もしかして…… ………もしかして、女か?! あの時、ポッターは好きな人がいると言っていなかったか? その相手が僕はわからなかったが……でも僕が気付かないだけで、本当にポッターは新たに誰か好きな人が出来て、その相手が趣味の悪い女だったと……。 もしかしたら、そうかもしれない。 ポッターが惚れた相手が、一般的にどうにも高い点数を付けられないような奴なのかもしれない! どこの不細工だ? 不細工、なのか? 女の子の趣味は、かなり良い方だと思う。 今までのポッターの惚れた相手や、付き合った相手などを思い返してみると……はっきり言ってあいつは顔しか見ていないんじゃないかと思うほどに、ホグワーツ内でも屈指の美女ばかりだ。 どうやらかなりの面食いだということは簡単にわかった。 性格まではわからないが長くもって3ヶ月といった所か。 女の子に問題があったのかポッターに問題があったのかはわからないが……。 もし、好きになった相手が、趣味が悪いとなると………。 顔は良いが、性格は悪いという結論になる。 誰だ? 僕の推理が正しければポッターの惚れた相手は、顔は良いが、性根が悪いという人間だ。どこの誰だ。 僕は、ホグワーツの中で可愛いとか美人とか評されている女の子の顔を頭の中で列挙してみる。 可愛い……確かに可愛い女の子もいるが、まあ、僕には劣ると思う。僕は僕よりも可愛い女の子じゃないと認めない。そりゃ可愛いなどと概念的なものだから個人の価値観に委ねられると思うが、僕もどうやらポッターのように女の子は顔で判断する部分が多い。なので、僕よりも可愛い女の子……となると、このホグワーツにいる女の子レベルじゃ誰もいなくなってしまう。 もしポッターの趣味が悪いとなると……ポッターは、大層な面食いだ。 外見に関しては、趣味はいいと思う。 なので、つまりその性格ということだろう。 性格が悪くて、顔が良い人間。 誰だろう。性格が悪いと噂されている奴は。 僕は噂話には耳聡い方だから……それに人の顔と名前を覚える能力は高い方だから……ホグワーツで知らない奴なんてほとんどいないし……性格が悪くて顔が良い……。 いや、しかし悪趣味というのは女なのか? なにやら違うような気もする。 ポッターが誰かを好きになると、本当にわかりやすいのだから。四六時中その相手のことを見て、ドアにぶつかったりつまづいたりと……。 本当に、あからさまに変化するんだ。 あんなにわかりやすい態度をとられると、本当にポッターでなければ見ていて微笑ましいくらいだ。好きな相手が出来れば、すぐにわかる。 出来る限り話しかけようとしてきたり、あからさまにその相手だけに優しくしたり、なるべく近くに行って存在をアピールしている様は滑稽だ。 最近のポッターに特に代わった変化は見られない。 変化という変化ではないかもしれないが、とりあえず僕への対応が少し変わったということぐらいか。 まあ、腹の立つことにそれなりの効果があると思う。 僕が渾身の嫌味を言ってもニコニコと……僕のハラワタを煮え返らせる新しい技術を身に付けやがって……。 僕がまだ新しい嫌味を思いついてもいないのに、話しかけようとしたり……思い出しても腹の立つ……! 性格が悪くて、顔が良い……。 最近、誰かに対して、ポッターの対応が変わった奴がいるだろうか。 何なんだ、ポッターの悪趣味……。 悪趣味…… 「あの……さ、マルフォイ」 呼び出したというのに、そっちが話があるというのに、歯切れの悪い話し方。 今までこんなことがあったか? 僕の方が舌の回りは速いが、それでもポッターは僕と舌戦を繰り返しているのだから、悪口の応酬に関しては鍛え上げられているというのに。 「何だ?」 ここ最近、ポッターが気持ち悪い。 僕が手によりをかけて作り上げた懇親の嫌味をさらりと流すばかりか、時々僕を褒めたりもする。 なんだ、一体、ポッターの悪趣味とは。 好きな人であれば……最近、ポッターの態度が変わった奴! そして、顔が良くて性格が悪いやつ……。 「あの……」 悪趣味……。 ……悪趣味なんだ、こいつは。 最近、ポッターが態度を変えた相手。 それさえわかれば、僕の勝利は決まったも同然! 最近、ポッターが態度を変えた相手………! 顔が良くて性格が悪いやつ………! 悪趣味だと、周囲に思われる人間。 一人だけ、心当たりがあるが…… ……まさか………! 「マルフォイ、君のことが好きなんだ!」 僕、か………。 ………悪趣味って……。 そんな落ち込みオチ そんなことでちょっと凹んだ坊ちゃん。 なんか昔ショートショートで読んだ。何で読んだかさえも覚えていないのですが・・・。 とりあえず、17000文字になった……17000文字はネットでは短編というモノに入るのかわかりませんが……これはページを変えずに一気にオチまで読んでもらいたかったので、ちょっと長めですが一話完結で。 本当はカウンタ10000ヒットで10000字を目指しました。 15000ヒットで15000文字を目指しました。 15000文字過ぎたあたりで、なんだかもう諦めました。 誤字 儲けモノ → もう獣 そんなハリさんもイイネ 僕ですすみません。 → 僕で進みません。 進まないのは文章。 英語タイトルは好きじゃないので、頑張ったけど諦めた。 070619 |