夜の大広間は、ここ数日とても盛況だった。

 いつもは夕食を食べ終わるとすぐにそれぞれの談話室に向かったり部屋にもどったり、人口は疎らになるのだが、この数日は夕食が終わるとグリフィンドールのテーブルに人だかりが出来る。
 真ん中にはチェスの盤がある。

 
「今日で最後だ!」 
 ロンが強い声を上げた。

 現在ロンは昨日までに九人を勝ち抜いて、今日で目標の十人目だ。
 双子と賭けをした。
 チェスで勝ったら、握った弱みを手放すと。
 そんな賭けが双子を通じて大きなイベントになってから今日が最終日。日に日にロンとチェス盤を囲う人だかりの輪は大きくなって来ていた。

 終盤に差し掛かると、完全にロンの優勢だ。
 考え得る手もいくつもロンの勝利を示している。

 一息ついて、張り詰めた緊張を少し解いて、ロンは人だかりの輪を見回した。

 周囲が騒がしいと思っていたが、ここまで人が集まっているとは思っていなかった。
 その中にあり得ない色を見つけた。
 いつもは夕食を済ませるとすぐに場を辞していたのに。
 その明るい金髪は人込みに合っても目立つ。
 いるはずなんかは無いので、驚いた。
 そしてすぐに顔をしかめる。見たくも無い顔だからだ。 あっちだって近付くことさえ嫌がってるのはロンも良く分かっている。

「なんで、ここにいるの?」
 憮然とした表情でロンはドラコに声をかけた。
 じっとチェス盤を見つめる彼の表情は真剣で、こっちをちらりとも見ていない。

「マルフォイ、何か用か?」
 名を呼ばれたドラコは、ようやく気がついたようで、ロンに視線を返した。
「別に」
「だったら帰れよ、気が散るから」
 まさか昨日の喧嘩を忘れたわけではないだろうが、ドラコはいつもの澄ましたような気取ったような顔つきで、見ているだけ。それだけでもロンがイライラしてくる。
「ウィーズリー、お前が僕に見られる事で負けるなら、僕はここに居よう」
 晴れ晴れ強い顔つきでそう言い放つドラコに本当に怒りを覚えて、ロンは忌々しげに睨み付けた。

 だが、冷静になって集中する事をすぐに思い出したロンは、チェス盤に視線を戻した。

 ドラコの存在をきれいに忘れ、チェスにだけ集中して、本当にあと少しで勝負が付くという時だ。
 相手の出方にも寄るが、どうやっても勝ちは目に見えている。相手は深く悩んでいて、しばらく次の手を出しそうにない。
 邪魔が入って気が散ったが、これでもう大丈夫。
 そう安心していた時、ドラコが動いた。

 対戦相手に近付いてこそりと何かを耳打ちした。
 耳打ちされた方は突然表情が明るくなる。

 そして、ロンに向かって本当に嬉しそうな笑顔を向けた。いつもの嘲笑とはまた少し違った毒気の抜けた笑顔。
 こんな顔もできるんだ、とロンは少し思ったが。

「まあ、せいぜい頑張れ」

 ドラコは高飛車にそう言い置いて、踵を返した。

「何なんだ、一体」

 不審に思いながら、チェスに目を戻すと、相手が駒を動かしている最中だった。
 駒は動いて、このゲームの攻防の要としていたロンの駒を砕いてしまった。

「あー……」

 しまった、そう思っても後の祭り。
 もう、考えていた手は全て使えなくなってしまった。


 あの時ドラコはきっと勝ち方を相手に耳打ちしたのだ。 卑怯だとも思ったが、仕方がない。

 歯ぎしりしたい気持ちを必死で押さえた。

















「そりゃさあ、確かに僕が言ったよ。ロンともっと歩み寄って仲良くしようって」
「そうだ、お前が言ったんだ。僕は精一杯歩み寄ったはずだが」
「だけどさー」
「何かまずかったか?」
「まずいよ。ロン可哀相じゃん」
「負けたのか?」
「勝ったけどさ」
「勝ったらどうなるんだ?」
「あの双子にロンがハーマイオニーのことでからかわれて大変だったんだ。僕にしてみれば良い機会だと思ったんだけど。でもまあ、勝ったら誰にも秘密ってそういう約束だったんだ」
「まさか、ウィーズリーの奴、あれで隠している気だったのか」
「まあ、ロンだからね。ばればれだけど」
「そうか。まあ勝ったんだから良かったんじゃないのか?」
「そうじゃないよ、ロンじゃなくてドラコだよ。みんなの前であんなにかわいい顔で笑うことないじゃん」
「……何を言ってるんだ、お前は。馬鹿か」













「あれから、ロンがドラコとチェスしたいって言い出してさー」
「別に構わないが」
「うーん」
「ハリーは歩み寄って欲しいんじゃないのか。親善試合でもするか? チェスは嫌いじゃないし」
「うーん、仲良くなって欲しいんだけどさ、仲良くなりすぎるのも嫌だなーって」
「は?」
「仲良くなるんだったら、なりすぎる前にドラコは僕のだってちゃんと言っておかないと」
「ばらしたら別れるぞ」
「……………」
「一人にでも僕たちが付き合ってるのがバレたら別れるからな」
「………僕たちの関係もばればれだと思うんだけどな………」
「何か言ったか?」
「何にも」
「なら良いけど」
「ねえ、ドラコ」
「ん?」
「好きだよ」
「……お前は馬鹿だ」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ」
「はいはい」
「ドラコ」
「ん?」
「大好き」
「………ばか」


























ばかっぽー


この後、
わードラコ、赤くなってるよvv  煩い  照れてるドラコも可愛いよ。   煩いって言ってるだろう!  ねえ、ドラコ   何だ、馬鹿ハリー  やっぱり、本当好きだよー    本当にお前は馬鹿だなあ。

人の頭ん中でエンドレスにいちゃつくこいつら、私イン電車  その時の私の顔はどうなってたかしらない。   

0609