状態変化 04
特別教室のある校舎は、今日は静まり返っている。下の階の調理室か、上の階の美術室からは賑やかなざわめきも聞こえてくるけど、被服室からは、何も聞こえない。 今日は、この時限では使わないようだ。 誰も居ないのを確認して、僕は被服室の中に入った。 「石田? 授業……どーすんだよ」 「サボるよ」 「サボるって、お前……」 今は、授業なんて気分になれない。勉強なんてできる気分じゃない、教室にいたって何もできない。 扉を閉めると、静寂が包むような気がした。学校にはこんなにもたくさんの人間がいるのに、ここだけは冷たいくらいに静かだった。 誰も居ない。僕達だけしかいない。 「石田、どうしたんだよ」 「黒崎、僕は……」 黒崎の腕を握る手に、力を込めた。 僕を抱き締めてくれる、腕。 誰かを包むなら、なくなればいいのに。 爪をたてて、腕を握る。 僕以外に触らないでよ。 「石田?」 感情はなんでこんなに痛覚に影響するんだろう。なんでこんなに心臓が痛むんだろう。 困惑げな黒崎の声に苦しくなって、僕はその気持ちを黒崎に押し付けたくなって、口移しで、分けようとした。黒崎も僕でもっと困ればいいんだ。黒崎は困っているだけかもしれないけど、僕はこんなに痛いんだって、思い知らせる方法は思いつかないけど…… せめて、黒崎の唇に噛みつくようなキスを送る。 何度もキスをした唇。僕にキスしてくれた唇。僕以外に触らないでよ。そう言いたいのに、僕はそれを黒崎に言う言葉を知らない。 黒崎の唇に舌を這わせて、口の中まで入る。黒崎の舌を探して絡める。それに応えてくれるように、黒崎の舌が僕の舌を舐めるように刺激する。 「んっ…っ」 舌を合わせる度に、濡れた音がする。唾液が溢れて顎に伝った。 黒崎が逃げないって解ったから、僕は握っていた黒崎の腕を離した。離したけど、触れたまま、そのまま幅の広い肩のラインを確かめながら、そのまま僕は黒崎の首に腕を回した。 キスをして、身体中密着させて、腰を押し付ける。 キスだけで興奮するんだ。黒崎となら、キスしただけで、興奮する。僕の昂りを押し付けるように、僕は腰を押し付けた。 「石田っ……お前、本当にどうしたんだ? 熱でもあんのかよ」 どうしたんだって……。 知らない。 知られたくない。 知りたくもなかった。 「……黒崎」 返事なんかしてあげない。君の言うことなんか聞いてあげない。 二つ目まで開いている黒崎のシャツのボタン、三つ目を外して、四つ目……下に降りていって……黒崎の身体に、直に触れる。 僕の。 これは、僕のだ。黒崎は、僕のだ。 黒崎の皮膚にキスを落とす。 いつも黒崎が僕にしてくれるように、喉元から伝って……。 筋肉の隆起や、その割れ目を唇で確かめるように、僕は黒崎の肌にキスをする。 「石田っ……おいっ!」 黒崎に肩を掴まれたけれど、僕は止まらなかった。 止め方なんか知らないし、止める気すら起こらなかった。 今はとにかく黒崎が欲しくて。 触れていたくて、少しでも僕と君との繋がりが目に見えるものにしたい。不明瞭で曖昧な口約束じゃなくて、証拠がいい。 僕は君を繋ぎ止める方法なんか知らない。 心を僕に留めておく方法なんか知らないよ。 「うるさいよ」 僕は、黒崎のファスナーを下ろした。 その隙間から下着の中にまで手を差し込んで、触れると、黒崎のはもう確かな質量を持って、主張していたから……そのまま黒崎のを取り出す。 黒崎の……大きい。大きくて……熱い。熱くなってる。 触れると、そこだけ違う生き物みたいに、動いた。 触れていると先端から、透明な液体が溢れてくる。 僕で、感じてくれてる? 僕を感じてくれてる? 僕に飽きても、僕を感じた? ゆっくりと、僕はそこに目線を合わせるようにしゃがむ。床に膝をついて…… 「って、石田!」 黒崎の先端に、舌を這わせる。 ぬるりとした体液は、変な味がした。 こうやって、黒崎のを口で愛撫した事は、何度かあったけれど……いつも熱に浮かされて、そんな時ばかりだから、あまり覚えていない。 僕から、黒崎のをするのは、初めてだった。 僕が自分の意志で黒崎のをするって……その事実に僕は興奮していた。僕は、何をやっているんだろう。こんな事をして、僕はみっともない奴だって、はしたない奴だって、黒崎は呆れて僕を嫌いになったりしない? ああ、でも。 もう黒崎が僕のじゃないなら……嫌われたって構わない。 大きくて、口に含むのが精一杯だけれど、それでも僕は夢中になって黒崎のに、舌を絡めた。 「石田っ……! よせって。学校だって」 いつも君の方が非常識なくせに。 学校では、なるべく接触を避けていた。話すことも、必要最低限。そうしてくれって言ったのは、僕の方だったけど。 学校で、黒崎に触った事なんかない。触られたくもなかった。そんなことをされれば、僕がどこまでも流されてしまいそうだから。君を見る目に、誰にでも解るような特別な意味を込めてしまいそうだったから。 「……石田、離せって!」 黒崎が僕の肩を掴んで、放そうとするから……止められたくなくて、僕は黒崎をくわえたまま首を振った。 大きくて、喉を圧迫される。 それでも、もっと奥まで欲しくて、限界まで黒崎を迎え入れる。 溢れた唾液が、喉を伝い、シャツまで濡らしている不快感は、それほど気にはならなかった。 「……っ石田……も」 黒崎が、僕の口の中で、また大きくなった。 黒崎が、僕のをするように……いつも僕のをしてくれたように、その動きを追いながら、口の中で黒崎のを舐めて、頭を動かす。 「……っく」 僕の口の中で、黒崎が弾けた。 → 20130615 |