【僕は優しくないから】  







「黒崎、どうかしたのか?」
「……別に」

 黒崎の気配がしたから、僕は黒崎がチャイムを押す前に扉を開けたら憮然とした表情の黒崎が立っていたから、家に入れてから、一時間ぐらい経つ。
 ……なんだろう? どうしたのかな?

 バイトが終わって、勉強しに来たり、する事もあれば見たいテレビが家に戻るまでに間に合わないからってそんなくだらない理由で来る時もある。僕が作った夕飯を一緒に食べる時もあるし、そんなに頻繁ではないにしろ、今までだってこんな事がなかったわけじゃない。

 どうもこうもいつも通りだけど……もともと黒崎は口数も多い方じゃないし、僕も必要がなければ喋らない。だから、そんなに会話をするわけでもない。いつも明るく溌剌としてるような奴でもないから、こうやって僕の部屋に来て、コンビニで買ってきた雑誌めくってるだけで……。
 黒崎がなんとなく僕のうちに来るのも珍しいことじゃない。

 だから、黒崎が来て、上がれって僕が言って以降、僕たちのあいだには何の会話もない事が不思議なわけじゃない。

 何かあったのか、なんて変化もよくわからないけれど。
 でも、どこか。何となくだけど、いつもと違うような気がする。

 きっと話しかければ返事くらいあるんだろう、落ち込んでる素振りなんて見えないけど……やっぱり、何かあったのかな。


「別に、何でもねえよ」


 そっか。何かあったんだ。

 だって、本当に何もなければ僕の疑問は的はずれで、黒崎は疑問に思うはずだろう? 本当に何もなければ『何でもない』なんて言葉じゃないはずだ。

 何か、あったんだ。




 でも……言いたくないんだ?
 そうやって、何でもないふりをして、でも僕のところに来たって、つまり僕は思い上がりじゃないって、そう思っていいんだよね?

 僕にまで、強がらなくていいのに……黒崎はそれをしないから、僕も何も気が付かないふりをする。



「黒崎……」

 知りたいけど、僕は優しくないから、わざわざ聞いてあげようなんて思わないよ? 君が言いたくないなら、言わなくていいよ。僕は聞いてあげない。
 僕は君を甘やかせてあげるなんて気の利いたこともできないし、してあげようとも思わない。

「あ?」

「今日、このまま泊まるんだろ?」
「ああ、いいか?」
「もう遅い。家に連絡を入れてあればいいよ」
「さんきゅ」
「ご飯、どうする?」
「あ、何かある?」
「残り物だけど」
「お、やった」
「たださ、黒崎、明日、買い物に付き合ってくれないか? 米が無くなったんだ」
「別にいいけど、荷物持ちかよ」
「明太子パスタつくってあげるからさ」
「仕方ねえな」


「午後から雨って予報だから、午前中に行こう」

「おー」




 君が落ち込んでるなんて似合わないから、僕はそんな余裕を君に与えてあげない。










20130204

だいぶ昔に書いて独り言にのっけてた話だったと思います。サルベージ。