【恋心】04
………何、言ってんだ、コイツ………? 悪い、意味わかんなかった。多分、日本語だったと思うんだけど? 「君は僕なんかじゃ駄目だ。僕は君に相応しくない」 何、言ってんのか、あんま良く解んねえけど、もしかしたら、石田が何考えてんのかもよく解ってねえんだと思う、俺。 こいつ、学年首席ってレベルじゃなくて、全国模試とかでもトップクラスの頭脳持ってるんだから、もしかしたら、俺とは違う脳味噌持ってるのかもしんない。俺の脳味噌の出来は普通だから、ちょっと今石田についてけなかったんだけど…… なんつった? 俺の事好きだって言ったはずだよな? 俺の聞き間違いとか、フラれたショックでもう現実にいない俺が勝手に妄想してるとかじゃなけりゃ、石田は俺の事好きだとか言ったよな? で、お前は俺に相応しくないとか、何でそんなワケわかんねえ事言ってんの? 「石田?」 悪い。本気で、意味がわかんねえ。 「僕じゃ、ないよ。僕なら、君の相手が僕だなんて、認められない」 「そんな事俺が決める」 「そんな事じゃない! 僕がどういう人間なのか、君は何も解ってないからそんな軽率な事が言えるんだ! 君は頭が悪いのか? 君にどれ程の価値が在るのか、君は自覚していないのか?」 頭が悪いって言われたけど……今なに? けなされたの? 褒められてんの? どっちだ? 石田がどんな奴なのか、解ってるって。どんな奴か解ってて、それで俺はお前のことが好きだって言ったんだけど? 単純な事だってわざわざ難しく考えて、なんだかわけわかんねえ場所に結論出して、そんで我慢して……馬鹿じゃねえ? って思うような奴だって解っててお前が好きなんだって言ってんだけど、俺は。 「そんな事だ。俺の価値は俺が決める。俺はお前が嫌いなお前ごと全部お前が好きだって言ってんだよ」 「……黒崎」 だから、んな困ったような顔すんなよ。 「石田、俺はお前が好き。すげえ好き。俺は俺の気持ち認めてんだから、だからお前も認めてくれよ」 なんか、わけわかんねえ理屈で、なんで俺を諦めようとしてんだか、わけわかんねえ。 「僕は君に出会う事は運命だったって、そう思えるくらい、僕は君と出会えて僕で良かったってそう思えている。でも君は僕じゃない」 運命とか……そんな事言われて……お前は俺への気持ちなんか、どうせその程度かよ。じゃあ、やっぱり俺の事、もっと好きになってもらわなきゃ、困るんだ。諦められないくらい、俺と同じぐらい強く欲しがって欲しいんだ。 そりゃ、確かに釣り合わねえな。 お前の気持ちぐらいじゃ、確かに俺の気持ちじゃ、重すぎて潰れちまうかもしんねえ。 だけどさ………。 俺だって、放せねえ。 お前諦めるなんて、運命なんて軽い言葉じゃ俺の気持ちはお前以外には流れねえよ。 お前の気持ちだって、俺に留めてみせるから、 だから……屋上のフェンス握ってた手離した。だいぶがっちり握ってたみたいで、離す時に関節から錆びた音が聞こえそうだった。 手を、石田の背中に回した。 見た目、細いって思ってた。だけどあんな動きできんだから、着痩せしてるだけなんだって思ってたけど……やっぱ細かった。 力入れたら、壊しちまいそう……だけど、それでも、俺は、石田の事、抱き締めた。 俺の気持ち、言葉だけじゃ、この馬鹿に伝わりきんねえって思ったから、苦しいって言われそうだけど、それでも俺の気持ち込めて、抱き締めた。 「そんな事も、俺が決める。だからお前は安心してここにいればいいんだって」 腕の中の石田の身体が強ばってた。 「放せ、黒崎」 「放さねえ」 放せるわけねえ。 お前のこと、手に入れられるかもしんねえのに、離したら逃げちまうだろ? 誰が放すかよ。逃げたって追っかけて手に入れるだけだけど、離せって言われたって離せるわけねえ。 「黒崎!」 「無理。お前、俺がどんだけお前の事好きなのか解ってねえ。お前の気持ち知って、今どんだけ俺が嬉しいのか解ってねえ今」 石田が俺の事好きだって言った。 このまま空だって飛べそうな俺の事解ってんのかよ。 でもコイツわけわかんねえから、ちゃんと今、俺のもんだって自覚させとかねえと、何処に行くかわかんねえから。 「だけど」 「るせえ。もう無理だって。お前の事諦めんの無理。お前の気持ち知って、諦めろなんて無茶言うなよ」 なんで、お前の気持ち聞いて、諦めなきゃなんねえの? わけわかんねえ。 だからお前、頭いいくせにバカなんだよ。 「好きだ」 お前が好きなんだって。 そう、石田に、何度も言った。暗示かけるように、俺以外の声じゃ、この言葉が聞こえ無くなるようにって願い込めながら、何度も言った。 強張ってた石田の身体から、だんだん力が抜けてくる。 身体の間で俺の身体離そうとしてた手が、俺のシャツを握ったのが解った。 「難しい事、ごちゃごちゃ考えんなよ。全部ひっくるめて、俺がお前の全部護ってやる」 だからさ。 お前、そのままでいいから。 そのまま俺のもんになりゃいいから。 「それは譲れないな。僕が君を護るんだ」 「じゃあ、俺は俺を護るお前ごとお前の事護ってやる」 石田が溜め息ついたのが解った。 諦めたんだ。それでいいんだって、 無駄な意地張る必要なんざねえんだって。 「石田が何考えてたって、そうやってごちゃごちゃ難しいどうでもいいこと考えてるお前ごと全部俺は好きだから」 お前が俺を好きでいてくれりゃ、それだけでお前を幸せにするために俺は全力出せるから。 「………解ったよ。そうだったね、君はそういうやつだ。僕が勝手にいろいろ考えて、きっと僕の決意の方が正しいに決まっているのに、そんなことは些末事にしてしまって、それ以上の力で押し流そうとするんだ、それが君だったね」 「なんだよそれ」 「知ってたよ。そう言う奴だって。忘れてたつもりもないのに、僕はどうかしていた」 やっぱり、貶されてんのか? 好きだって、そう言われた口で、大層な言われようだって思ったけど。でも、そっか。 これが石田だ。 「君が僕を好きだって気づいた時点で、もう諦めるべきだったんだ」 「だから、好きになってくれよ」 だからさ。 俺の事、好きになって、俺とずっと一緒にいるって、一緒にいたいってそう思ってくれって、思った。 好きだって言われたけど、そんなんじゃなくてもっと強く、手放したくないって思えるくらい俺のこと好きだって思って欲しかった。 「それは、無理だよ……だって、僕の方が、ずっと君を好きだったんだから」 了 20130202 ずっと雨竜くん視点で書いてたので、一護視点に直すのに意外と手間取った。 |