【恋心】01
「お前が、好きなんだよ、石田!」 屋上の柵に手をついた両腕で石田を閉じ込めて逃げ出せない状況作って、俺は言った。言ったっていうか、ほとんど怒鳴ってた。 耳が熱いから、俺の顔面は真っ赤になってんだろう。 少し見上げるようにして俺を見ていた石田は、驚いて目を丸くしていた。 「黒崎……」 困ったような石田の声に、俺はどうしようもなくなって、顔を伏せた。顔を伏せたらちょうど俺の額が石田の肩にぶつかった。 言う、つもりなんかなかった。言わねえつもりだった。 好きだって、言うつもりなかった。俺の気持ちが褪せて、乾いて、隣に並んで石田に触れても何でもなく笑えるようになるまで、俺は言うつもりなんかなかった。 今はただ、俺の隣で肩並べて、他愛ない話して笑ってくれたり、戦って石田の存在が背中にあったり……それだけでいいって思ってた。 もし言っちまって、好きだって、俺の気持ちが重くて、それが石田を困らせるなら、だったら俺の気持ちくらい押し込めてようと思ってたけど。 ……限界。 「お前が好き。すげえ好き」 石田の肩に額を乗せて、押し付けて、俺は石田を好きだって繰り返した。 好きだって、気持ち押し込めるのに、もう限界。好きだって気持ちがでかくなりすぎて、限界。溢れ返って胸が苦しかった。これ以上止めておくの無理だった。気持ちが口から溢れた。 「……黒崎」 「お前が困るって解ってたけど、もう気持ち隠すの無理。本当に無理。お前が好き」 もう、これ以上無理だって、本当。ずっと我慢してたんだ。石田との関係崩すくらいなら黙ってようと思った。言う必要なんかないって思ってた。言わねえ方がいいって……けど、こんな好きになるだなんて思わなかったから。言うつもりだって、無かったんだ、さっきまで。 午後の授業の予鈴が聞こえた。昼休み、終わった……。 当然、誰もいない。 さっきから誰もいない。もう教室にいなけりゃなんない時間だってのは、解ってる。 別に、きっかけ大した事じゃない。石田が俺の髪に付いたゴミを取ろうと、俺の頭に手を伸ばしただけだ。 石田が、俺が伸ばした手を驚いて身体を強ばらせた。 きっと俺に殴られるとか思って反射的に身を縮めたわけじゃないはずだ。石田は俺に触られるって思って、その事で反応した。 その意味なんか、俺は理解してないけど、何でだかなんて思いつかねえけど。 でも、それから俺を見た石田の目を見て、 決壊した。急激に、溢れ返った。 「お前のことだから、知ってただろ」 俺が、些細な事でテンパったり、ずっとお前の事見てたりしたの、お前、どうせ気付いてただろ? 俺が知らないうちに目で追っかけて、視線に敏いお前のことだ、俺がずっと見てることなんか気づいてたんだろ? 初めのうちは、俺がずっと見てたからよく目があった。お前が些細な事で笑って、それが嬉しくてやたらとテンション上げたことだって最近じゃ珍しくない。 「……気付かなかったよ」 嘘、だ。 嘘だって解ってる。 俺が見てたら、すぐに気付いて、目が合うのは一瞬だけだった。すぐに視線逸らしてただろ? お前、鋭いから、どうせ俺の気持ちなんか気付いてただろ? 俺が言わないから、気付かないふりしてただけだろ? 「好きだ、石田」 だって、もう、言わないで、このままで居るの、無理だ。 「……ごめん」 「……っ」 静かな、石田の声に、喉が詰まった。 石田の返事は、掠れた声での謝罪だった。 その、意味は解ってる。 この返事を想定してなかったわけじゃない。好かれてるとは思わなかった。俺と同じ気持ちで石田が俺のこと見てないことぐらい知ってた。嫌われてなきゃいいって思った。最初の頃は憎まれてたんだ。友達でも、いいやって。 お前が、近くで笑ってくれりゃいいって。 「ごめん」 石田は、もう一度繰り返した。 心臓が、握り潰されたように、痛かった。戦って何度も死にそうな目にあった。死にそうなくらい深い傷を負ったこともある。それでも物理的な、戦いで負った痛みの方がまだ耐えられるって思えるくらい、石田のその言葉は痛かった。 俺の心臓が、そのたった三文字に潰される。 好きだって、伝えるつもりなんかなかった。石田は俺の気持ちなんか知らなくてよかった。間違えて言っちまった。うっかり、口から溢れ出した。 それでも、後悔なんかしてない。 もう、俺の気持ちは、石田が好きだって、言わなきゃ良かったって思える程度じゃ無くなってた。もっとでかくなって、俺が内側からその気持ちに壊されそうなくらい、お前が本当に好きで、もう限界だったんだ。 それで、石田は、ごめんって、言った。 つまり、そういう事だ。 → 20130115 ヅラ受で今やっている「クサいけど言われてみたいセリフランキング勝手にお題化企画」の「君は僕の運命の人だ」ってのを一雨で書いてみた話です。 |