【ラジカル】11 







 ベッドの上で天井見る。いつもとおんなじ天井なのに、やたらに低く迫ってくるような圧迫感があったけど、実際に見えてんのは天井じゃなくて、石田の顔。
 石田のさっきの泣き出しそうな顔が頭から離れてくんねえ。
 泣きそうだった。石田が、泣きそうな顔してた。

 俺が好きになったの、石田の笑った顔が好きだったからじゃなかったっけ? 俺が見ちまった、石田の泣きそうな顔、あんな顔もう二度と石田にして欲しくなかったからじゃなかったっけ?
 俺は、何やってたんだろう。

 抱き締めた、細い身体を思い出す。

 ……これで、嫌われたかな?


 嫌われた……

 そう、思うと不覚にも泣きたくなる。
 石田がもう俺に笑ってくれなくなるなんて、嫌だ。

 寝てる石田にキスした時の唇の柔らかさとか、さっき抱き締めた時の身体の薄さとか、覚えてんのに……。


 さっき抱き締めた……から、俺の気持ち、バレた。きっとバレた。
 だから、嫌われた。俺を嫌ったんだろうか。




 謝りたい。
 謝って、なかったことにして、友達で良いからって……。自分の気持ちに嘘吐く気なんかねえけど、好きだってこと否定する気なんか無いけど、それでも。

 友達でいいや。
 お前の側に居られんなら友達でいいって。忘れろって。

 だから、許して……貰えるんだろうか。


「あー…」

 明日休みだから、月曜日に石田に会えるまで……62時間……





 なんて、待ってられるわきゃねえだろっ!

 天井の模様観察してたってイライラするだけだ!



「お兄ちゃん、お出掛け? ご飯は」
「わり、外で食う」


 ジャケット掴んで玄関を飛び出した。
 飯なんて食ってる場合じゃねえ!




 俺は走って石田ん家に向かう。途中でバスに抜かされてムカついた。

 走って、何て言おうかなんて考えてねえけど、言い訳とか、どうでもいいから、とにかく今石田に会わなきゃ駄目だって思った。

 会えば、何とかなるって思った。






 石田ん家に行って、チャイムめちゃくちゃに押すと、すぐに扉が開いた。

「黒崎……うるさいな、解ってるよ。君は霊圧だけでもうるさいんだから」

 開いた扉にひとまず安心した。よかった、会ってくれなかったら、とか思ったから。まあ、出てくるまでチャイム鳴らし続ける気だったけど。最悪、霊体になってでも乗り込むつもりだったけど。

 ぶつぶつ文句言いながら開いた中から、のぞいた石田は……眼鏡してなかった。
 そう言えば、眼鏡してない石田、珍しい。当然、寝てる時は、見たけど、電気消してから眼鏡置いてたから、ちゃんと見るの初めて……かも、しれないけど、顔を伏せてた……から見れなかった。
 俺に顔を見られないように下を向いてたのわかった。
 だから、どんな表情してるかだなんてわからなかったけど、笑って無いことくらいはわかってた。


 それに、まだ石田は制服のままだった。


 しかも、部屋の中は電気がついてなくて……。




「上がれば?」
「……あ、おう」

 部屋の電気は真っ暗で、暗いのにカーテンも閉めて無かった。

「電気、つけねえの?」
「………電球切れたんだ。それに今までうたた寝してた、から……」

 ……本当かよ。部屋の電気切れたって、全部? 台所まで? 居間の電気切れたって、今日日コンビニでも売ってるし、それが嫌だったら、さすがにどっかしらつけとくだろ?
 それに、制服のままで? まだ着替えもしてねえ。それでうたた寝なんて、こいつがするか?

 鞄も床に投げ出されたままだったし……。
 帰って来て……そのままだった。

 石田の言葉なんか鵜呑みにできるもんじゃなくて……さっきのが、やっぱりダメージだったんだろうか。俺が……石田のこと、抱きしめたから。

 石田は顔を伏せて、俺と顔を合わせようとしなかった。
 いつもは、俺が行くとまず台所に行って、お茶出してくれたりしてたのに……部屋に上がると、石田はベッドに腰をかけて顔伏せてた。





 もしかしたら、泣いてた?





 泣いてたから、だから俺に顔見せようとしねえの? 電気つけねえの?


 壁のスイッチ押そうとしたら

「黒崎っ! 電気、付けるな」

 止められた。やっぱ……電気は、つくんだ。


 そっか……、ごめん。


「さっき……悪かった」


 すげえ、罪悪感。

 俺が、抱き締めたから……正直、噂は本当に鬱陶しかったけど、でもそうなったら良いって思って。思ってた所はあった。

 だけど石田は、やっぱり嫌だったんだ。すげえ嫌だったんだ、きっと。
 そりゃ、友人だと思ってた奴がいきなりそんな事したら、嫌だよな。ごめん。俺、お前のこと好きでごめん。





「……君が謝ることなんかないよ」
「でも……」

「僕が……悪いんだ」
「石田……」

「黒崎……ごめんなさい」



 石田が……。


 ベッドに座った石田は、膝の上で拳作って……その上に……一滴……。

 涙が……また、一滴……部屋は静かだったから、雫の音が聞こえたような、そんな静かな音を立てて、石田が、泣いていた。









20121231