【ラジカル】04 







 四時になった頃、水色とケイゴが立ち上がった。外は少しずつ暗くなってきていた。

「石田君、ありがとうね。じゃあ僕達行くから」
「楽しんで来てね」
「一護も石田も今度一緒に映画行こうな」
 石田の両手握って別れを惜しんでるケイゴは、自分達だけ遊びに行くのが気が咎めるらしいけど……早く二人きりになりたい俺は、友達甲斐なく、さっさとその手を離して映画にいっちまえって真剣に思ってた……てか、いつまでも石田の手握ってんじゃねえよっ!


「頑張ってね、一護」
「………は?」

 ちょ、待て水色。
 そりゃ、頑張るけど! 少しでも石田の気持ちこっちに向かせるように頑張るけど!

 だからって石田の前で言うんじゃねえよ!

「二人きりだから、大変だね」
「ちょっ……水色!?」
 何言ってんだよ! 石田の前で!

「まだ勉強するんでしょ? 石田君、一護の事もっとスパルタでもいいと思うよ。最近一護成績少し落ちてきたから、みっちり教えてあげてね」

「あ? あ、まあ……勉強……」

 勉強ね。うん

 勉強するけど、まだこれから。
一応、勉強でも石田に認めて貰いたいから、そりゃ頑張るけど………人畜無害そうな顔で……こいつ。

「僕達は映画見てくるから、一護も石田君も頑張ってね……色々」

 色々って……。

「そうだね。黒崎は現国はほっといてもできるから、じゃあ夕飯までは英語と科学をやろうか」
 にこりと……音が聞こえるように微笑んだ水色の笑顔が……なんか……天使の顔した悪魔に見えた……けど、取り敢えずは水色が言ってる色々の意味を、普通に他の教科だって思ってくれてるだろう石田に感謝する。


「水色っ! 電車来ちゃうだろ? 置いてくぞ」
「ちょっと啓吾、待ってよ。置いてくって言っても、チケット持ってるの僕なのに……じゃあ、石田君ありがとう。また学校でね」

 慌ただしく、二人が居なくなった。





 そっから、一時間くらいして、集中力が途切れて……さすがに昼からぶっ通しだ。そろそろ空気を入れ換えたくなる。
 石田はまだ黙々と参考書見てたけど、すっかりやる気を無くした俺は、テーブルに頭を落とした。途端、腹の虫が大音量で響く。

「お腹空いた?」
「さすがに」
 三時頃、俺やケイゴが買ってきたスナック菓子や水色が持ってきたコーラやら腹に入れたけど、もうそんなもんとっくに消化しちまった。ずっと座ってるだけで体力的なものは何も使ってねえけど、頭が多量のカロリーを消費した気がする。

「ご飯にしようか? 外で食べる? 冷蔵庫空っぽだけど」
「え……」

 石田の手料理……食いたい。
 ………差し入れ、スナック菓子じゃなくて、食材にすりゃ良かった! つっても、何をどのくらい買っていいかさっぱりわかんねえけど。
 外……石田と一緒に飯を食いに行くなんて、なんかデートみたいだけど……。



「えっと……石田の作ったメシ、すげえ美味いし、この前食った煮物とか美味かったし、また食いたいって思って……だから、面倒じゃなけりゃ……その、食いたいけど……」

 石田の、手料理が食いたい。

 せっかくなら石田が作ったメシが食いたい。じゃなけりゃ何のためにここに来たんだ!
 建前は勉強だけど。石田の作ったメシを食うのも、真の目的の一部なんだって。

「………そう」
 石田が、下を向いた……やべえ。ちょっと調子に乗ったかな。飯を作ってくれとか図々しかったかな……。

「あ、いや、面倒ならいいって。外行こうぜ。勉強教えてくれたお礼に奢ってやるよ。ってもファミレスぐらいだけど」
「……別に、料理は好きだし……外で食べるとお金かかるし、作るのは、そんなに、面倒じゃ、ない……」
「……えっと」
 それって……機嫌悪くしたってわけじゃねえのかな? 下を向いてて、よく解んねえけど……怒った、感じじゃなかった。

「だから、これから買い物……行かなきゃ、いけないけど……」

 あ、そっか。
 なんだ、照れてんのか。
 あんまり誉められ馴れてない石田は、顔が赤くなってた。石田の飯が旨いから食いたいって言ったのは、嫌だったわけじゃないらしい。

 そんな石田は、なんだか男のくせに可愛くて、抱き締めそうになるのを必死で我慢した。







 スーパーで食材買って、石田の作った飯。鶏肉と大根の煮付けとか、味噌汁とか、秋刀魚の塩焼きとか、ホウレン草のおひたしとか……美味い。
 遊子もいつ嫁に出しても恥ずかしくないレベルに料理美味いけど、洋食派だから、なんか今、目の前が幸せ。……日本人やってて良かったって思えるような飯が並んでて。一口食べたらじーんと沁みるような味がした。味わって食べてるつもりではあるけど、どうしても箸と口が止まんねえ。
 勢い良く飯を食べる俺の食いっぷりを見ながら、石田はゆっくりと箸を動かしていた。

「美味い! この大根、マジで美味い」
「良かった」
「いつもこんなに作ってんの?」
「……今日は、特別だよ。いつもは、オカズとご飯と味噌汁だけだよ」


 ……特別って……。


 俺のためにこんなに作ってくれたって事?


「今日の買ったもの、君が払ってくれただろ? だから……」

 食材持ってきて作ってくれるなら、毎日買って来るって!

「……ありがと。すげえ美味い」
「……どういたしまして」

 石田は、何でもないように笑っていたけど……今までの石田のことなんか、こいつはあんまり自分のこと話さねえから解んねえけど……きっとろくな友情もしてこなかったことぐらいは解る。
 だから、褒められる事に慣れてないんだろ?


 だって石田の耳、赤くなってる。










20121128