【Full Moon 2】 01
俺が、石田の事好きになったの、けっこう前。 多分だいぶ前だとは思うけど、具体的にいつからかは不明。好きになってた事にも気付かなかった。 好きだって思ってなかった。ただ、やけに気になった。 死神を憎むって言ってた石田の泣きそうな顔が、頭から離れなかったってのもあったけど。 好きだなんて思ってたわけじゃなくて、その頃はまだ気になってただけなんだけど……。 だってさ、アイツ、ずっと俺の事見てないか? アイツの視線が気になるって自覚症状に目覚めたのは最近。 石田はずっと俺の事を見ていた。自意識過剰かと思ったけど、多分、錯覚じゃない。だって時々目が合う。 なんか横顔に突き刺さる気配を感じて見ると、その先には石田がいる。 視線に温度を感じたのは初めてだ。冷たい顔して、睨み付けるような表情は氷点下なのに、沸騰しそうな温度を感じた。なんだか、そんなのがやけに意味深。 ……和解したって思ってたのに、まだ死神に恨みでもあんのか? ってよりむしろ、俺がそんな嫌いなのか? 色々と疑問はあったけど、とにかく、気になった。 しかも毎日じゃない。 だいたい一ヶ月ごとに二、三日程度。 いつもは、yesかnoで訊いてても、挙げ足取るような第三の答え持ち出してイラつかせるか、話しかけてもこっちも見ずに無視に近い素っ気ない態度だってのに。 そん時だけ……。 他人の視線なんかいちいち気になんない俺が、気になるくらい、熱い視線を……浴びせかけられてるうちに……。 俺は変態だったんだろうか。 気になる。 すげえ、気になる。 女みたいにバイオリズムがあんのか何なのか、いつもじゃねえが、定期的にそんな視線を受けてるうちに……。 何で今日は俺の事見てないんだ? とか……視線が感じない事に、苛立ちとか感じてるのは何でだ? 気に、なった。眠れないくらい石田の視線が目蓋に張り付いて、寝ても覚めても石田の顔が浮かんで、なんか言ってやろうって思っても、石田を前にすると結局何にも言えなくなる。 のは、惚れてんじゃないのか、俺は? などと、絶望的な結論にたどり着くまでに、それほど時間はかかんなかったと思う。石田に惚れるなんて、男同士以前に石田ってのがそもそもでかい障害になるような奴だってのに。 どんなにポジティブに考えたって、石田の視線に穏やかな感情は含まれてない事ぐらい解ってる。 とにかく石田が、アイツが俺を見る以上に気になった。 石田を好きか嫌いかで言ったら、たぶん嫌いだ。 俺が死神になんなけりゃ、話をする事もなかっただろうし、存在にすら気付かないまま卒業したかもしんねえ。 神経質で愛想もなくて、今までろくな会話もしたことがねえ相手、好きなはずねえ。 けど、気になった。 気になったら、石田の泣きそうな顔とか思い出すし。 笑った顔とか……見せてくんないかなって思ったりとか色々。 わかったら、駄目だった。 せめて気づかなけりゃ良かった、アイツが好きだなんて。 せめて、惚れてるって以外に名前の付いた似たような感情あんなら、そっちの方が断絶いいに決まってる。 石田の事、好きだなんて……。 いや、嫌いだけど。多分、タイプで言ったら、石田は好みのタイプとか以前の問題だと思う。まず、相容れない。 嫌いだけど、やっぱり好きだって、感情はやたらと俺には複雑すぎて、自分について行けねえ。 アイツが俺を見てなきゃ嫌だって。 それはどんな我が儘だ? 石田が、石田に……俺ん中が石田の事ばっかで……… 石田が吸血鬼だって知ったのはそんな頃。 吸血鬼なんだって、石田が。 どんなギャグを言ってるのか正気か確かめようかと思ったけど、血……吸われたのは確かだった。 俺の首に二つ並んで開いた傷口は、どんなに犬歯が尖ってたって人間の犬歯じゃなかった。手品使ったようにも見えなかったし。 すげえ旨そうに俺の傷口舐めてた石田の目の色は、血の色を映したように真っ赤だった。そんな手品仕込んでる余裕なんてなかったことは解ってるし、石田が俺に手品の披露とか、そんな事するはずもねえし。 普段の石田からは想像できないくらい、エロいオーラ振り撒いて……。 嘘なんか、挟み込む余地も無かった。 だから、きっと事実なんだと思う。 ちゃんと聞けば、どうやら先祖にそんなのが居て、人間との混血でほとんど人間で、別に血を飲まないでも生きていけるけど、満月の夜は無性に血が飲みたくなるらしい。 聞いたって何の冗談だよって思ったけど……冗談しかめた笑顔で話してたけど、それを話してた石田の死にそうに青白い顔と泣きそうな目には、嘘なんかどこにもなかった。 満月の夜と、その前後数日。 確かに飲まなくても今まで生きてきてるし、大丈夫なんだろう、今までだって飲んでなかったんだ、死ぬわけじゃないだろうけど。 でも、毎回倒れそうなくらい真っ青で滅茶苦茶辛そうだし、俺の血をやった後、格段に、俺にも解るくらい霊圧増えてるし……。 なんか……納得するような事でもねえが、納得した。 吸血鬼だなんてハードル高い現実は、死神とか虚とか常識圏外の中で俺の順応性や環境適応能力は一挙に鍛えられたんだろう。 今更、なんか、一つくらい増えた所で俺の日常は中学の頃普通に想像してた一般からはとっくに範囲外だった。 → 20111202 |