School Life 02








 放課後、部活中に教室にたつきから借りたCDを忘れてきたことに気付いた。別に今日聞かなくても良かったんだけど、なんとなく取りに戻ったのが、間違いだったのかもしれない。

 近道のために中庭を横切ろうとした時に……



 怒声が聞こえた。

 ……喧嘩?


 巻き込まれたらたまったもんじゃないから、それでもやっぱり興味がないわけじゃないから、ちょっと柱の影に隠れて覗いてみた。

 やっぱり優等生としては、教師を呼びに行くのが妥当な所なんだけど……。



 私は動けなかった。



 複数の不良に囲まれた人物が、あの石田だったから。

 四人の背の高くて威圧感のある上級生に囲まれていた。石田じゃなくても、普通の人間だったら、あのでかい不良に囲まれたりしたら、萎縮して何も言われなくても財布渡しちゃいそうになるような、威圧的な、いかにもな人達に囲まれていた。
 石田も背が低いほど低いわけじゃないけど、高い方でもないから、それにモヤシだから、でかい身体をしたラグビー部員みたいな上級生と比べて、やたらと小さく見えた。




 カツアゲ?

 そりゃ、大人しそうなお坊っちゃん顔のガリ勉そうな眼鏡なら、カツアゲしやすそう。私が不良ならまず目をつける相手だと思うから、そこにいるのが石田なのは、あんまり不思議には思わなかった。


 優等生としての私を維持していく為にも、さっさと先生呼びに行かないと……と、思うけど。

 動けなかった。










 せめて、一発でいいから、石田が殴られる所を見たくて……!







 だから、不良の怒鳴り声を聞きながら……石田を見ていたんだけど、鞄から財布を取り出す素振りもなく……どう見ても剣呑な空気は、お友達の感じじゃなくて、やっぱりお金を貸してくださいとかの会話なんだろうと、具体的な内容まで聞こえないけど勝手に推測する。

 ああいう性格だものね。
 一回殴られると怖くなってホイホイ金を渡すようになるらしい。
 石田は、上級生を見たまま動こうとしなかった。それとも怖くて動けないのかしら? だとしたら、いい気味だと思う。

 上級生が、怒鳴りながら石田の襟をつかんだ。

 ああ、ほら殴られる……。



 と、思った時に。


 ……何が、起こったの、か、理解できなかった。

 殴りかかった上級生が、地面にそのまま仰向けに倒れた。


 その後も、後ろから殴られる、所を回し蹴りで。
 四人の上級生に、それも体格差がだいぶある相手に、30秒も、かからなかったと、思う。








 何なの、アイツ………。







 石田が落とした鞄を拾って歩き出した。

 って! こっち、来る……。


 慌てて柱の影に隠れようとしたら




「国枝さん?」

「っ……!」


 そっちから見えて居ないと思ったし、逆光だったし、私に気付いた素振りも無かったのに……。




「な、何?」
「誰も呼ばないでくれてありがとう」
「え? ええ、まあ」

 何だかお礼を言われたんだけど、お礼を言われるようなこと、私何もしてないけど……。

「ついでに、申し訳ないけど、黙っててくれないかな」

 ……誰に、何を言えばいいって言うの!?



「……あたしが誰かに吹聴するような人間に思われているのは心外ね」
「助かるよ」


 その時の会話はそれだけ。

 石田は上級生複数に絡まれた事は、何でもなかったかのように、正門の方に歩いて行った。
 それよりも、池の近くを通り過ぎる時に魚が跳ねた音に、びくりと肩を震わせて、通り過ぎるまで水面に視線を注いでいた……石田にとっては不良に絡まれるよりも池の鯉の方が気になっているって……何なの、あいつ?



 とりあえず、転がってる上級生は、見なかったふりするのが得策だと、私もそう思ったから見ないふりをして教室に戻った。







 私は、諦めた。

 私が何でも全てをそつなくこなすパーフェクト才女だったとしても、この男も同じように何でもできる種類の人間なんだって、認めざるを得なかった。死ぬほど悔しいけど。







20110816