白亜の闇 35








 我が儘だって知ってるけど、知らない。


 君の苦しみなんか知らない。

 一護がどんな苦しみを負っているのかなんか、僕には関係ない。

 そんな事知らない。知ってたって理解なんかしてやらない。



 困ればいいんだ。もっと僕に困ればいい。

 僕だけでもっと一護の中が一杯になって、僕みたいにぐちゃぐちゃになってしまえばいいんだ!


 僕が今辛い、という感情で全部を占められてる。辛いんだ。君に会いたいのにずっと会えなかったのがこんなにも辛かったんだ。
 今僕には、君を思いやる余裕なんてどこにもない。




 どうせ気遣いなんか僕達には最初からなかった。
 僕達は互いのエゴで成り立っていた。

 それをぶつけられる相手だから、僕は君だったんだ。
 僕は僕の本質を晒せたし、一護は一護で僕を手に入れる事によって自分になりたかっただけだ。結局、僕たちはどこまでも自分本意だった。でもきっとだからこそ僕達の感情は成立した。





 色々定義付けても結局はどうだっていい。理由なんて後からいくらでも付属できる。その理由が嘘だろうと本当だろうと、それも結局どっちだって構わない。

 ただ、僕は一護に会いたかった。
 ただ僕は会いたかっただけなんだ。



「くそっ!」



 一護は………





   泣いていた。





 僕の顔に涙が落ちた。

 一滴。ぽたり、と。僕に涙を、落とした。




 僕の涙と混ざって、流れ落ちる。

 僕も泣いていた。


 この涙は、自分本意のエゴでしかない。
 僕は一護の気持を憂慮してあげる余裕なんてない。
 一護は自分を確立させる為に僕を手に入れた。僕が君のものじゃなくなったら、君が黒崎と別の物だって証明できなくなる。君にとっては僕は、ただの手段でしかないから、一護は僕を所有しているから、もし僕の為だと偽善で流す涙だったとしても結局はどこまでも一護の為でしかない。

 どんなに絡み合ってくっついて、繋がって、想いを確認しあっても、僕達はどこまでも僕と一護にしかなれない。
 混ざる事も共有することもない。



 どうしようもないんだ。
 そんな事解っている。

 だから苦しいんだ。

 苦しさを、ただ押し付け合ってただけなんだ。僕が泣いてるのだってきっと君に見せつけてやりたいだけなんだ。


 だから痛いんだ。
 だからそんな行為を重ねたんだ僕達は。












 ……破綻なんか、最初からしていた。





「ずっと、見てた」


「……一護」


「中から、ずっと見てた、雨竜の事」


「………っ」





 苦しいんだ。苦しい。
 嗚咽が止まらない。




 一護が苦しそうに顔を歪めて泣いている。

 慰めてあげない。

 先に僕を安心させてくれないと嫌だ。


 腕を一護の首に絡める。

 抱き締めて、肌を感じる。


 一護の肌。
 黒崎の身体。

 一護が僕を呼ぶ。
 黒崎の声。




 泣きながら、僕達は抱き合う。



「僕を、見ていたの?」

「中から、ずっと雨竜を見てた」



 見ていたんだ?

 じゃあ、やっぱり、僕は間違ってなかった。



 そこに居たんだ。

 黒崎の近くに居るのは、間違って無かったんだ。君の一番近い場所に居たいって、それは間違ってなかった。

 君の一番近い場所に居たい。







 君がいればいい。


 僕は、本当にね。
 君だけが僕に在ればいいんだよ。




「一護」



 僕は君が、好きなんだ。



 君だけが本当の僕を知っていればいい。



 僕は、ずっと君を見ているから、一護もずっと僕を見ていて。



































「石田……」


「ん?」



 黒崎の腰の動きが不自然に止められた。

 浮遊感を伴う快感の中から、少し現実に引き戻された。黒崎と繋がる場所は、これ以上無いくらい熱く溶けそうになっている。


「……黒崎?」

 上から覆い被さるように、黒崎はそっと僕の頬に手を添えた。




「お前、やってる時だけは、俺の名前で読んでくれるの、気付いてる?」

「……知らないよ」

「なんか、嬉しい、そう言うの」

 僕を優しく包み込むように抱き締められた。僕の中にある黒崎が、熱い。





「俺も雨竜って呼んでいい?」

「駄目だよ」

「何だよ、不公平だろ」

「うん。君は、駄目」



 僕は黒崎の頬に手を伸ばす。汗ばんだ頬に触れると、黒崎は僕の手に頬擦りした。
 黒崎は嬉しそうに眼を細めた。

 無条件の好意を確信できる表情に、自然と僕の頬も緩む。

「石田」

「何?」

「お前が、好きだ」



 黒崎は少しずつ動き始めた。
 僕を緩慢に溶解させる熱をゆっくりと送り込むような行為に、素直に意識と身体を譲る。






「好きだよ、一護」




 身体の芯が、徐々に熱を帯びてくる。







「……一護」





 ふわふわとした微睡んだ、快感にまみれた僕達が絡み合う。その中に僕の意識は酩酊する。

 陽射しを思わせるような暖かな黒崎の霊圧に、僅かだけど含まれる肌を刺すような鋭利な硬質のある霊圧が……。





「一護」


 そこに、居るんだよね?


 君は、ここに居るんだよね?
 ちゃんと僕を見ていている?






「……雨竜」




 名前を呼ばれたから、薄く目を開く。


 闇色の目が僕を見ていた。




「一護」






 僕は、黒崎の身体ごと、一護を抱き締める。






























20110809
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