「一護……」
「あ?」
「さっき、笑ったの、君の事を考えていたからだよ」
君と、僕を少しでも近いものにしたくて、君が僕を見てくれる要因を探して、それで、自嘲しただけ。
別に、そんな事言うつもりもなかったのだけれど。加害者と被害者という立場に甘んじていたくなくなったから。被害者意識なんてもう必要ない。被害の恩恵を受け入れたいと思った瞬間に僕は被害者ではなく共犯者に変わった。
「……へえ」
まだ身体の中にある一護が、動いた。少し硬くなったのを感じた。
「……あ」
「で、雨竜は何考えてたって?」
「……今、訊いたこと」
「ふうん」
君の存在について考えていた。僕にとって、一護は何なのか、考えていた。
僕の心を占める理由について考えていた。
「どうやら僕は、君を好きらしい」
少しだけ、一護は驚いた表情をした。僕は初めて一護のそんな顔を見た。
油断していたからだろうか。僕がそんな反撃に出ることを予想していなかった、そんな表情が、僕を少しだけ優越感に浸らせた。
「…………」
一護は答えない変わりに、僕をきつく抱いて、顔を僕の首筋に押し付けた。
僕の中に入ったままの一護が、また大きくなった……それを感じて、僕は無意識に中の一護を締め付けた。
「……一護」
「…………」
「僕は、僕だけは、黒崎じゃなくて、君を見るよ。君だけを見てるよ」
だから………。
そっと、僕は、一護の頭を撫でる。今、とても僕は彼を甘やかせたい気分なんだ。
一護が、強大で絶対的な存在でないと解ってしまった。
君も、僕と同じように、嫉妬で葛藤していたのを、僕は知ってしまったから……一護も、弱いって、僕はもう知ってしまった。
僕の一方的な感情の押し付けでしかないけど、でも一護に優しさをあげたいと、思った。ただの、同情でしかない感情かもしれない。
君の中のことなんて本当は何一つ解らないけど。
もし、君が僕を選んだ理由が僕と同じなら良いと思った。
一護は僕を選んだ。
僕に同じ温度を感じてくれて、だから僕を選んでくれていたなら……。
『腹の中の温度が、俺と近そうだったからな』
初めて僕の前に現れた一護は、確か、そう言った。
あの時は気付かなかったけれど、もし……。
一護が僕の温度に気付いていたら?
もし、僕が黒崎に抱いている嫉妬を一護が理解しているなら……僕達は、とても類似している。
「一護」
君が僕を選んでくれたのなら、僕が、優しくしてあげる。
僕は君を見てあげる。
僕だけは黒崎じゃなくて君だけを見ていてあげる。
僕は君を認めてあげる。
僕が誰よりも君を認識していてあげる。
僕をあげる。
僕の中で再び固さを増した一護が腰を動かした。
「……ぁ、ん」
だから、一護も、僕を、見て。
「なあ、雨竜……どうして欲しい?」
「………気持ち良くして」
だから、僕を見て。
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20110708