白亜の闇 23








 一護の手が伸びてきた。僕は、きっとその手に触れてもらいたかったんだと思う。一護は僕に優しくなんてしない、それでもその手に僕は優しく触れてもらいたかった。

 不意に髪を捕まれて、顔を上げた。
 やっとの思いで飲み下したのに、彼は、笑ってくれなかった。そんなことを望んでいたはずなんて無いのに、僕はそれが不思議だった。そして、何故か悲しくなった。

 頑張ったのに、僕は褒めてもらえなかった。それだけだ。当たり前じゃないか? 別に僕は一護に褒めてもらいたいわけじゃない。でも……


 一護は険しい顔で、僕を睨み付けた。

 その、眼差しは、真っ直ぐに射抜くように、僕を見つめていた。
 髪を掴んで引っ張られた頭が、痛い。


「お前、さっき何話してたの?」


 さっき……黒崎と話していた事だろうか。
 それ以外、今日は誰とも会話らしい会話をしていないから、きっとその時のことだと思うけれど……。

「……さあ」

 何を話していたんだろう? 聞いて、居なかった。
 黒崎が、何かを話していた。

 その顔を見て、その声を聞いて……僕は、一護を思い出していた。






「雨竜、お前は俺のだろ?」




 そんな、約束していない。



 僕は誰の物でもない。ましてや、僕の物ですらない。

 ただ滅却師であれば良かった。個はなくて良かった。僕は僕である必要はなかった、僕は滅却師で在りさえすればそれで良かった。





 滅却師ですら無くなった、僕は……










 もう、要らない。




 こんな僕は、もう要らない。



「…………」






 それでも彼は、僕を所有してくれるの?

 何でもない僕を?




「……一、護」



 それなら、


 僕は君のモノでいい。








 そっと、彼に手を伸ばすと、身体を引き寄せられた。乱暴な手付きで、ズボンを下着ごと下ろされる。バランスを崩して、僕は慌てて一護にしがみついた。



 ズボンを、脱がされる。




 僕は、反応していた。


 ただ、舐めていただけなのに。彼のを口に入れて、口の中で愛撫していた。そのくらいしか、まだ接触していない。


 口一杯に頬張って、唾液を溢れさせて……それで、僕は反応していた事に、自分では気付いていた。



 彼は、僕の何処にも触れていないのに……。
 

 それを見られた。
 僕を、見られた。







「…………」

「……へえ」


 目の前の張り詰めた僕を、彼は値踏みするような目付きで見て、指で弾いた。

 その、刺激で、全身が戦慄いた。

「……あ…」


 脳まで、突き上げるような痛みにも似た快感に、流されそうになる。




「待って」



 鞄の中に、ハンドクリームがあった。いつも、入れている。まさか、こんな事に使うなんて思わなかったけど……無理矢理捩じ込まれるのは、嫌だった。痛みばかりが強くて、痛みだけでもいいけれど、僕はそれ以上に一護を感じたいから……せめて、と思って……。





「用意いいな」

「痛いのは嫌だからね」

「でも雨竜はそっちのが良いんだろ?」



 彼は渡したチューブから、白いハンドクリームを指に出した。僕は、それをじっと見つめる。





 ………白い。


 さっき、僕が飲み込んだ一護の精液も同じような色をしていたのだろうか……。



 一護の腕が、僕の腰を抱き寄せた。

 一護の座る一段下に膝立ちになる。

 指先が、入り口に触れた時には身震いがした。




 指が、僕の中に沈む。



「あ……」


 一護の指先が、僕の中に……入ってくる………。


 僕の中で動く……のを感じる間も無く、すぐに、指を抜かれた。

 ハンドクリームを握っているから、足すのだろうかと、思った。


「面倒臭えな……」



 彼は、チューブを持ち、そのまま僕の入り口に押し当てる。

 先が中に入り込んでくるのが解った。冷たい、固い感触がしたから。



「っ……あ」

 中に、溢れてくる、冷たい………。


「や……やだっ!」





 思わず、身を捩るとむき出しになっている尻を叩かれた。手の平で叩いた鋭い音は階段響いた。



「痛っ……!」



 鋭い、音を立てた後に、じんとした熱が広がった。ヒリヒリと痛む、そこに、もう一発、叩かれる。



 痛みなんて大した苦痛じゃないと思ったのは、間違いだった。それに一護は気付かせてくれた。

 怖いと……


 もう一発、叩かれて、涙が滲んだ。痛みと同時に熱くなる。痛みよりも屈辱的な行為だと思った。



「痛い……! 痛いよ」



 すがり付くのは、一護に。
 僕に苦痛を与えるのも、僕を叩き落とすのも、救ってくれるのも、全部一護だ。


「やめて……痛いんだ」

 もう、叩かれたくなくて、甘えるように一護の頭を抱える。

 しがみついて、懇願する。



 僕を助けて。

 僕を痛くしないで。

 ねえ……君の言う事を聞くから。






「素直にしてりゃいいんだよ」



 そう、言いながら、彼は再び中に指を差し入れた。


「ぁ、ん……っ」


 体温でハンドクリームが溶け出したのか、一護の長い指はすんなりと僕の奥まで入ってきて、僕を掻き回す。僕の中をかき混ぜる。ただの臓器だ。内臓の一部だ。ただ、それだけだ。僕の中を触られている。


 思考までぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。意識が混濁する。

 僕は必死で流されないように、一護にしがみついた。






 濡れた、音がする。

 音が耳を犯す。

 彼の節張った長い指。

 僕の中で動く。

 中で動く。

 バラバラに動く。

 中を弄られる。

 身体の中を触られている。

 僕の中を触られている。

 汚いのに。

 僕の中は汚れてるのに。

 こんなにも汚れてるのに。

 僕の中に侵入する。

 無遠慮に僕の中に入り込む。

 それが……。








「……ふ、ぁ…っん」





 ようやく、指が抜かれた時に、僕はその指を追いかけたかった。
 心地好いと思える渦に包まれているような気がした。














20110703