「……脱いだ、よ」
指先が震えるのを気取られないように、シャツを握り締める。
「全部脱いでないだろ?」
ズボンの上から、指先で撫でられて、身体が跳ねた。
「見せろよ、全部」
「……」
抵抗は、したくなかった。何をされるのかわからない。痛い思いはしたくない。苦しいのも嫌だ。
でも……そんな、恥ずかしい事……自分から出来るわけがない。羞恥で、頭がおかしくなりそうだ。耳朶が熱い。血が上っているのは、羞恥と屈辱によるものだろう。
「……嫌だって、言ったら?」
「可愛い奴は可愛がってやるよ」
「……………」
従えば、何もしない。つまり、従わなかったら………僕は、何をされる?
僕は、ベルトに手をかける……。
結局、何をされるのか解っていた。きっとまた再び僕を犯すのだろう。従っても従わなくても結果は同じなのに……でも、僕は少しでも苦しくない方がいい。
指がもつれる。
指先が震えて、自分のものじゃないみたいだ。
その間、彼の指先は、僕のファスナーの上を指でなぞっていた。その動きに合わせて、身体が弛緩していく……。
「不器用。ベルトも外せねえの?」
「ねえ……力が、入らないんだ。手伝ってくれない?」
「………」
彼は、一瞬だけ表情を堅くした。
殴られる。
かと、思った。
「いいぜ、雨竜」
緩めた表情に、僕は少し……安堵した。殴られる事もなく、自分から服を脱ぐ、ましてやいつも使っている被服室で下肢をさらせるほどの勇気など、なかった。
彼は、器用な手付きでベルトを抜き取り、ズボンのファスナーを下ろすと、張り詰めていた自身が解放されたような、気がした。
「元気だな」
彼の卑下た物言いに、僕は自分で確認する。
自分でも、驚くほど……。
怖くて、僕は恐怖だけしか感じていないはずなのに……そこは興奮で膨らんでいた。
「感じたの」
「君が、触るから、ね」
「気持ち良かったんだ」
「生理的な、もの、だ」
彼が先端部を指先で触れる度に息が詰まる。痺れて行くような疼きが、身体を絡めとる。力が、入らない。
「身体が勝手に気持ち良いんだっての?」
「…………」
否定は、しなかった。出来なかった。明らかに、自分が、おかしいのは解っていた。
敏感な、触れば感じる部分なんだ。仕方がない。
自分で触れる事もあった。人間の本能に伴う欲求は欲求で、ただ罪悪感を喚起するためだけに行う汚らしい処理を、自分でする事もあった。
それでも、触れれば立ち上がり、吐き出せば、気分は自分の汚物に気分が沈殿するものの、それで済んだ。気持ちが良いなど……考えなかった。手早く済ませれば、それからしばらくはまた考えずに済む事だった。我慢が出来るのならば、自分にそんな欲求があるだなんて考えたくもない。
彼の指先が、僕に触れる度に、身体が熱を持つのが解った。
もっと、触れて欲しいとも思った。意志と反して動き出しそうになる腰を押さえる。
僕が感じていたのは、敗北感と恐怖と屈辱だけなのに……。
彼の手は、わざと、焦らすような触り方をして……滲み出た透明の液体を広げるようにして、ゆるゆると触れる。
もっと、と、思う。思った。
もっと……手のひらで包むように僕に触れて欲しいと、そう思ったけれど、それを口にできるはずもない。
もっと触って。僕に。
そう、思ったのは、きっと何かの間違いだ。
「今度は自分で出来るだろ?」
そう、言われたけれど、僕はその内容を理解出来なかった。何を言われて、彼は何を僕にさせようとしているのか。
「やって見ろよ。俺に見せてみろ」
手を握られた時に、彼が何を求めているのか理解出来た。
触れた彼の手は、僕の出した先走りの液体でべとついていたのが不快に感じて良いはずだったのに……。
一護の手に導かれて僕は自身のを握る。僕は、彼の見ている前で、手の中に収める。
「やって見せろよ」
「………」
自分で、今、何をしようとしているのか解った。解っていたんだ。
一護の見ている前で。
僕の嫌いな、黒崎の前で、僕はとても恥ずかしい事をしようとしている……。
羞恥に、身体が熱くなる。
「雨竜、やれよ」
こんな場所で?
誰が来るか解らないのに。
今日は誰も来ていないけど、今から誰か来るかもしれない。廊下を誰かが通るかもしれない。時計を見ていない。何時だろう。外はもう暗い。そろそろ教師が下校だと見回りに来るかもしれない。
「見せろよ、雨竜」
彼の声に従う事しかできない僕は、ゆるゆると手を動かし始めた。
「……っ…ん」
手で、握るようにして動かす。
少し、力をこめて、握る。
自分の身体なんだ。いつも早く終りたい。こんな情けない行為を長く続けて居たくない。さっさと終らせてしまいたい。だから、どうすれば早く終るのか解っている。自分の身体なんだ。
時々、爪を立てて……そうすると、早く終わる。
「痛いのが好きなんだ?」
「え?」
「普通、爪立てねえよ。痛えだろうが」
「……知らない」
責められている気がした。
他の人が、どんなやり方をしているのかなんて、見たことも気になった事もない。
でも、詰られているような気がした。僕が、恥ずかしい人間なのだと言われたような気がした。
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20110308