白亜の闇 04








 見て、いられなかった。
 これ以上自分を見たくなかったし、感じたくもなかった。

 他人に触れられて、興奮して勃起しているだなんて、自分にすら、知られたくないんだ。
 そんな、自分、は違う。そんな僕は、僕じゃない。そんな僕なんか、知らない、知りたくない。

 だから、目を閉じた。目を閉じて……少しでもこの状態の情報を頭の中に残しておきたくなくて、視界を閉ざした。耳も塞ぎたかった。息もしたくなかった。




「ちゃんと、見てろよ」

「ひっ…」

 突然、強く握られた。全身が、引きつるような刺激が走る。

「ちゃんと見てろよ。自分のだろ?」




「………」



 ゆっくりと、目蓋を持ち上げる。

 目の前で、黒崎の姿をした黒崎のはずの虚に酷似した存在が、僕を笑っていた。



「ちゃんと見ろって」

 ゆっくりと、僕は下部に視線を下ろす。僕は、痛いくらいに勃ち経ち上がり、先端から透明な液体を垂らしていた。それに彼の指が、絡み付いていた。


 だって、その指は、黒崎の指なんだ。その指が……僕に触れて……



「……あ」

 ぞくりと、背中に熱いものが駆け上る。




「見てろよ。俺はお前の顔、見てるから」

「………」

「お前のイイ顔、見せろよ」




 嫌だと、思った。

 自分のプライドを固持する為ならば、命すら投げ出しても良いと、僕は常にそう思っていたんじゃないか? 自分の滅却師としてのプライドが、自己を存立させる唯一の要素だった。僕は僕である以前に、滅却師として生きてきた。

 自分なんか、見せたくない。










 ……僕が、瓦解する。










 彼の手が、乱暴な手つきで僕から服を取り去っていく。足が、剥き出しになるのを僕は目を閉じる事も出来ず見ていた。



 教室で……毎日、皆が授業を受けているこんな場所で……毎日、僕が退屈な授業を受けている場所なのに。

 僕は、服を脱がされて、肌を晒している。こんなことをされている。

 抵抗などしなかったから、簡単に脱がされて、スラックスが僕の脇で皺を作っていた。片方だけ脱げた上履きが、足元に転がる。

 彼に見ていろと、言われたから……僕は見て、いた。抵抗なんか出来なくて、僕は従うことしかしたくなかった。そうすれば早く解放されると、どこかで勝手に信じたからだ。きっと、それ以上じゃない。

 教室は、電気もついていなくて、外はもう薄暗くなってきているけど、それでも、視界を奪うほどの闇ではないから……。



 彼の視線が僕に注がれているのが解ってしまった。
 じっと彼は僕を見ていた。


「ちゃんと見てろって言っただろ?」

「うっ、く……」

 握られて、爪を立てられて、痛みに身体が震えた。敏感な部分なんだ。大して力を入れたわけではないだろうけれど、それでもあまりの痛みに、背を仰け反らせた。

 そして、その刺激にすら身体が、痛み以外の感覚に震えた。






 ……僕が、暴かれてしまう。

 僕は滅却師と言うプライドでコーティングしてあるだけの、矮小で卑下た存在だと、暴露させられてしまう。



「……あ…っ」

 彼の手が動くと、知らずに声が出る。一人でする場合、声なんか出ないのに。自分でする場合は、ただの処理なんだから、なるべく早く終わらせた方がいい。声なんか出ない。

 こんなに、違うから……自分の手と他人の手では、こんなに違う。つま先から、頭の先までが、熱くなる。耐え切れない。



 彼が、僕の視線を監視するから、僕は彼の手から、視線を外す事ができない。
 見ていろと、言われた。

 だから、僕は、彼の手が僕を包むように握り、上下に動くのを、見ていた。他人に……黒崎の、指が、僕のを……





 羞恥に、身体中、熱くなった。




「ふ……あぁ……んっ」

 抑えたくても漏れる声を止める方法も、わからない。

 彼の手が動く度に先端から溢れる透明な汚物を、止める方法も知らない。

 身体中で、感じている。


 熱くなる。

 彼の指が、僕の感覚を支配する。





「あっ…あ…あっ」

 先端の割れ目に、爪を立てられた。

 ぐりぐりと、広げるように爪先が入って………。





「……や…離して。イっちゃう……離して」

 痛いのに。

 それなのに、僕は……。



「いいぜ。イけよ」

 強く握られて………手の動きが速められて、僕はどんどん押し上げられる。

 爪先に力が入るのを感じた。

 堪えたくて、それでも、上昇していく熱の抑え方なんて知らなくて。

 全ての感覚が収束されて、世界がここだけになってしまったような。

 視覚が、原色のみの色を拾う。






「…………ぁ…」





 僕は、達した。









 離して欲しいって言ったのに。



 僕は、彼の手に吐き出した。





 黒崎の、手の、中に、出した。



















20091025
再:20110117