………汗で、気持ち悪くて目が覚めた。
喉乾いた。
喉が痛い。
でも、昨日より、だいぶ楽になった。身体のダルさも昨日程じゃないから、熱も下がって来たみたいだ。
結局、三日も学校を休んだ。
多分、お風呂上がってから、薄着のまま面白い本を読んでいたら夢中になっていて、気が付いたら深夜2時過ぎで、寒気がしていたせいだろう。1日目は、出席日数にたいした拘りもなかったから、何となく具合悪かったから、休んだ。さすがに買い物とかは行かなかったけど、大人しくしていればすぐに直ると思って、洗濯物も溜まっていたし、お風呂とか気になって掃除とか、つい有意義に過ごしてしまった。終わった頃にちょっと眩暈がしたけど、あまり気にしなかった。
夜になって、熱が上がってきて、薬飲んでいつもよりも早く寝た。薬が無くなってたから買いに行かないと、とか思いながら寝て。
明け方、喉に焼け付くような痛みを覚え、水を飲もうとして、台所まで行って……そこで動けなくなった。まさか自宅で行き倒れるとは思わなかった。本当に、床が冷たくて気持ちいいとか思っている場合じゃなかった。
なんとか布団に戻ったのがだいぶ明るくなって……から本格的に体調を壊した。
薬も無くなってしまっていて……。
情けない。
とりあえず、身体がだいぶ軽くなってる。
昨日の事は、おぼろ気だけど。
………黒崎が、来てくれたみたいだ。
薬を買って来てくれて……。月曜日、会ったら薬代返さなきゃ。あいつ、レシートとかとってあんのかな。
でも、助かった。
ちゃんとお礼を言わないと。少し、気まずいけど。
黒崎に……だいぶ、看病してもらったようだ。記憶はあまりしっかりしていないけど、何となくお粥を食べさせてもらったりした事は覚えてる。
少し、恥ずかしい。
「へっぶしっ」
「わあっ!」
いきなり、僕の、一人暮らしの僕の部屋から、くしゃみが聞こえて、僕の心臓が跳ねた。
「………?」
恐る恐る、くしゃみが聞こえた床に視線を送る………。
と………。
「黒崎っ!」
黒崎が、寝てた。
僕の予備の毛布にくるまって…………。
「ちょ、黒崎! 起きろ!」
慌てて飛び起きて、黒崎の肩を掴んで揺さぶる。
僕の寝覚めは最悪で、朝は起きてから布団の中で十分くらいぼんやりしないと動けないのに、さすがに飛び起きた。想定外の出来事は、苦手なんだ! アドリブには弱い方なんだよ。
「んあ?」
「ちょ、君、何でこんな所で寝てるんだ!」
「………ああ」
寝起きのぼやけた顔で、黒崎は僕の顔を確認した。
「いや、さすがにそのベッドで一緒に寝るわけには行かねえだろ?」
「当然だろ? て言うか、床で毛布一枚で寝てるのだって非常識だよ。君は風邪をひきたいのか?」
暖かくなってきたとは言え、まだ寒い時期だ。床で寝てたら風邪をひいてしまう。
「熱は下がったか?」
急に、僕の額に黒崎が手を当てた。あまりにも自然な動作で、僕は振り払うことも忘れて黒崎の顔を凝視してしまった。
「……なっ!」
何をするんだ。
って、声が出ないほど、僕には衝撃的だった。
「これなら大丈夫そうだな」
「…………黒、崎」
手が……冷たかった。黒崎の手が離れてから気づいた。
ほら、だからこんなところに寝てるから、身体冷えてるだろう
「悪い、マジで眠いんだ。やっぱベッド半分貸して」
「はあっ?」
………何を、言ってるんだ、この男は?
まだ居た事にすら、僕は驚いてるのに。
薬を買ってきてくれて、着替えてから、黒崎がトイレに行ってる間に寝たから、その時に帰ったと思ったけど。
言葉も見つからないままでいるうちに、黒崎は僕のベッドに潜り込んだ。
「あったけー」
「そりゃ……床なんかで寝てれば……じゃない! ちょっと、黒崎!」
「大丈夫、俺簡単に風邪ひかないタイプだから」
「タイプとかっ! そうじゃなくてっ!」
…………黒崎は。僕が、どう言っていいのか解らない間、見てる間に、寝息をたて始めた。
なんか、頭が痛い。いや、風邪のせいじゃなくて。
「…………ああそうだ」
僕は喉が乾いていたんだ。
テーブルにペットボトルがあったから、一つ貰った。胃まで染み込むように身体の中に流れていくのを感じた。スポーツドリンクを飲むのは久しぶりだけど、美味しいと感じた。蓋を閉めると、半分ほど無くなっていた。
布団に包まっている黒崎を横目で確認しつつ……しっかり寝てたから、パジャマを着替える。
それで……どうしよう。
一応僕の布団だから、僕が寝る権利があるはずで、僕がここに寝てしまってもいいとは思うし、一応僕は病人なんだから、寝ても良いよね? 僕が僕の布団に遠慮する必要ないよね?
布団の端っこ持ち上げて、身体を滑り込ませる。
………狭い。
そりゃ、シングルサイズのベッドに男二人はキツい。
僕だって別に小さい方じゃないし、黒崎は僕より小さい方じゃない。
だから、黒崎がもっと端に寄ってくれないから、どうしても、背中がくっついてしまう。黒崎は壁を向いて寝てて、僕は部屋を向いて寝てるから、落ちないようにすると、どうしても黒崎の温度を意識してしまう。
背中を、意識してしまう。
背中から、黒崎の寝息が聞こえてくる……。
何で、黒崎の気配に気付かなかったんだろう。……僕としたことが。
こんな馬鹿デカイ垂れ流しの霊圧に、いくら熱で具合悪かったからって、何で気付けなかったんだ?
やっぱり、黒崎の夢を見てたからだろうか……。
……僕が、黒崎に告白した。
そんな、夢を見たんだ。
夢なんだから、良いよねって思った。
黒崎が、本当に優しい顔で笑うから。
黒崎が僕にそんな顔で笑うなんてあり得ないから、夢だって思ったけど。
僕の夢の中で、黒崎の笑顔が嬉しくて、どうしても僕の気持ちを、伝えたくなってしまって。
夢の中なら。
好きだって………。
そう、言ったら、黒崎がしばらくしてから。
俺もって言いながら、僕の頬に、キスした。
そんな夢を見た。
思い出すだけでも恥ずかしい。なんて夢を見るんだ、僕は。
ごろりと、黒崎が、寝返りをうって、後ろから、僕に腕が回された……!
背中から、暖かい、黒崎の、体温。
黒崎の髪が、首筋に当たってくすぐったかった。
夢、だよね?
了
090708
このあとどうなるんだろうね。
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