石田は俺の死神の力が嫌いなんだって言うけど。
俺は死神の力手に入れたこと、苦しいけど、それなりに満足してる。
出来なかった事が出来るようになった。
二度とあんな………事、嫌だから。俺が力が無くて、大事な人護れないの、嫌だから。
助けられる手段を手に入れたんだ。今更、無くしたくねえ。
でも、石田はその力が好きじゃない。
この力無くしたら、お前俺の事好きになってくれんの?
「それは君の怠慢だろう?」
石田は苦虫噛み潰したような顔で、それでもまだ俺の事見てくれねえ。
俺が死神じゃなくなるのには反対なんだ、こいつも。
俺だって、嫌だ。もっと、強くなりたいって思ってる。
「お前はどうしたいの?」
俺が嫌いって事?
「死神は、でも………ずっと考えてたんだけど、だって、おかしいよ」
おかしいって、さ。
死神と、滅却師が仲良くすんのがおかしいんだって。
でも、俺に言わせりゃ、石田の屁理屈のがおかしい。
石田が、どれだけか死神嫌いだか、知ってるけど。何で嫌いなのかだって知ってるけど。
それを越えて、俺はお前の事包んでやりてえって思うの、おかしい? 立場とか性別とか、そうゆうの全部ひっくるめて、お前の事抱き締めてやりてえって、そう思ってるの、おかしいか?
滅却師が好きなんじゃなくて、お前が好きなんだけど。
そりゃさ、俺なんかにわか死神だし、どっちかって言うと死神よかただの高校生だし。幽霊が見えるってだけで、普通に過ごしてきた人生の方がはるかに長いわけだし。
俺には、石田が背負ってる重さ、わかんねえけど。
大事な人が、居なくなった時の憎しみの対象が、俺は自分に向けられたけど、こいつは死神に向けられたんだ。その前からずっと死神と何百年も因縁あったらしいけど。俺にはこいつが背負わなきゃなんねえ重さ、理解しきれてないと思うけど。
それでも、それも全部、お前の一部だし。
そういうの全部がお前なんだし。それごとお前の事好きなんだけど。
俺、間違ってる?
「僕だって、悩んだ」
「それで、ずっと考えてたのかよ……」
そんな、事………ずっと俺の事……。
って。
俺が、ベッドの上で石田の事思い出して布団かぶって転がって寝付けない時、石田も俺の事、考えてたのか?
俺だけがお前の事考えてたわけじゃなくて、石田も俺の事考えたり悩んだりしてたってことか?
「それってさ、俺の事好きだって事だよな?」
石田は、怪訝そうな顔をした。
「何でそうなるんだ? 死神が嫌いだって言ったんだ」
「そうだろうが。俺が死神だって事で、ずっと俺の事考えてくれてたわけだろ?」
「そりゃ…」
「俺の事好きだから、でも俺が死神で、でも俺と離れたくないから悩んでたわけだろ?」
「……そう、なるのかな…」
それってさ、両想いってのじゃないのか? 同じ時間に、お互いの事考えてたわけなんだから、両想いでいいんじゃねえの?
もしかして、今、チャンス到来か?
「俺と離れたくないって思ったんだ」
「…………まあ」
「つまり、お前は俺が好きなんだ」
俺は、結論を突き付けた。
「………そうなのか?」
だって、どう考えてもそうだろう? 俺がしつこく訪ねなきゃ言うつもりも無かったって事は、結局俺の隣ってポジション気に入ってたって事だし。
ちょっと、無理矢理だけど、押させてもらう。
「お前、知らないのか? そうゆうの、『恋』って言うんだぜ」
「はあ?」
さすがに、石田は変な声を出したけど、いや、ここは引かねえ。引けるはずもない。
言っちまったんだから、後は突き通す以外術はない。
「だって考えてみろよ。お前、俺が気になって、ずっと俺の事ばっか考えてたんだろ? 俺の事無くしたくねえって思ったんだろ? 死神だからって思ったけど、離れたくないから結局今まで言えなかったんじゃねえか」
「……そう、なるのかな?」
「だったら、お前、俺に恋してんだよ、絶対っ!」
いや、理想論だけどさ。
そうだと良いってだけだけど。
「………そう、なんだ?」
これまでの友人としての付き合いから解ってるけど、石田は強い断定に弱い方だ。強い押しに弱い。
意外と優柔不断なところがある。多分、人生経験として人間を見たら泥棒と思え、ぐらいの猜疑心を持ちつつも、結局コイツお坊ちゃん育ちだから、根っこで人を疑えない部分があるからだと思うけど。
当然、石田がどうしても嫌だとか思ってる事には何があってもNOだけど、『どっちでもいい』もしくは『どっちだか解らない』事に、強く言うと、言い返すことも出来ない。
それに気が付いたのは、だいぶ前。初めの頃、ようやく弁当に誘う事ができるようになった頃。
だから、弁当を誘ってNO、じゃ無い時は無理矢理でも引っ張っていく。
虚退治で抜けた授業の所の勉強教えて欲しいってのを、無理矢理俺に教えさせた。んで、石田の家まで無理矢理ついて行った。それなりに仲良くなってから、時間忘れさせるほど無理矢理色々喋って、頼み込んで泊めてもらったりした。
けっこう、押しに弱いんだ。
「ああ、間違いねえな。お前、それは恋の悩みだ」
頼むから、流されてくれよ? 真っ向から否定しないで少し考えてろよ?
どうせ今まで滅却師の修行やら何やらで、友達も居ねえ、初恋もまだな暗い青春送ってきたんだ。石田はそれが当たり前だったんだ。
知らない感情あんのが普通だ。
だったら、俺が教えてやるから。
だから、俺と恋愛しよう。
「僕が君を?」
「ああ。お前は俺が好きだ、ってその結論は解った」
「でも、もしそうだとしたら、君はどうするんだ?」
だろう、な。そう来るとは思ってた。
そりゃ、石田に惚れてる今は大歓迎だけど。もし、じゃなくて現実になるように仕向けてるわけだけど。
万が一俺が、石田に惚れてないと仮定して……も、今本当に惚れてるから、その状態が思いつかねえから、石田以外の仲良い奴から告白されたと仮定すると、戸惑うのはわかる。男女問わず、好きじゃねえ相手から好きだって思われてたら、本当に困る。
でも、相手は石田だ。
「じゃあ、付き合うしかねえんじゃねえ?」
「は?」
「俺もお前と同じ気持ちなんだよ。お前の事好きだって」
一世一代の告白!
言った!
ついに言った!!
好きだって、石田が好きだって、言えた!
「でも、男同士で付き合うのって、非常識じゃないか?」
のに、あっさりとスルーされた。
いや、多分まだ石だの脳ミソに俺の言葉が届いていないだけだと信じよう。
しかも『常識』来たか。
そんな事、残念ながら、とっくに通りすぎた道だ。
「お前が滅却師で俺が死神で、仲良くなれないけど、それでも俺の事嫌いになれねえ、とか、お前の中じゃ常識以上の異常事態だったんだろ、ずっと?」
「そうだけど」
「頭で考えんのが常識なんだよ」
「考えて行動するのが常識だろ?」
「それに気持ちが追い付かねえんだったら、立派な異常事態だって。そんな異常事態なら、男同士だとかの異常事態だってあり得なくねえか?」
「………何だか、混乱してきた」
そりゃ、当然の反応だろう。
いや、無理矢理すぎるの、俺だって解ってるって。
冷静になれば、俺が言ってること支離滅裂だって言われかねないのわかってっけどさ。だから、せっかくだからその混乱に乗っからせてもらうんだけど。
あと一押し、してみていいか?
「だから、お前は俺が好きなんだよ」
それが、結論。
でも、せっかく俺の事、大事な人の仇とおんなじで、憎いはずなのに、それでも離れたくないからって思ってたんだったら……別に、恋だっていいんじゃねえの? そこまで俺に執着してんの、恋愛と同じ感情でもいいと思うんだけど。
「僕は、君が好きなのか?」
「人の事好きになるなんて、理屈じゃねえんだよ。好きなら好きなんだって。頭で考えて出来るもんじゃねえんだ」
石田は、それでも不思議そうな顔をしてたけど。
でも、別にいいんじゃねえ? たまには頭で考えないで、気持ちだけで行動してみりゃ。
「………君が好きなのか、僕は」
「ああ。お前は俺が好きなんだよ。俺もお前と同じ気持ちだった。どうやら俺もお前が好きなんだ。立派に両想いってやつだよ」
「……両想い」
「ああ。だから恋人になるしかねえな」
「………どこか腑に落ちないんだけど」
「どこが?」
「……どこか」
「考えんなって」
考えたら難しい屁理屈ばっか並べ立てて、綺麗事重視型で気持ち圧し殺して来たんだろ?
「何も考え無いで、俺の事見てみろ」
両肩を掴んで、俺の方に向かせた。
ようやく石田が、俺の顔を見た。怪訝そうな顔つきだったけどさ。
でも、ちょっと上目使いに俺の顔をじっと見る石田に、俺が半端なく心拍数上がってんの、気付いてないようで、安心した。そんなかっこ悪いとこ見せたくねえ。
「黒崎………」
「何だよ」
ふと、石田が微笑んだ。
不意討ちだった………。石田は嘲るように笑う事はよくあるけど、素直に笑顔を浮かべる事はあんまりないから……。
俺がこの笑顔、見たくて馬鹿な話ばっかして、笑わせたくて。
お前に笑って欲しくてさ。
「うん……そうかもしれない」
了
090615
策士黒崎の話。
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