仲良くなってだいぶ経つが、未だに俺はコイツの事がイマイチ理解しきれていない。
頭良いくせに、鈍感だし、一人で何でもできるくせに間が抜けてるし、自立してるくせに何だか危なっかしいし。
しかも、思考回路が複雑すぎてついて行けない事が多々ある。
もっと気楽に考えろとか思うし、何度もそう言ってやってるのに、どうやら優秀な脳ミソをわざわざ稼働させたいのだろう。使わない脳細胞は死滅していくらしいから、脳細胞を使いたがって、わざわざ要らないことまで考えて凹んだり、悩んだり、落ち込んだりしてんだろう、勝手に。というか、無駄に。
と思うのは、何やら最近元気が無いからだ。
落ち込んでるって言うか……。
俺がせっかく遊びに来てんのに、無言&溜息。
「石田……?」
「ああ、悪い。どうしたの?」
「いや……」
今だって考え事してて、返事遅れるし……さっきまでしてた俺の話も聞いてなかったんじゃねえの?
やっぱり、なんか変だ。
やっぱり変でいいと思う。
学校で、最近、石田調子悪そうだよなって言ったら、誰も賛同しなかった。
そこそこ仲良くなって、今までクラスで浮きまくってたが、最近じゃ、水色もケイゴも気安く話しかけてるし、他のクラスメイトも時々話しかけてるの見かける。屋上で昼飯に誘っても時々……5回に1回ぐらいはついてくるけど……周囲と馴染んできたものの、石田の変化まで解る奴は居なかった。
だから石田が、周りに悟られないようにしてんだろうけど。
でも、溜め息とか……増えた。
具合が悪いようじゃねえから放って置いたが……もう一ヶ月にもなろうとすると、そろそろ……気になるってか、心配ってか……。
まあ、解る俺も俺なんだけど。
かなり、見てるから。石田の事。
俺が石田に惚れてる、とか、気付いた時には、周囲に引かれるくらい挙動不審になった。
石田となんらかの接触する度に変なオーバーリアクションする自分に悩んだ。
けど、諦めた。
仕方ねえ、惚れてるもんは惚れてる。小柄な美少女でも、柔らかい女性の色気でもなく、身長もたいして変わらない、風が吹けば折れそうな体躯の堅物眼鏡に惚れていると気付いた俺は、さすがに悩んだけど……仕方ねえ。
どうにかして伝えたいと思ってるけど、今のところ現状は悪くないから維持。
いや、気持ち悪いとかドン引きされたらって考えるだけでも落ち込んで、しばらくは生きていけないだろうから。とにかく維持。してるわけだけど、そろそろ次のステップに踏み切る機会が欲しいところで。
「具合、悪いのか?」
「何で?」
「最近溜め息多いし」
「…………別に、元気だよ」
相談に乗ることで、ポイント稼ごうとしてるのは、完璧に下心……だけじゃねえ。
そりゃ一応、心配してんだけど。
せっかくだったら、笑って欲しいとか、惚れてる身としちゃ。
「なんか、あったのか?」
「別に、何でもないよ」
「本当に?」
「本当に何でも無いから」
「でも、何か悩み事とかあんじゃねえの?」
「しつこいなあ」
……っと。
ここから先は侵入禁止ですか。そこがボーダーライン? 踏み越えるなって、さ。
でも俺としても、はいそうですかって、大人しく身を引くわけには行かない。ここで、引き下がれるほど今日の俺の決意は軟くない!
石田は未だに本当に解りにくいけど、正確に、針の穴を突くような慎重さで……細心の注意で事を運べ。
この話題に触れないようにすんのが、築き上げてきた友情に対する理性と誠意なんだろうが。
一度機嫌損ねると、こいつ、案外根に持つタイプだから、本当に気を付けねえと……。
だからっつても、放って置く気なんざ、さらさらねえんだけど。
友情を築くのに、大変な労力を要した。聞くも語るも涙。
石田だぜ? 嫌いな奴→時々は話す→友人→時々家に泊まりに行く友達→信用の置ける親友、にまで登り詰めるまでに、半端無い苦労があった。事は今は割愛。
でも、俺の終着点は親友じゃなくて、恋人なんでそこんとこ宜しく。
男同士での最終終着点であるかに見える『親友』は、クリアした。
言いたいこと言っても、喧嘩しても、何度も話し合ってお互いの妥協点、もっと良い方向を見つける事も出来るようになった。石田の友情を勝ち取ることは出来た。
だったらそろそろ……次のステップに移っても良い頃かと思うんだけど、どう思う?
「心配してんだよ」
「…………」
「悩み事、あんなら言えよ。聞いてやることしか出来ねえかもしんないけど、少しは楽になんじゃねえの?」
「………君に言ったってね」
石田は俺の視線を逃れるように、もともと合わせてなかった視線をさらに遠ざけて、溜息をついた。
…………よしっ!
第一関門クリア。
腹ん中で拳を握る。
悩み事があるって、白状しやがった。
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090613