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最初から
いつも、不思議に思うことがある。 俺の髪に触れる柔らかな感触に導かれて、ゆっくりと意識が浮上してくる。 「……」 「ん、起きた?」 至近距離にある銀時の笑顔を見て、どうやら意識を飛ばしてしまっていた事に気付いた。どのくらいの時間だろうか。身体は倦怠感に蝕まれ、指一本すら動かしたくないから、視線だけを動かし時計を確認した。それほど、時間は経っていないようだ。 「……銀時」 「ん? どした?」 「……だるい」 体中がだるくて動きたくない。貴様は毎度毎度いい加減に加減てものを覚えたらどうだ。確かに、している時分は忘我にあり恍惚に浸るから、手加減を覚えろとこいつに忠告するのを毎度失念してしまう俺にも爪の先程度には非があるかもしれんが、事後俺がまともに動けなくなる程までする必要は無いのではないだろうか。 銀時の身体とは相性がよく、銀時を中に受け入れれば勝手に心地好くなるのだから、銀時も勝手に動いて勝手に果てればいいものを……俺の反応を楽しんでいるのか、銀時のくせに俺が心地好くなる事ばかり気を使っているように思うのは、気のせいだと思いたい。 「あー、悪い。お前があんま気持ち良さそうだから頑張っちゃっただけじゃねえか」 悪いなどと口先ばかりで、悪びれたふりでもすれば、少しは可愛げもあるはずなのだが。 「……痛くはないが、疲れて動けん」 不平をこぼす序でに、口を尖らせてみると、銀時は俺の唇の先端に指先を当てて楽しそうに笑う……やはり、どこか不思議な気分になる。 いつも、不思議に思う。 銀時は銀時なのに、俺が知る銀時とは違い、身体を繋げる行為の最中と、事後、やたらと、甘い顔をする。俺がそれを見ている気まずさは感じさせない。何時もの事なので俺も慣れるべきなのだろうが、違和感……と言うほどではないが、俺が知る銀時が俺に向けるのは表情ではないような気がするため、やはりどことなく不思議に思う。 いつもこの男が好んで口にする甘味よりも甘くて溶けてしまいそうなほどに、甘い顔をしていて…… 「お前は、俺を好きなのか?」 だから、俺がそんな勘違いをしてしまっても仕方がないと思うくらいの、甘い表情は……俺達には似つかわしくない。 「……悪い、ヅラ。言ってる意味がわかんねえ」 「だから、俺に惚れているのかと訊いている」 「いや、言葉の意味が解んねえって意味じゃなくて、お前の脳味噌の中でどんな回路が繋がってそう思ったのかが解んねえって意味なんだけど」 「俺は真面目に聞いているのだが」 「てめえが真面目じゃねえ時なんか知らねえよ。少しは気ぃ抜いて生きてみたら?」 「それをするための才能が不足しているため、俺には多大な労力が必要だが、不真面目に生きるのは貴様の役割だろう?」 「うわ、ひで。俺だってたまには真面目に生きてますって」 「……初耳だ!」 「てめえ、なんかムカつく」 銀時はいつもの口調だ……が、表情は、未だ、甘い。 「で、だ。実際の所はどうなんだ?」 実際、こうも優しくされては、この男が、俺に気があるのではないだろうかと勘違いをしてしまってもおかしくはないはずだ。そう思ってしまうほどの、甘い顔。 ただ、俺の知る銀時は、俺にそんな感情を向けることはないだろう。 俺がそうなのだから、銀時も同じはずだ。 同じものを見て同じ空気を吸って同じ時間を生きてきて、ほとんど同じもので構成されている銀時と俺の相違は、今、第一義の守るべきものだけのはずだ。 もし、この男に惚れたと、その屈辱や敗北があるとすれば、俺はその表情を決して見せたくはない。だから、きっとそれは銀時も同じはずだ。 だから、不思議なんだ。 「で、じゃねえよ。何でお前ん中では、俺がてめえに惚れてなきゃなんねえの?」 「お前が……」 優しいから。 そんな笑顔で微笑まれては、そう勘違いしてしまいそうになる。 「いや、無自覚なのか? 馬鹿みたいに呆けた表情をしていて、俺に惚れているのであれば、いくらお前と言えど、間抜け面と馬鹿にするのも気が引けてな」 「……まじ?」 「ああ、見たければ次回鏡を用意しておく」 「俺、そんな顔してんの?」 「ああ。そのまま溶けて落ちそうだ。確認したければ鏡を見てくるか?」 「いや、たぶん、お前もそんな顔してるから、見なくても解るからいい」 「……は?」 「今度、見せてやろうか? 突っ込まれてるお前がキスねだって来る時とか、終わった後、キスすると嬉しそうにしてんのとか……まあ、次は見せてやるよ」 「は?」 俺が、か? 俺が、この男に、そんな間の抜けた表情を晒していると言うのか? 最中は、気持ちが良くなると、感覚も思考もそればかりになってしまい、表情筋までに意思気を回している余裕はないが……。 確かに、果てた、後に受けるキスは柔らかくて気持ちが良いが…… 「……謹んで遠慮する」 今のこの銀時の間の抜けた、だらしない表情と同じような顔を、俺が、銀時に見せていたと言うのか? それは……なかなか、恥ずべき事態だ。何しろ、今の銀時の表情は、理性がまともに働いている時に見たら思わず吹き出してしまうかもしれないような、そんな顔をしているのだから……。 「お前は?」 「何がだ?」 「ヅラだって、俺に惚れてんじゃねえの?」 「……はあ?」 何でそうなるんだ? どこをどうやってお前の中でその結論が出たのか是非とも知りたいところだ。 俺は好きか嫌いかで、銀時を判断したことはない。俺にとっての銀時は、唯一銀時として在るものだ。 昔から、俺達が互いに認識した時から、互いの価値を改めたことは一度もないはずだ。 「悪いが、お前が言いたいことが理解できん」 「いや、だって、そうだろ? 男なのに、ケツの穴に突っ込まれて、気持ち良さそうに啼いちゃって、気持ちいいと俺にしがみついてきたり、イキそうになったらキスしたがったり、もしかしてヅラって、けっこう俺に惚れてんじゃねえ?」 「バカを言え!」 気持ちがいいからに決まっているだろうが! それ以外の理由があるはずがない。 「んじゃ、誰にでもこういうことさせられる?」 「ふざけるな! 貴様以外になど、叩き斬ってるわ」 「だろ? つまり、俺に惚れてんじゃねえの?」 「え?」 目から、鱗が落ちたような気がした。 「………………マジでか?」 「おい、ヅラ?」 鱗が落ちた目で、俺は、驚いて慌てている銀時を見る……すると 「まさか、俺は……」 「ちょ、本気にすんなよ」 「…………やばいぞ、ドキドキしてきた」 「お、おい、待てよ! 冗談だって」 「銀時……俺は……」 「お、おい、ヅラ、ちょっ」 確かに、その理屈からすれば、俺は銀時に惚れているので、間違いはないのだろう。 俺にとって銀時が特別な相手だという事は、否定しない。血の繋がりなどなくとも、同じもので構成された魂を共有できる相手と認識している。俺にとって銀時は特別な存在だ。 間違いないのかもしれない……いや、間違いない。 俺は……銀時を見つめる。 「……俺は、やはりお前を銀時としか思えん」 やはり、銀時は、銀時だ。 身体の相性もいいのは昔からだが、貞操を誓うような間柄でもない。もともと戦乱の中にあった時分、欲の処理をするために身近な存在は互いに易かっただけだ。再びこの町で再会し、その関係も戻った。欲が高じると、こうして身体を繋げることは昔から頻繁にあるが……俺達の関係には何の縛りもない。 それで、何の問題もない。これから何かがあれば、銀時が変わってしまったらこの関係も変化する可能性はあるが……きっと俺は変わらない。銀時が銀時である限り俺は俺のままだ。 銀時もそうである事を、何の根拠もなく俺は確信している。 「焦った……驚かせんじゃねえよ!」 「馬鹿め。何年の付き合いだと思っている。今更、お前への価値が変化するものか」 今更……だ。今更、俺達に、何が変わるわけでもあるまい。 「もしお前に惚れるならば、今更すぎる。もっと前でも、いくらでもきっかけはあったはずだ」 子供の頃、二人で悪戯をしていた頃、ふざけて他愛のない事で笑い転げていた頃。 戦いの中に身を投じていた頃、互いの背を守り、互いの魂を預け、視界も感覚も意識も共有し、修羅となっていた頃。 二度と会うことはないと思い、この空のどこかで笑っていることを願い、信じ、そして、この街で、再会した時。 立場が変われど、銀時も俺も何も変わらないことを知り、再び、昔と同じように、身体を繋げるようになった時……。 いくらでも、機会も動機もあったはずだ。 それでも俺達は……どんな時でも、ずっと、幼い頃から、俺にとって、銀時は銀時のままだ。 「……………………」 「銀時?」 「ったく……驚かせやがって。どうしようかと思ったじゃねえか!」 「そうか。もし、俺が今更お前に惚れたら、お前はどうしたんだ?」 「だから! どうしようかと思ったの!」 「………俺も、だ」 「……ヅラ?」 もし、俺がお前に恋心を抱いているとしたら……逆に、銀時が俺に、そう、思って少しだけ、その状態を考えてしまった。 「今、色々と考えてみたが、お前が何を思ったところで、俺がお前に惚れたところで、どうにも銀時に対する俺の価値は変わらんと思ってな」 「…………まあ、そりゃ、お互い様ってやつだけど」 ほら。 お前も、同じように考えているのが嬉しい。俺達の共通点がまた増えた。 俺達は身体も顔も性格も別の存在だが、きっと俺達は俺達という存在なんだと、お前とそう実感できることが、嬉しい。 「ったく、焦らせんじゃねえよ」 怒った顔をしながら……銀時は怒ったふりをしながら、俺の両手を握り布団に押しつけ、そのまま俺の上にのし上がってくる。今まで甘く優しい表情を浮かべていた銀時の顔は、その顔のまま熱っぽい色が含まれる。 身動きが取れないこの状況は、少しだけ怖くて、何をされるのだろうかと期待し落ち着かなくなる……疲労し動けなくなる程は勘弁してもらいたいが、どうやら俺は、こうやって銀時から行為を受ける事は嫌いじゃない……好き。気持ちがいいから。他の相手など、考えるだけで虫唾が走る。銀時とは、気持ちがいい。この男と魂を共有できると思うからか、だから、こうやって身体を繋げる行為を、処理という名目ではあるが、どうしても無為なものとは思えない。 俺に体重を書けるように、俺がお前に閉じ込められるように……そうして、銀時は俺と唇を重ねる。 こうやって拘束されて動けず、呼吸ができないほどのキスを受けるのは、怖くて苦しいけれど……どこか楽しい、が。 「銀時? もしかしてする気か?」 銀時からの口づけは、ふざけているようでも甘えているようでもなく、もっと熱のこもったものだった。 「ああ、驚かせたから、お仕置き」 「ふざけたことをぬかすな。俺はもう疲れた」 「どっちにしろ中洗わなきゃ気持ち悪くて寝れねえだろうが。どうせ風呂行くなら、連れてって洗ってやるから、もっかいやらせて」 「どんな理屈だ。あれだけしておいて、まだ足りんのか?」 「足んねえよ、全然。もっと、欲しい」 さすがに疲れたから勘弁してくれ。そう、言いたいのに……銀時の淡い色をした熱い瞳は、俺の身体の中に鎮火したはずの熱を簡単に再燃させる。 「……仕方のない奴」 「別に、そんなの元々だろうが」 この男に求められると……悪い気はしない。もっと、溺れたいと、そう思ってしまうのは、お前が銀時だからなのだろうか。 「ああ……昔からお前は、仕方がない奴だ」 銀時と俺の身体の相性は、いい。こうやって身体に触れられると皮膚の下に熱が生まれる。だから、だ。 「……んっ……、ぅ」 口付けを受けたまま、銀時は俺の脚を広げる。先ほどの行為で潤んだ内側に、ゆっくり……焦らすようにゆっくり、熱くなった銀時が、俺の中に、入ってくる……。 俺の身体は、内部は、馴染んだこの男の専用の形になってしまったかのように、銀時を受け入れる。 俺達の魂の形は、その歯車は奇妙なほど合致する。それと同じように俺の身体は銀時がうまく嵌る。 「っあ……んっあ……あ、ああ」 徐々に速さを増し、銀時の腰が俺に打ち付けられ、俺は内側で触れ合う熱に意識を委ねる。 俺が、銀時に惚れているなど……銀時が俺を好きだなんて……楽しい冗談はこの行為を盛り上げるための媒体にはなった。 なにしろ今更、俺達の間に恋心など、必要はない。そんな重いものは、進むべき前が見えている俺の歩みの邪魔になるだけで、恋などの自分の感情に束縛されたら動けなくなってしまう。 銀時も不要なことに心を煩わせる必要などない。 ただ、お前が……銀時とこうして居るのは心地が良い。それだけが解っていれば、他は不要だ。 俺達は……。 子供の頃、隣に在った。 戦いの中では背に在った。 今は、お前と、こうして正面から抱き合える。 「……ヅラ」 ふと、動きを止めた銀時が、俺を見た。 熱を持った自分の身体は、不意に中断された感覚に不満を覚え、知らずうちに自分から銀時に腰を押し付けてしまっていた……銀時は、笑った。 浅ましさを覚えてもいいはずの俺に、銀時は嘲笑ではなく……甘い、とろけるような表情をしていた。今だけは優しくて、俺を包むような、そんな顔をして、俺を見ている……。 「……ぎん、とき?」 声をかけると、ようやく俺を見ていた事に気が付いたようで、銀時らしくもない甘い笑顔を俺に向ける……。 「いや……やっぱお前、俺に惚れてんじゃねえ?」 そんなことを言われる。つまり、俺も……今、この男と同じような顔をしているのだろうか。 こうやって、銀時と一つにと……益のない行為でしかない。身体は晴れる。銀時とであれば、双方向のもので、わだかまりも罪悪感も損失もない。それだけだ。この男である必要がどれだけあるのだろうかと……でもきっと俺の心が求めている、それは否定しない。 銀時も、俺である必要はないはずだ。だが、俺を求める。 こうしている時は、俺は、もしかしたら銀時に惚れているのかもしれないと、漠然とそう思った。 きっとそう想っていた方が、この無益な行為が少しは有意義なものに感じられそうだ。 師の元で銀時と出会ったあの時から、銀時への価値は変化をしていない。これからもきっと変わることはないだろう。 「銀時……お前こそ、俺に惚れていると……そう、白状したら、どうだ?」 だから、もし俺が銀時に惚れているとすれば、銀時が俺へ恋を抱いているとすれば、出会ったその時からだ。 了 5,700 20140204 |