第三者
俺と銀時が恋仲になってそろそろ半年が経とうとしている。 あまりにも身近に居る銀時に、そういった感情を持っていたのは、一体いつからなのかは最早わからない。気が付いたらこの感情を持て余すようになっていた。普段は意識しないのに、ふとした時に銀時と二人でいると胸が高鳴るような感覚が最初の頃は何だか解らなかったが、俺はいつの頃からか、俺はこの男を独占したいと思うようになってきていた。 見つめると、意思が通じ合うようなそんな気がして、俺は自らの恋心を自覚した。 俺が銀時に惚れた事に気づいたが、銀時が俺に惚れていない事の方が不思議だった。ずっと同じように育ってきていて、同じ遊びをして同じ空気を吸って生きてきた。俺と同じ気持ちじゃないのは、とても不思議な気がしたんだ。 勿論こんな自分勝手な感情は、押し付けるわけには行かない。同じ環境で育ってきた。同じ製造方法で今がある俺達が、同じ成分で出来ているような気がしていたとしても、俺と銀時は別の個体だ。 だから、俺は、銀時に想いを伝えた。俺が感じていることがそのまま銀時の感情ではないのだし、思っているだけで伝わるようなものでもない。 俺が銀時を好きだといった。 銀時もその感情に同意し、俺たちの感情の方向や色や形が共通していることを確認し、 そして今に至る。 仲は良いと思う。 喧嘩もするが、それは幼い頃からのことで今に始まった事ではないし、仲直りらしい仲直りはしなくても、どうせ放っておいても寝て目覚めれば元に戻っている。 恋人という関係を明確化させてから、一ヵ月後に、唇を重ねた。その二ヵ月後に身体も重ねた。 俺達は、きっと良好な関係を築いていると思う。 だから、いまいち解せないことがある。 銀時が、俺との関係を高杉に言いたくない理由は何かあるだろうか。俺と銀時と高杉と仲が良かったのだし、嘘をついているわけではないが、隠し事というのもこういった事に関してはどうにも居心地が悪いような気がする。 俺ははっきりと高杉に伝えるべきだと思っているのだが、銀時はこの件に関してだけは頑として頭を縦に振らない。 銀時のことだから、照れ臭いという理由がたぶん第一だろうが。 だが、この隠蔽は過剰じゃないのだろうか……。 隠すなら隠すでそれでも構わないが、それにしたって、ここまでする必要はないと思う。 別に俺が銀時の部屋に居ても、なんの不思議もないはずだ。何か気にかかる点があれば友人として訪ねてきたと言い訳で終わるはずだ。むしろ言い訳をしている方がおかしい。 高杉が訪ねてきたからと言って、何故俺がわざわざこんなカビ臭い押し入れにしまわれているのだろうか? 解せない。 高杉と銀時が世間話をしている。俺だってその場にいて、なんの不都合があるんだ? しかも昨日、夕飯時にあった話題だ。俺も混ぜろ! 俺も見たんだ! と、言いたいが、銀時に押し入れに突っ込まれて、この状態でどんな登場をすればいいんだ? 銀時とかくれんぼをしていたら忘れられましたとかか? それに……多少、着衣の乱れはあるのも気にかかる。そもそも、帯はどこだ? ともかくの問題は、何故銀時はこうも頑なに俺との仲を隠そうとするのだろうか……。もし高杉にこのことを伝えていれば、俺の着衣の乱れがあった所で、納得できるだろう? 高杉に言ってしまえば俺が押し入れに押し込まれる必要はないはずなんだ。 なぜだ? 考えてみるが、ろくな結論にはならない。 俺は、高杉が嫌いだ。 ちびっこのクセに偉そうな態度など、本当に鼻につく。俺も高杉が嫌いだし、そう主張すると高杉も俺が大嫌いだと言った。昔の話ではない。昔からだ、今も継続中だ。 つまり犬猿だ。それでも何故だかよくつるむ。これは完璧な腐れ縁だ。いっそ腐朽してしまえばいいのに。 昔はまだ俺の後をついてきたり、可愛げのあるクソガキだったが、急になにを思ったのか、勉強やら剣の修行やらに精を出し始め、鬱陶しことこの上ない。 銀時はああ見えて意外と気を使う奴だから、あれだろうか。高杉が俺に対しての愚痴を言って、共感しているふりでもしているのだろうか。 そうであれば、俺の悪口を二人で言い合っていて、それで銀時が俺と付き合って居るだなんて、銀時の事だから口が避けても言えないだろう。 そうか。 銀時は高杉に合わせて俺を貶しているのか。そう思うと、なかなかに腹が立つが、いい機会だ。陰口の内容を吟味してやろう。 カビ臭い押し入れの中で、なんとか体勢を整え、安定して座れる場所を見つけた。麩一枚など、会話は筒抜けだ。 馬鹿な話も終わり、話題は変わり、高杉が何か溜息をついた。 少し神経質そうな空気が漂ってきている……これは、もしや、そろそろ来るのか? いつでも聞く用意はできている。いくらでも思う存分俺の悪口を話すといい! ……なんか、俺、スパイみたいじゃないか? 今、ちょっと楽しくなってきた。よし、聞いてやろう、高杉が何を考えているのか。 「俺は、やっぱり好きなんだ……」 「いや、ちょっと待てって! 高杉、いいから落ち着け」 「やっぱ抑えらんねえよ、気持ち」 ……って、ちょっと待てっ! 何の話題だ!? 好きだって、銀時をか!? もしかして銀時の野郎、俺と付き合いながらも高杉ともいい感じになりつつあるとかか!? それは許さん! 俺が断固拒否する! 高杉とは互いにこんなにも嫌いなんだ。きっと同族嫌悪と言うやつだろう。剣の腕も、書物を読んだ量もほとんど変わらない。能力はだいたいにおいて互角だ。目の上のたんこぶというか、腐れ縁という足枷というか。高杉が本当に邪魔だと思うのは、高杉が俺と同じようなタイプだからだろう。性格もそこはかとなく似ている部分もある。 だから、俺がこんなに銀時に惚れているんだ。 高杉だって、銀時に惚れないはずがない! 今まで気にしなかったが、そうか。銀時と両想いになった事に浮かれて、ライバルの出現などという障害をまったく想定していなかった……これは、俺の落ち度だ。 高杉め。俺から銀時を奪う気か? どこまで俺の邪魔になる気だ! 「もう限界。うっかり襲っちまいそう……」 「いや、頼むから我慢しろ。うっかり襲って、んなことしたらどうなるか解ってんだろ? お前だって返り討ちに会いたくねえだろ?」 しかも、お前、ちびっこのクセに銀時を襲う気か? 生意気な。俺だってちょめちょめの時は突っ込まれる方に甘んじているというのに。 しかも高杉と俺とでも、俺の方が断絶男らしくて、もし俺と高杉で肉体的な関係を持つならば、絶対に俺の全プライドにかけて高杉に男役はやらせんと思っているのに。俺の銀時を襲うだと? 貴様など突っ込まれて喘いでいるぐらいがお似合いなのに、自分から襲う気か? 勘違いも甚だしい。 「……やっぱ、嫌われるかな」 「当然じゃね」 そうだ。 俺と銀時とこんなにもラブラブなんだ。 貴様など俺達の隙間に入る余地などない。隙間など作ってやる気もないがな。覚悟しろ銀時。 そろそろ出て行く頃だろうか。 今出ていけば、俺がここで全てを聞いていたことの証明で、全てが終着する。 今までお前も銀時を好きだったとしても、遅かったな。俺が先に手を出した。こういった事に時間は関係ないかもしれないが、関係なくさせるものか。銀時は俺のだ。 今、ここから出て行って、どうしてくれよう。 銀時も銀時だ。高杉に俺たちのことを伝えないと思ったら、こんなことを隠していただなんて! こういった問題は、多少の弁解ぐらいあっても然るべきではないのだろうか。 何を言っていいのかもわからないし、とりあえず銀時を蹴ることだけは決意して、俺は飛び出そうと麩に手をかけた。 「でも、ずっと好きなんだ。ガキの頃からずっと」 「いや、でもいつかアイツも解ってくれるって。俺もできる限り協力すっから」 ん? アイツ? ……って、もしや銀時じゃないのか? 「だって、てめえ、協力するっつって、邪魔してねえか? もう五年も我慢しろって言ってるだけじゃねえか」 「んなことねえよ。時々ちゃんとアイツが誰を好きか探り入れたりしてるんだって」 「あいつに認められるようにってお前の作戦だって、散々頑張ったけど結局アイツは俺を見ないじゃねえか」 「んなことねえって。もう一踏ん張りだって」 「銀時……俺は、本当に、わけわかんなくなるぐらい、ヅラに惚れてんだ……」 ん、俺? 了 20130526 |