初めて見た時に、女神様かと思った 17
俺は土方と唇を合わせ、舌を絡め合っていた。 唾液を混ぜるように、互いの唇を合わせ、深く吸う。 ……くらくらする。 不思議と心地の良い酩酊感に意識が漂う。 口の端に伝う唾液すら厭わず、より深く口を合わせるために、土方の首に腕を回した。 土方の腕が俺の背を支え、被さるようにして、噛みつかれる。 何を……している? 俺は今何をしているんだろうか。 自分が自分であるという自覚すらなくなってしまうような、覚束無い心地よさは、理性を少しずつ溶かしていく。 ゆっくりと離れた土方の唇は赤く充血し、濡れて艶めいていた。呼吸が整わない。息が上がる。 俺は、ぼんやりと土方の顔を、見た。 土方が、俺だけを見ていた……土方の瞳に、俺が、俺だけが写っているこんな近い距離で、この男の視界に俺がいる。 妙な気分だ。でも、悪くない。 「脚、触られたんだっけ?」 土方が着物の上から俺の脚を触った。 ぞくりと、した。 「っ……土方?」 「直に触られたの?」 思い出したくも無いが……着物を捲られ、男の手が俺の肌を撫でた……ごつごつとした男の荒い手が、俺の足に触れた。 「……ああ」 「どこを、どうやって?」 土方が着物の併せから、手を滑り込ませた。土方の手が俺の肌に直に触れる……不思議と、厭ではなかった。この男の手の平の温度が、気に入っているからだろうか、だから嫌悪感が出ないのだろうか。刀を握る手は、ごつごつとしているのに。 触られた部分に熱を残すような、そんな触り方で、土方は俺の脚を撫でる……あの時の感覚が上書きされるような……払拭される、ような……そんな感じがした。 「……ぁ……くすぐったい……土方」 止めようと、土方の手を押さえようとしたが、もう片方の手で手首を押さえられた。 「俺に捕まってろよ」 背を抱き寄せられ、仕方なく、俺は言われた通りに再び土方の首に腕を回す。 土方の手で脚を、撫でられる度に、触られた部分の皮膚が緩くなるような気がした。 唇が降ってくる。 唇だけでなく、頬や首筋に、土方の唇が落とされ、その部分から熱が芯に伝わって行く……。 「……あ……ぁ、ん」 内股を撫でられ、その手がくすぐったいような、それでいて不思議と離されたくなく、知らずうちに座りを崩している。土方の手が触れやすいように……。 何を、している? 俺は……俺は、俺だというの自覚が無くなっているのだろうか。俺は誰だ? そしてこの男は誰だ? 背を支えられながら、俺は畳に倒される。 その上に覆い被さるように、土方が鎖骨からその下の方へと舌を這わせている……。 着物を、帯を解かず、そのまま袷を開かれ、胸を口に含まれた。ぬるりとした、感触が皮膚の上を這う。それなのに……。 「やっ……はっ……あ」 先を舌で転がすように舐められ、じくじくと身体中に疼きが広がる。 撫でられていた内股も、徐々に、上の方へと上がり…… 触って、欲しくて…… 知らず、腰が動いていた。 「………土方……っ」 身体に熱がこもる。熱くなって膨張しているのに、放出できるまでの刺激が与えられず、もどかしい。 自分が何を求めているかだなんて、自覚したくない。どうして欲しいかだなんて、言いたくない……。 「土方……触って」 それでも、我慢などできず、土方の手を取り、自分のに導く。 もう、そこが固くなっていることは、わかっていた。熱を持って、上を向いてしまっている。男に、触られたというのに……俺は、気持ちいいと、感じてしまっている。 自分が、みっともない事をしている事の自覚は、もう薄くしか残っていない。熱に浮かされ、苦しく……もっと、その手が熱を与えてくれるのを望む気持ちの方が強くなっていた。 「触って欲しいの?」 下着の上から、俺の形を確かめるようにして、触る。 「あ……あっ…」 「なあ、触っていいの、アンタの」 意地の悪い言い方が気に入らなかったが、それ以上に……気になった。俺は俺を誰かわかっているつもりで、そしてこの男も誰か知っている。 土方も? ちゃんと俺だと自覚して、それでこんなことをしているのだろうか。 「……アンタじゃない」 「触って欲しい、桂?」 そうか。知っているのか。 お前は、俺がちゃんと見えていて、それでも俺に触れたいと、そう思っているんだ。 それが……苦しいと、思った。苦しくて……でも、満ち足りた気持ちを覚えていた。 だから、俺は与えられる熱を望んだ。もっと、この男に熱を与えられたいと、願った。 「……触って、欲しい」 お前に……土方に。 俺は、口に、出した。 こんな、事を……俺は……自ら、望んだ。 土方に触れて欲しいと、俺は望んだ。 → 20121201 |