僕は君に会うために生まれてきたんだ 02
熱くて、喉が焦げ付くように乾いて、堪らなくなって、痛みに目を覚まして、気が付いた。 ここが、天国でも地獄でもなくて、両目開いて天井を見上げてる床で寝てる俺が居るって事に、気が付いた。 伴った身体中の痛みは現実だったから。 目、覚めたんだ……。 目、治ったみてえだ。右目だけ視界が白いけど、痛みはもう殆どない。よかった。 斬られた腹は痛いなんてもんじゃなくて、熱くて、身体中が痺れるくらい痛くて……だから、俺は生きてる。生きてた、良かった。 手を伸ばそうとして。気が付いた。 動かない手を見ると、隣でヅラが、俺の手握ってた。 ヅラが、いた。 握り返そうとして、手に力が、入らなかったけど、指先は僅かに動いたと思う。 俺が目を開けると、じっと見つめてる目があった。 ずっと、お前ここに居たのかよ。もしかして、俺が起きるまでここに居たの? 目が覚めるまでずっと居るつもりだったの? 今、何時だ? あれからどんだけ時間が経ったんだろう。 ヅラは、俺の顔をじっと見てた。 まだ片目の世界は白濁してたけど、だいぶいい。お前の顔が見れる。お前の綺麗な顔がちゃんと見れた。 ヅラは、口を開きかけて、俺の顔を見ると、痛々しそうな曖昧な表情で、口を真一文字に引き締めた。 ああ。そっか。約束、したんだよな。 俺が起きるまで待っててくれたんだ。 ちゃんとまだ、約束の夜かな? 朝になってりゃ俺が約束破ったことになっちまう。 話があるって、それだよな? お前、本当にこんな時だって約束破らねえのな。だから、ヅラなんだけど。 「銀時……?」 「……」 ヅラを呼ぼうとして口が、動いただけだった事に俺が驚いた。 喋ろうとして、声が出なかった。 喉が焼けついてるように、声が出なかった。 「銀時、水は?」 喉が痛いんだって、身体が熱くて、冷ましたいから水……って声が出なかった。 自分の呼吸が荒い。空気通る喉の穴は無事だったけど。喉が痛いんだ。口の中もからからで張り付いてて痛い。 俺の様子見て、ヅラは近くにあった竹筒から、水を口に含んで、口移しで俺に水を与えてくれた。 口の中に、水が流れ込む……水は喉までじわりと広がった。 もう二、三度、そんな事繰り返す。俺は焼けついた喉を治めるために、竹筒奪って飲み干したい欲求に駆られたが、何とか伸ばした手はヅラに握られた。 どうせ、起き上がって竹筒奪って水飲みこめるほどの元気なんか残っちゃなかったけど……喉、乾いた。 「腹に穴が空いてるんだ。あまり飲ませられん」 「………」 じゃあ、もう少しくれよ。 まだ、喉が張り付く。口の中が全部乾いてる。そんな気がする。 「仕方ないな」 苦笑しながら、ヅラは、また水を一口……俺に、唇を合わせて……。 初めて、ヅラとのキスは、こんな色気のない状態でだなんて、泣けてくる。 合わせた唇は、水と血の味がした。 色気のない。 本当はさ、お前と俺と、感情が拮抗して、同じ温度になって……そうしたらお前とキスしたかったけど。 ずっとそばに居てさ、気持ちや意識共有してさ、でも同じ温度なのかは解らなかったから、それが不安で言ったこと無かったけど。 滅茶苦茶に強いお前の背中守れるくらいには俺もちゃんと強くなったと思う。俺はお前の近くが良かったから、お前の隣って場所を誰にも譲りたくなかったから、お前と並べる高さに居たかったから、俺は強くなったと思う。 お前の事、俺さ……。 言いたかったけど、俺はこのザマ。 情けなくて涙出そ。 「お前を殴ろうかと思っていたが……今はやめておく」 「……」 それは助かる。 「治ったら、殴らせろ」 「………」 遠慮しますって言いたいけど、今回は仕方ねえな。 俺の手がぎゅって握られた。身体中は熱くて燃えそうに痛いのに、指先は冷えてたから、いつも暖かいお前の手が、すごく暖かくて気持ち良かった。 「今殴って死なれたら、かなわん」 「……」 死なねえよ。お前を守んなきゃなんないし、まだ死ねないって。 てか、死ぬほど殴るつもりだったのかよ。頼むから加減して。手加減て言葉理解して覚えて。 「俺は、お前を守るために在るのに、お前がいなくては、どうして良いのかわからん」 「………」 それ……俺の台詞。 「俺が今、こうやってここに在るのは、お前との対になる為だと思ってる」 「………」 何それ、愛の告白? 「お前の背中を護れるのは俺しか居ない。とすれば、俺が俺として生まれてきたのも、お前と対になれるのが俺だけだったからだと、そう俺は思っている」 「………」 ヅラのくせに、何真面目に意味わかること言ってんだよ? 「だから……お前に死なれたら困るんだ」 「………」 死なねえよ。 死んだら、誰がお前の事守るんだよ。 他の奴に、俺の立ち位置譲ってたまるかよ。 お前の隣も背中も、お前に一番近い場所は俺じゃなけりゃ、嫌なんだって。 好きだとかさ、惚れてるとかさ、そうじゃなくて、全部そう言うのどうだって良くて……ただ俺にはお前なんだって、ただそう思ってる。 好きだって言う言葉にこの感情置き換えるのは、安直すぎだと思う。何かそれじゃ違和感だ。 好きだけど、そんだけじゃ足りないし、全部は一致しない。 「銀時………もう一口、水を飲むか?」 「………」 いいね。 ヅラの口移しで飲んだ水は生ぬるくて…… それよりも、ゆっくりと合わせられた唇の方が……。 死なねえよ。 俺は、今お前の為に在るんだ。 お前が生きてるなら、俺が死ぬわけねえだろ? → 20120423 |