たとえ、世界中のすべてを敵に回しても、僕は君を守る 05
ヅラの白い肌に目を奪われたり、ヅラの笑顔ごときによろめきそうになったり……そんな事なんか、あの頃だって何度もあって、過去に何度も俺は必至で堪えてきたのに。 俺の息がかかって、ヅラがくすぐったそうに身体を震わせたんだ。 ただ、そんだけだけど……それが、俺の限界だった。そんなんで、簡単に許容範囲を超えた。 なんか……限界だって思った。 限界になって、我慢すんの嫌になった。 我慢しててなんか得すんのか? それが何になる? 強い衝動に対しての身勝手な解釈をしてる時点で自暴自棄になってたんだろう。ずっと、我慢してた。我慢しなけりゃって思って、抱え込んでた。結局それが何になったんだ? 今だって、あの時の俺を肯定できる。 ヅラの白い肌にキスした。 唇を素肌に落とした。 するりとした感触に感動した。 昔から痩せてて脂肪なんか何処にも付けてないくせに、筋と筋肉と骨だけで構成されてるはずの身体なのに、肌は柔らかいのが感動だった。 舌でその場所触っても、同じように柔らかいと思った。 血とか汗とかかぎ慣れた日常で、背中怪我してんのに、何日も風呂なんか入ってねえのに、それでもやけに甘い匂いがした気がした。舐めた肌も甘かった。 俺が肌に舌を這わした時の驚いたヅラの声も覚えているけど……止まんなくて。 止めたくなくて、止め方なんかも知らなくて。 後ろから抱き込んだ体勢のまま、ヅラの動き封じた。 怪我に触れないようにだけは気を使ったけど、後ろから抱き込んで、文句言われたって止めらんなくて、なんか言った口を唇で覆って……結局、無理矢理、だった。 無理矢理にしちゃ、ヅラも始めの一瞬だけで、結局ろくな抵抗なんかしなかった。怪我してたってのもあったけど、怪我ぐらいじゃ本気出せば何とかできたはずだ。 ろくに抵抗なんかしなくて、最後は、俺の首に腕回して、抱き締め合って寝てた。 それが、最初。 最初がそんなんで……そんな関係がずるずるとずっと。 「まあ、昔の事だな」 「そーですね」 ヅラの冷めた口調が気にくわない。 昔でいいよ。お前が昔にしたがってんだから、それに異議を唱えるつもりねえって。それが妥当で正当な関係だって俺も賛同してやるよ。大賛成だね、その態度。 そう言う関係排除したって、どうせ俺とヅラの仲はどうやったって変わらないし、俺の中のヅラの位置も、ヅラにとっての俺の大きさも、誰かの介入とかそんな簡単な事じゃどうせ変化しないって。 だったら時制や立場何かに合わせて態度ぐらい変えてやるって。 「では銀時、寝間着を貸してくれ」 「てめ、泊まってく気かよ! 出てけ」 「無茶言うな。この状態では、外に出られん」 ヅラがちらりと窓に視線を投げた。サイレンの音はまだ止まない。赤いランプが窓の外でチカチカ光ってカーテンを染めてた。 まあ……仕方ねえか。この状態で追い出すつもりなんて初めっからないけど、とりあえず口でだけは出て行けって言っとくのが俺達の今の関係だから仕方ねえだろうが。 「この着物も汚れているのだから、布団が汚れるだろう? クリーニング代請求するより俺に寝間着渡した方が早いぞ」 「着物はてめえが汚したんだろうが! 俺の布団まで奪う気かよ! 厚かましいな」 「他に寝床などないだろう? 狭いが我慢してやる」 「何の我慢だ! てめえ寝相悪いから、ソファー行け、ソファー!」 「お客様にそんな非礼をするのか?」 「宿泊料取るぞ」 「……解った。ソファーを借りよう」 客って、いつから客のつもりだよ。俺は一度もお前を客扱いしたことなんかねえってのに。 もう、そんな関係じゃねえんだから、俺達は。同じ布団とかで寝れるわけねえだろ? そんな関係じゃねえんだから、いい年の成人男性二人して一つの布団って、どんだけ虚しいんだよ。 タンスから、ヅラが着れそうな服探して投げると、ヅラは何の遠慮もなく、着ていた着物を脱ぎ捨て、俺が投げた服に袖を通した。 まあ、別にそこに誰か友達が居てそうやってても気にならないはずなんだけど…… ヅラだから……俺はなんだか目を逸らす。 男同士だからっても、人間には多少の恥じらいなんかも必要だと思います。いや、俺もヅラの前で着替えるのには抵抗はないけど、ヅラはなんか脱いだら目を逸らさなけりゃ倫理的な問題とか紳士的な恥じらいがあるような気がするのは気のせいでしかないのは解ってるけど! ヅラは今しがた俺が手当した怪我は、手当とともに治ったぐらいの勢いでいつも通りの動きを見せる。 誰もヅラが怪我してるだなんて信じらんないくらい、滑らかな動きとか……少しぐらい痛がれば、少しは可愛げもあるんだろうが……ヅラにそんなもん求めてるつもりはないけど、やっぱ可愛くねえ。 ヅラが帯を締めようとした、時 玄関が何やら騒がしくなった。 どんどん、と立て付けのすぐ悪くなる扉が、これでまた立てつけが悪くなりそうなくらい乱暴に叩かれた。 玄関……また頼んでもいないお客様がいらしたようだ。 外は、騒がしい。 「……銀時」 ヅラが強張った顔で俺を見ていた。 あー…嫌な予感がすんのは、お前もか。 「真選組だ! 桂が逃げ込んだって情報だ! 開けろ」 深夜にはた迷惑な怒鳴り声がうちの玄関から聞こえた。 ……予想通りって言うか……。 やっぱりか。 → 20120105 |