君に会えて良かった (中編)
ヅラは俺のことを見ようとしない。いつも、相手の目をガン見しながらじゃねえと喋れないんじゃないのかってくらい、話す時は視線合わせて来んのに、今日はまだ一度も俺の顔を見てもらってない気がする。 何があった? いきなり似合わねえ話なんかして、お前に何があった? きっとヅラの事だから、何でもないって言うんだろう。んで、俺も、ヅラは何でもないって納得しなきゃいけないんだろう。でも、何かあったんだ。そんくらいは解るけど……。 「……別に。ただ、思い出しただけだ」 「……そっか」 思い出しただけだなんて……そんだけじゃねえことぐらい、俺にだって解ってる。なんかあった事ぐらい理解してやってる。 そんくらい、お前の事知ってる。 んで俺が心配してんのもどうせヅラは解ってんだろう。だからこそ言いたくないんだろうけど。 でもさ、やっぱお前と感傷なんか、相容れないもんだろ? 一人で思い出すことあっても、絶対他人に悟らせるような真似しねえ。お前は常に前だけ向いた視線を自分にも強要して、周囲にもそれを確認させている。ヅラは前しか見えてない奴だって思い込ませるのには、成功してる。だけどさ……。 ……わざと、何でそんな話題? 「なあ……こっち来いよ」 そっちじゃなくてさ。もっと俺の近くに来れば良いだろ。せっかく今二人きりなんだし。 どうせ俺に会いたかったから来たんだろ? 本当は今、こんな所で茶を飲んでる暇なんか無いほど忙しいんじゃねえの? 忙しいはずなのに、大した用も無いのにここに居るって、なんかあったんだろ? 何かあって、俺に会いたくなったとかじゃねえの? 可愛げのない奴だから、自分から俺に近づこうとかしようとしなかったから、わざわざ手を差し出してやった。そうしなきゃ、帰るまでじっとしてるつもりだっただろ? 「仕方ないから行ってやろう」 そんな可愛くない事言いながら、泣きそうな顔すんなよ。 俺の隣だけど、拳一個分くらい離れて座った。きっとわざとだと思う。もっとこっち来いよって言うのも面倒になって、わざわざ俺がヅラの肩を抱き寄せた。 相変わらず、細い肩。 んで、折れそうな身体。 乗っかってる物の重さなんて、俺には計れない。こんな細い身体で、何で潰れないんだか。 ヅラの肩を抱き寄せて、ヅラの髪に鼻先を埋めて、ヅラの匂い嗅いで、そうやったらなんか落ち着いた。俺が。 ちゃんと夢でもなんでもなくヅラがここに居るって思うとなんか安心した。 ヅラは感情を簡単に表に出すような奴じゃないから、何かあったってことぐらいしか俺にも解んねえけど……何かあったんだったら、こうやってくっつくことでヅラが少しでも安心してくれりゃいいなって思った。何かあったって、きっとあんまり良い事じゃないんだろう。 だからさ、俺がここに居るってことで安心してくれればいいって思ったはずなんだけど。 ヅラが……だって、今痛そうにしてるから。内側、きっと何か痛い。感染したのか伝染したのか俺も痛いような気がして俺が泣きそうだった。だから、ヅラの匂い感じて俺が落ち着いた。 ずっとこうやってたい。 言葉とか、邪魔な気がしたから、このままでいいって思った。 結局何にもわからなくても、ヅラに何か嫌なことがあったとしても俺には解らねえから、それでいい。 ただ、俺がここに居るって、それだけお前が認識しててくれりゃ、それだけでいい。そう思って、さらさらと流れるヅラの髪の毛を指で梳いた。 そんな事やってたら、するりと腕が伸びてきて、俺の身体に巻き付いてくる。 「……ヅラ?」 ヅラが、こんな風に甘えてくるのは久しぶり……なんだろうか。いや、過去に何度あった? 数えると、辛い想い出も付随するから、あんまり思い出したくない。 ヅラが作った作戦が失敗して誰かが死んだ時とか、仲間が壊滅した時とか、ヅラは俺の服を握り締めた。俺もヅラだけは生きてて絶望の中でもそれが嬉しくて、ヅラの身体抱きしめて俺が泣いた。ヅラは俺が泣き止むまでずっと俺のこと抱きしめててくれた。 『銀時……お前がいてよかった』 良かったって。 背中守ってんのがヅラじゃなけりゃ、俺はきっと死んでた。 良かった。 誰が居なくなっても、お前だけは俺のそばに居てくれて。 良い事なんて一つもない状況で、それでもヅラが居て良かったって思って、不謹慎にもきっとそれは嬉し泣きだったんだと思う。 何か、あの時と似てた。二人で船沈めた時、大事な奴が死んで、ヅラが俺の手首握りしめて下を向いた。掴まれた俺の手首は、骨が砕けそうなほどに力を入れられて、ヅラは下を向いてた。きっと、泣いてた。涙は流してなかったかもしれないけど、ヅラが泣いてた。だから俺も覚悟決めた。 このヅラ……あの時と似てる。 こいつ、俺がここにいるのに、誰にも……俺にも頼りませんって姿勢を崩さない奴だから……。 今回は何があった? 無理矢理口を割らせようとしたって言いたくなけりゃ、その場で死んで墓場まで持っていこうとするくらい強情な奴だって俺だって知ってる。 だから、こんな風にヅラから甘えてくるだなんて…… 何があった? 俺の知らない所で何があった? → 20111124
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