幼馴染 後












 想像以上に細い身体にびびった。

 何、この細さ。身長ほとんど変わらないけど、どこに内臓入ってんの? ちゃんと食ってる? いや、食ってんのは知ってる。あまり口を開かずに何度も租借して飲み込むくせに、俺と同じだけの量を同じぐらいの時間で食べきってるイリュージョンを日々行ってることぐらい知ってる。けど……ちゃんと栄養にしろよ。何でこんなに細いの? これで俺から一本取れるんだから…………




 じゃねえっ!


 そうじゃない! 何、抱き締めちゃってんの、俺。

 雰囲気に負けたからって、期待させるような真似したら駄目でしょ。ちゃんと俺は女の子が好きだって、お断りすんだろうが。



「銀時………」

 少し、顔を放して、ヅラが俺の顔を覗き込むようにして……。


 瞳と唇が、濡れてた。唇が、赤かった。



「銀、時………」



 だから、お前のその顔は凶器なんだって!


 どんだけ探しゃ、こんな美女がいるか、って顔を近づけないで下さい。
 好みなんだって!

 顔だけで言ったら、昨日フラれたみっちゃんより、お前の顔の方がタイプなんだって!



 ヅラが……目を、閉じた。

 赤い、唇が………




「……………」


 キス、しろってかっ!?



 いや、ちょっと待て!

 それは勘弁!
 そんな事したら、お前が好きだって肯定してるようなもんだろう?

 違うから。
 お前の事、惚れてるってわけじゃないから! 断じて!



 だから、そんな、触れるか触れないかの至近距離で待機されたって………
 赤い唇から、熱のこもった吐息が肌に触れるように………




 いや、好きだよ。
 ヅラの事好きだよ。いっちゃん大事だと思ってるよ。一番何よりも無くしたくない相手だって、言わないけど、そう思ってるって。


 けど!


 そりゃ、性格破綻してるっつっても、その芯の通ってて真っ直ぐな所も好きだし、世話焼きな所も好きだし………



 え?
 俺、ヅラの事、好きなの?

 いや、だからヅラは男だって。
 まず性別が大問題だから。アンタ、孕めないでしょ。俺、将来子供は男の子と女の子の二人欲しい派だから。


 だから、悪いんだけどくっつかないで下さい。
 俺の心拍数は絶対数えんじゃねえぞ!

「………ヅラ」


 あのさ、悪いんだけど……やっぱり俺…………と、勇気を出して、言うんだ! さあ、言え!






 口を開きかけた時に、ヅラの顔が目に飛び込んできた。まあ、本当綺麗な顔してるよな。見慣れた顔だけど、改めて見たって、綺麗な顔してる。

 俺の事、好きなんだってさ。

 こんな美人顔で、性格はまともじゃないけど、いつも前だけ見てる潔い姿勢とか、頼まれたら断れない所やら、くそ真面目な所も………結局好きなんだろうな。


 比べる対象じゃない事ぐらいわかるけど、今まで惚れた女の子よか、どこをとっても点数高いよ。

 でもさ……男だろうが!







 だからごめんなさい。



 って言おうとした唇がヅラの唇に、触れた。すごく近くにあったから。触れちまった。







 ………何、この柔らかいの。



 一瞬、触れただけなのに、身体中が熱を持った。ヅラの背中に回した手に、力が入った。

 頭の芯が熱くなる。
 視界が狭くなって、お前の事しか見えなくなる。



 もう一度、恐る恐る、重ねてみた……。


 柔らかい。
 ふんわりしてた。
 体温なんて人間たかだか三十六度、高熱出したって四十度ぐらいだってのに、もっと熱い気がした。
 身体全部の意識が口に集中する。
 背中がゾクゾクした。



 理性が、取っ払われる。


 ヅラの唇舐めて、舌を強引に捩じ込んで、歯の隙間押し開けて、ヅラの舌を見つけて、絡ませる。
 俺達の唾液が混じり合う。意識がその中に入る。溶ける。混ざる。



「……んっ」


 ヅラの頭押さえて深く、絡ませて、吸い込んで……



 止まらねえ……

 何これ……ぐらぐらする。脳髄鷲掴みされたようになって、頭の後ろから熱が広がって身体中に走る。


「……ん、っ」

 ヅラの苦しげな声に煽られる。まあ苦しいんだろうな。息継ぎなんかさせてやんねえ。
 しっかり俺の首にしがみついてたヅラの腕は肩にようやく乗ってる程度で……


 ヅラの、膝が折れた。
 重力のまま崩れようとする身体を支えながら、それでも唇は離さなかった。放せなかった。


 覆い被さるようにして、片手で身体支えて、片手でヅラの頭押さえて、飲み込む程の勢いでヅラの口を食った。


 角度を変えて何度も、何度も何度も。


 自分が、滅茶苦茶荒い呼吸してた。何でこんなに興奮してんだか、自分でもよく分かんなかったけど、勃起した股間ヅラに強く押し付けてた。落ち着くどころか、ますます身体熱くなってきやがった。
 どうしてくれんの?








 どんくらい、俺達はキスしてたんだか。

 時間の感覚なんかなかった。


 ヅラがぼんやりとした潤んだ目で俺の事見てた。いつも、射抜かれるような真っ直ぐな鋭い視線なのに……。白い肌が上気して耳までほんのり染まってて、薄く開いたままの濡れた唇から、顎まで唾液が伝ってた。


 何、その顔。お前のその表情、それ、反則じゃね?


「銀、時……」


 いつも潔癖そうな顔して……その表情、お前がガキの頃からお前の顔見てきたけど、そんな表情、初めて見るんだけど。


 顔、赤くして俺の事呼ばないでくれる? そんな顔で俺の事見ないでくれない?



 またキスしたくなるでしょうが。




「銀、時……これは、夢か?」



 ヅラが、俺の肩に頬を埋めた………。







 ………夢で、あってくれ!
 頼むから夢であってくれ!


 いや、ちょっ、何これ?

 俺、どうしちゃってんの? ヅラが男だってよく知ってるでしょうが!

 俺は倒錯した世界に足を踏み入れちゃったんでしょうか?
 それ、困るから! 可愛い奥さんに可愛い子供三人ぐらいで老後は孫達に囲まれて暮らす俺の人生設計は一体どうすりゃいいの?





「銀時……」



 ヅラが、俺の顔見て………顔、赤くしたまま、笑った。


 ヅラの背景に、満開の花が見えた……。


 俺の脳味噌どうかしちゃったの?


「銀時?」


 ちょっと、首をかしげて、俺の事見てさ。




 心拍数………上がった。


 いや、昔からあったけどさ。性別以外はパーフェクトに好みだから、可愛い仕草されたらヤバイんだって!


 みんなの憧れ、高嶺の花のヅラ君は、俺の事好きなんだってさ。


「………………」


 なんか…………。




 まあ、いいか、なんて、思っちゃったりして……。




「何でもねえよ」





 ………いや、良くないだろっ!?























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