「……何しやがるっ!」
理性が戻った俺がようやく取った行動は、ヅラの肩押し退けて、突き放した事だ。
ヅラが、いつもの無表情に近い真っ直ぐな眼差しの曖昧な表情浮かべて、冷たい目で俺を見てた………けど、いや、何ですか、その目は? いかにも俺が悪者のような目で見るのやめてくんない? 俺、悪くないよね? 悪いのそっちだよな? どう考えたって俺悪くないよね?
けど……何なのこの罪悪感!?
「……ヅラ?」
「………」
「……いや、その、さ」
……いや、俺、昨日好きだった女の子にヅラが好きだって言われてフラれて、落ち込んでんので、お前、普通慰めてくれる役目だよな。フラれたばっかでこっちだいぶ落ち込んでるんですが。考えなくたってそんくらいわかるよな、いくらお前だって。
何でそこで、余計なプレッシャー俺にかけてんの?
いや、ぶっちゃけ、失恋のショックよりも今のショックの割合の方が割合はだいぶ高いけどさ。
いや、だってヅラだろ?
今まで友達同士で、可愛いと思う女の子の話題とかに不参加で、参加したって聞いてるだけだし、そりゃ話題に上がったどの女の子よかお前のが可愛い顔してるけど、そんなこたどうせみんな知ってるし、それは抜きにしたって、いつも澄ました顔して、恋愛感情なんかありませんって涼しそうなツラ提げて、今まで何人もの猛者が玉砕したヅラが、男女問わず……男の割合の方が多いけど……ことごとく交際の申し込みをお断りし続けてきたヅラが!?
「だから、いきなり言われたって」
俺の事が好きなんですか?
「お前が気付かなかっただけだ。俺はだいぶ昔からお前に惚れていた。態度でも示していたつもりだが?」
わかるかよっ!?
「え? 気付かない俺がいけないわけ?」
「そう聞こえなかったか?」
もしかして俺、責められちゃってるの?
「いや、俺は男ですが。立派なものついてますから」
「別に、性別など関係ないだろう」
「あるってっ! あるから! あります!」
どこで、誰に説得されてその説がお前の中でまかり通っちゃったわけ? お前、女よか男にばっか愛の告白されたりして、なにかトチ狂ってない? おかしいよな、どう考えたっておかしいよなっ? オスとメスがそろって、ようやく子孫繁栄って先祖の悲願が達成するわけであって。
「別に俺はお前が女だったとしても、好きだったぞ」
「いや、そっちが正解だから! お前か俺が女だったりしたら、それが当たりだから」
「仕方ないだろう、お前に惚れたんだから」
「仕方ないわけあるかよ! もし万が一俺が承知しても、どうすんのっ?」
子孫繁栄のために、男女が結ばれるようにできてんです。そうゆうプログラムがDNAに入ってるわけですよ。オシベとメシベの勉強からやり直してこい。
「俺はどっちでも構わん」
「………」
どっちって、何が? ねえ、何がっ!?
何がどっちでもいいのっ?
血の気が、ザァ―…って、引いてく音が聞こえた気がする。俺、入れるのも入れられんのも勘弁なんですが……。
「銀時」
「………何でしょうか」
「俺とお付き合いして下さい」
「………申し訳ありません」
「……………そうか」
「………」
諦めて、くれたわけ?
諦めて、今まで通りに腐れ縁な幼馴染みで構わない、よな? それでいいよな? それが良いよな?
いや、お前が嫌いになったわけじゃなくて、そりゃヅラが女だったら良いなとか、なんでコイツ女に生まれなかったのかとか、女だったら今頃……とか、生まれてこの方一切微塵も考えなかった、って言い切ることは出来ませんが。
何度かヅラの顔くっつけた女で妄想したことあるけど……いや、まあ、絶対に誰にも秘密だけど……実際こいつの顔が、まあ俺にとって、理想の女性像で……いや、まあヅラはヅラで気心の知れた良い友人で……まあ、友人としちゃ、一番仲良くはしてるけど……変な奴だけど一番ウマが合うし、友人としちゃやっぱお前の事が一番大事だと思ってるし。
だからって、俺はやっぱり女の子が好きなわけなんですよ。男は勘弁なんですよ!
女体の神秘には忠実に反応しますが、男の裸体見りゃ萎えるので、お前とはお付き合いしたって、どうしたって発展なんかしませんから。
「解った」
ヅラは、女みたいな顔に、少しだけ涙溜めて………女じゃなくても、この顔だったらうっかりよろめきそうだけど、そこは心を鬼に。
この顔によろめきそうになったのは、今までに、一度や二度の騒ぎじゃないんだ。うっかり手を出しそうになったのを数える気にもなんないくらいだ。
だから今回も我慢すりゃいいだけだ!
性別越えた次元で、お前の事、お馴染みとして大事だと思ってるから。
だから、俺は倒錯の世界に足を踏み入れるつもりはねえんだよっ!
「悪い、な」
わかってくれんな?
いくらお前が俺好みの顔してたって、実際男なんだから、生産性ないから。そりゃお前のが女だったら俺達お似合いのカップルになってたと思うけど、お前、何を間違ったのか男だし。
悪い、と思ってんだぞ、一応。フラれた経験は何度もあるから、どんだけ辛いかだなんてちゃんと理解してやっから。
俺でよけりゃ、慰めますから。
「外堀から埋めて行く作戦に変更する」
「……は?」
外堀? って、どうゆう事?
「俺がお前のことを好きだと触れ回る。お前に手を出す輩がいなくなるようにな。銀時を狙う奴は俺の敵だと公表せねばなるまい」
「……え?」
「いや、別にお前には迷惑をかけるつもりはない。俺が勝手にお前を好きだと言うだけだ」
「…………え…と…」
「俺はお前が好きだと、誰に知られても恥ずかしくないからな」
「……………………………」
それって、俺まで変な目で見られるって事じゃない?
ヅラがうっかりホモだった。そしてその対象が俺だった、って…………、迷惑かけないって、結局俺もその好奇の視線に晒されるって事だよな。そりゃ、ヅラの外見に騙されて惚れた男が何人も……片手じゃ足りないくらいにいるの知ってっけど、でも実際、普通は普通の人ばっかだって、世間。
もしお付き合いしちゃっても、ヅラに惚れたあの人とかあの人に対して、鼻が高いどころか、恨まれるのも必須。
「……ヤメテクダサイ」
「なら、俺と付き合うか?」
「何でそうなるんだよっ!」
「どちらか、選ぶのはお前だ」
……………何その二択。
俺は、目立つのが、好きじゃない。ヤメテクダサイお願いします。
「銀時」
「………」
ヅラの、左手が伸びてきて、俺の首に回った。
触られた首筋がゾクゾクした。
右手が俺の頬に添えられる。俺は硬直する。
実際、マジで綺麗な顔してるよ。睫毛長いし、鼻筋も通ってて、唇は小さめで赤い。肌も白くて、黒い長い髪がよく似合う。
俺が惚れるのは、いつだって髪が黒く長い、肌の白い美人な女の子だから、つまりヅラは俺の好みであって……。
逆に言えば、ヅラに似た女の子ばっかに惚れてたんだけど。
「銀時」
その俺好みの顔、近づけないでくれませんか?
お前の顔、マジでやばいんだって。
「ヅラ……」
足が……俺の足の間に割って入ってくる。いやいや、俺達、そうゆうオトモダチじゃないでしょ?
拒否しようにも……いや、しよう。しろ!
「銀時……」
ヅラの背中に手を回さないでいられるだけでも、今の俺は理性的だ、まだ。
「………ずっと、お前の事を見ていた」
耳元で言うの無しだから。俺、耳弱いから。多分。きっと。絶対!
………いや、頑張ってくれ、俺の理性。
可愛いのは顔だけだ。コイツの性格は破綻している。考えなくたって苦労すんのは目に見えてる。
その前にヅラは、男だっての。
負けんじゃねえぞ、俺の理性っ!
「お前に、ずっと、こうやって触れたいと思っていたんだ……」
両腕が、俺の首に回って、ヅラの鼻先が俺の肩口に埋められた。呼吸が、熱い。
「……ヅラ」
「こうやって、銀時の体温を感じたいと……」
背中に回された腕に力が込められて、より密着する。
………突き放して、一発顔をにでも張り手食らわせて、馬鹿な事言ってんじゃねえって、そう言うべき事ぐらいは解ってる。
だから、俺の足と足の間に割り込ませたテメエの足、動かすんじゃねえ!
固くなってきてんのバレるだろうが!
「………」
ヅラの背中に、手を回しちまったら、俺の敗けだ。
頑張れ、俺。
ヅラをうっかり抱き返したら敗けだ。
「お前が、俺を好きにならずとも、俺は………」
ヅラが顔を近づける。
綺麗な顔しやがって。
少しだけ頬に赤みが射して、目が潤んでる。そりゃ男だったらこんな顔の女と付き合いたいって思うのは仕方ない事だと思う。破綻した性格やら、付き合い切れないと思う部分もあるけど、俺じゃなきゃコイツと付き合い切れないって思ってたりもするわけで……。
え? 何?
俺もヅラの事好きなの?
いや、好きだよ、友人としちゃ、やっぱ一番近くにいて落ち着く奴だし、惚れた女とか以上に、誰よりもヅラの事を無くしたくないって思ってるわけだし。
「銀時……」
ヅラの少し、震える声で俺の名前を呼ばれた時に、俺の手はヅラの背中に回った………。
そっと、手を添えるぐらいだけど、確かに回した。
→
一気に一話で書けちゃえると思った。
無理だったから、前・後にしようと思った。
むりだったから、前・中・後になったけど。
もうちょっと切りたかった……見直し作業が嫌いなんです。
でもさ、前・中(前)・中(後)・後(1)・後(2)……とか、ありえないよね!?
いや、前・中・後です。
話を書くのは好きですが、見直ししながらの加筆修正が滅茶苦茶嫌いなんです。
しかたねえ。
090118
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