暇を持て余す 





「あ゛ぁ〜―あ―あーあー……」

「鬱 陶 し いッ!!」

 あまりにもやる事がなくて取り敢えず今の自分の心境を口に出してみたらヅラが氷点下の言葉を投げてきた。実際にぶつかったのはヅラの平手だったが。んだよ、ぶつことねえだろうが。

「仕方ねえだろ? 暇なんだから」

 本当に暇。マジで何もやることねえ。自分内最強おかずランキングも出し尽くしたし、流れる雲が何に似てんのか議論することにも飽きた。うっかり目を閉じたらこのまま本格的に寝れそうってくらい、暇。

「ああ、そうだな。こんな時間、どれくらいぶりだろうか」
「………」

 まあ、ずっと忙しかったからなー……。忙しいって心を無くすって書くらしいけど、こうやって自分のこと見つめ直せちゃったりする時間って何すりゃいいんでしょうか。

「なあ、銀時」

 風がさらりと揺れて背中にいるヅラの髪がさらりと舞って俺の目の前を横切った。

「まあ、な」

 本当に、どんくらい久しぶりなんだろうかな。
 となりにヅラがいて、空が青いだなんて色を見て。ガキの頃くらいかな。

 昼寝してた俺の隣にヅラが来たから、なんとなく起きちまって、ヅラも大の字になって寝転んで。美味そうな雲の形を陽が赤い色に染まるまでぼんやりと眺めてた。そんな事してたの、どのくらいぶりだろうな。

「じゃ、暇だから、あっちむいてホイでもしますか?」
「しない。するならウノだろう?」
「お前ウノ好きだよな。やるならなんでもいいわ」
「だが、残念なことに今ここにカードがない」
「だから、あっちむいてホイ。三回勝負で俺が勝ったらヅラのヅラを取る」
「ヅラじゃない、桂だ。じゃない、自毛だ。俺が勝ったら?」
「そん時は潔く俺の負けを認めてやる」
「それだけか?」
「ん。そんだけ」
「やるかボケ!」
「じゃ、睨めっこは?」
「悪いな。もう既に俺の負けだ。ああ銀時の顔は何故こんなにも笑えるのだろうあはははははははは」
「てめ、ぶつよ?」

「………」
「……………暇だ」

「鬱陶しい」
「だってさー」
「無粋な奴だな。せっかくの時間だ。無為と思えば無為で、有為と思えば有為だ」
「心頭滅却的な精神論うぜー」

 でも、まあ。

 気持ちいいな。

 風が吹いて。
 空が青くて、雲が白くて、木々は緑で。

 となりにお前がいて、馬鹿な話してて、こんな時間、ずっと無かった。これからだってあるかどうかなんて解んねえし。
 ずっと、もし、これが続くんならそれがいいって、解ってんだけど……暇ってのは暇だ。やることねえ。

 あ、今の風、気持ちいい。

 空に鳥が飛んでる。あの鳥なんだろう。でかい鳥なんだろうなって、ぼんやりそんなこと思う。


 なんか、それだけでいいんじゃねえの?

 隣に、お前がいるし。
 風は気持ちいいし。空は青いんだし。

 このまま時間止まっちまってもいいのに。


 そう。
 せっかく高邁な精神に到達仕掛けた時に、ヅラの肩がぴくりと動いた。




「……ヅラ?」

「ああ」

 ビンゴ、か。

 どっから仕入れた情報だか、俺達の本陣に奇襲をかけられる。
 信憑性は薄かったが、待ち伏せしてた甲斐はあったようだ。


「うわー、けっこう戦力投入してきてんなー……」

 俺の部隊もヅラの部隊も戦闘には備えちゃいるが、保険かけただけだ。せっかくの休息時間だし、本陣を手薄にするわけにゃ行かねえ。
 奇襲って割には大所帯で来やがって。危ねえなあ、情報無視してたら本陣が潰されるところだった。

「今、俺の部下に報告に向かわせる。俺の部隊も準備はできている。が、高杉の鬼兵隊と戦力を分散させたのは痛かったか」
「しゃあねえ。奇襲っての五分五分だったんだろ?」

「ああ。だが、賭けに出て良かったな。本陣にいる坂本が撤退を指揮するはずだ。本陣の完全撤退までが勝負だな」
「そのようで」

 だけど、俺達がここで止められりゃ、戦況は変わってくるはずだ。敵の主力部隊を投入したわけじゃねえだろうが、この奇襲を潰せりゃ効果はでかいはずだ。

「ったく、面倒くせえなあ」
「今、暇だと嘆いていただろう? 良かったな、お前の望みは叶ったようだ」
「えー、暇がいい。暇なの大好き」
「鬱陶しい。ほら、お前が降りなければ俺が樹から降りれないだろうが。さっさと動け」

「へいへい」


「行くぞ、銀時」

「ああ、気合入れて行きますかね」