「銀時?」
ああ、何だよ。起きたんだ?
寝てりゃいいのに。まだ暗いしさ。
「………」
起きるなよ。寝てろよ。寝てりゃ、睡眠学習になったのに。
まだ寝てていいって。そう言う意味で、薄く空いた目蓋の上にそっと唇を落とす。
さっきから、何度も、顔中に、肩に、手に、首筋に、何度もキスしてて、朝が来て時間が来ないと滅多なことじゃ目が覚めないコイツだって、いくらなんでも気がつくだろうけど……でも、起きんじゃねえ。寝ててくれって。
「銀時? まだ、寝ている時間だろう?」
眠そうな声で、寝かせろってあからさまな表情は無視して、俺はヅラにキスを繰り返す。
寝ている時間だろ? だったら寝てりゃいいじゃねえか。
「どうした?」
どうしたも何もねえよ。こうしたいって、ただそれだけ。俺は俺の勝手にやってるんで、そんなことにいちいち理由求めんじゃねえよ。
目蓋に、額に、鼻筋に、頬に、そっと唇を落とすと、ヅラは滅多に見せないような、ふわりととろける柔らかい笑を唇に載せるから、その唇にもキスをした。
どうもしてませんって、意味で、俺はヅラにキスした。
「銀時、何も言わなければ解らんぞ」
俺の手が届くところに居て、俺のそばに居て、俺がお前を今こうやって独占してるって、ただそれだけが、こんなにも満たされる。
この感情が一体どういうもんなのか、安易な言葉に置き換えたくもねえし、似通った概念を持つ感情が規定の言葉に存在してんのお互い気付いちゃいるけど、好きだって言った事も聞いた事ねえし、その言葉が正しいのか解んない。よく解んねえ。でも、そのままでいいって思ってる。きっとそっちの方がいいんだ、俺達には。
だって、似合わねえだろ?
だから、ヅラの顔に、唇で触れる。今、俺がこうしたいって、何度も、触れる。伝われって。
「……銀時?」
朝になれば、俺は俺だし、ヅラはヅラなんだ。
自分の事確立してるし、間違ってもそんな甘い言葉はヅラの辞書には存在しないし、俺だって言いたくねえ。
でもさ、今なら。
明け方。まだみんな寝てる時間。だって、まだ夢の中にいる、現実と、そんな境目にいるんだ。だから、今ならこうしたっておかしくねえだろ? いつもの俺がこんなことしたら、正気か疑うんじゃねえの、お前のことだから。
ここにお前が居るのが嬉しいって、今お前のぬくもりが何より大事だって、ずっとこのまま朝が来なけりゃいいのにって、俺が下手な言葉でそんな事伝えるより、こうした方がずっと伝わるような気がしたんだ。
伝われって、届けって。
そんなこと思いながら、キスを繰り返した。
「……銀時」
もしかしたら、意識がない方が俺の言いたいこと、俺が思ってる気持ち、素直に受け取ってくれたんじゃないのかなって思ったけど、ヅラは目を覚ましやがって。
でも、こんな時間なら、どうせ半分以上は夢の中で、俺もきっとまだ夢見てるんだって思えば納得できる。
俺も、お前も、あんま器用な方じゃねえから、好きだとかって妙な言葉に違和感覚えるよりも、こみ上げる気持ち、ただ行動に移した方がきっと、伝わる。
寝てたって、目が覚めてたって、きっと伝わる。
言葉とかより、上手にヅラに伝えられるような気がして……
「ああ……そうだな」
ヅラは嬉しそうに笑うと、そっと、白い指先を伸ばして、俺の頬に触れた。
了
20130731
1300
20110630に書いたものを1000文字ほど加筆しました
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