遠く近い
※第452訓(WJ32)を読んで興奮とネタバレを話の中に叩きつけました。コミックス派の方はご注意下さい。






「どうした? 息が上がってるぞ、テンパ夜叉」
「るせ、電波の貴公子も、髪減ってんぞ」
「イメチェンだ」
「よく言うわ」
「少し、軽くなっただろう?」
「……いっそヅラ脱げよ」
「ヅラじゃない、桂だ」

 髪、切られやがって。髪がなくなるだなんて、イメチェンどころじゃなく、てめえのアイデンティティの喪失だろうが!
 最近切る暇なくて腰まで伸びてたヅラの髪が、アンバランスに短くなった三割くらいが肩甲骨のあたりで揺れているのは、俺の責任だ。ヅラがへましたって言い張ったって、それは俺の責任だ。俺がコイツの背中守れなかった。
 俺が居んのに、斬られてんじゃねえよ。

「貴様こそ、白夜叉でなく赤夜叉にでもなる気か?」
「うっせ。洗えば落ちる奴だって」
「その、腕もか?」

「……ああ、洗えば落ちる」

 斬られた腕はまだ血が止まってない。
 骨や筋までにダメージないけど、出血がひどい。痛いより熱を持ってきてていた。服はじわりと赤の染みを広げ、ヅラの手を握ってる俺の手が、血で滑りそうになる。でも、絶対に離せねえ。

「銀時……だいぶ、しんどそうだな」
「てめえのヅラが重いせいだって。脱げ」
「ヅラじゃない自毛だ。しんどければ、荷を捨てればいいだろ?」

 捨てるだって?
 そもそも荷って、何? そんな扱いしていいもんじゃねえ。背負うんじゃなくて抱え込みたいもんだって、そんくらいは知ってんだろ? ふざけてんじゃねえ!

「やなこった。こう見えても、大事にしてるんでね」
「……それは、初耳だ」
「ああ、初めて言ったわ」

 俺は、ヅラの腕を肩に回して、歩く。

 敗戦の色が濃くなって、俺達は退路を守るために仲間を逃がした。俺達が殿を務めた戦で、仲間が逃げ終わったのを確認して、俺達も逃げた。
 逃げた……追っ手は来ないようだ。きっと仲間も助かったに違いない、そう思わないと、やってらんねえ。足取りは重い。一歩々々が地面に沈み込むような気がする。

「なあ、ヅラ?」

「………なんだ」
 荒い呼吸。
 弱くなっていた声に、ヅラの限界は解ってた。

 ヅラのダメージはでかい。出血はねえが、でっかい棍棒みたいな武器で吹っ飛ばされて、刀で防いじゃいたが、それでも体格差が全然違ったんだ。もともとヅラなんて肉をどっかにおいてきちまったような骨と皮でできてる奴だ。吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられた。ヅラの身体が人形みたいに地面でバウンドするのがやたらとコマ送りになって見えていて、目の前が真っ赤になったような気がした。
 俺は、ヅラに向かって走った。俺を阻む敵、空気、風、全部邪魔なもん斬り裂いて、俺はヅラに向かって走った。

『……っ悪、い』
 辛うじてヅラは身体を起こしたけど、背中から地面に叩きつけられて、肺にダメージがあったのか、ろくな呼吸ができないようだった。
『るっせ』
『銀時、逃げろ』
『ああ、そうする』


「銀時……」
「あ?」
「………謝るべきか? 礼を言うべきか?」

「俺は俺の勝手にしてるんだ。てめえだって勝手にしろ」

 俺は勝手にてめえを助けて、勝手に逃げて、勝手にてめえを担いで歩いてるんだ。ヅラのためなんかじゃねえ、全部俺のためだ。


 戦力外になったヅラの腕を握り、俺は立ち上がった。ヅラも苦しそうにしながら、それでも俺に腕を引っ張られて立ち上がった。
 敵の数は開戦時と比べたら大幅に減ってはいたが、それにしたって俺とヅラ、しかもヅラ初開門になんえ上に、俺はヅラを背負ってる。その状態で逃げきれるなんてどう足掻いたって、無謀だった。
 無謀でもなんでも、やるしかねえ。
 俺が、そうしたいんだ。
 俺が、俺とヅラと、二人で、ここから生きて逃げたいんだ。

 走る。
『銀時っ! 逃げろといった』
『逃げてんじゃねえか!』
 てめえが逃げろって言ったんじゃねえか! てめえと、一緒に逃げようとしてんだろ?
『一人で行け!』
『できねえよ!』
『一人で、そんな事も出来んとは、子供か、お前は!』
『悪かったな!』

 握りを逆手に持ち替え、目の前から来る敵を切り裂いた。間合いは近くなっちまうが、限界を超えて身体中が軋んでるが、これならまだ力は入れられる。



「……っ」
 ヅラが、石に足を取られて躓いた。
「おい、ヅラ!」
 ヅラが、転んで、俺は一緒になって地面に転がった。
 情けねえがヅラの体重全部を支えきれるほどの体力が俺に残ってなかった。ヅラなんて、ヅラの被ってるヅラぐらいの軽さしかないと思ってたんだけど、どうやら自分の体重すら支える余裕が無かったみてえだ。共倒れとかごめんだぞ。
 さすがに追っ手の気配はないが、それでもいつ敵が来るか解んねえ。敵陣を抜け、しばらくはそれでも走り続けたけど、人の足だ。まだそれほど離れてねえ。攪乱するように、道じゃねえ森の中を歩いてはいけど、このまま歩いてて、俺達の陣営に戻れんのか?
 戻んなけりゃ、早く、戻って、そうやって気だけは急くが、身体はもう俺の意志ではろくに動いちゃくれなくなってた。




 前から来る敵を斬り裂いて、
『銀時っ!』

 ヅラが、俺を足で突き飛ばした。
『くっ!』
 既のところで、背後から来た敵の攻撃をかわし……切れなかった。俺とヅラと二人まとめて薙ぎ払おうとした刃は、ヅラの髪を斬った。ヅラの髪が宙に舞った。そんで、俺の腕をかすめた……が、痛みは感じたが、手はまだ動いた。まだ、いける。
 ヅラに吹っ飛ばされて、それでも体勢は維持できた。ただ、ヅラの手は離しちまった。俺を足蹴にして、そのまま地面に転がったヅラをめがけて、刀を突き立てる天人から、ヅラは地を転がる事で避けて……
『ヅラ!』
 叫びながら、俺は敵に向かって刀を一閃させた。切れ味の悪くなった刀と、力が入らなくなった腕じゃ、本当だったら敵を半分に切り裂けたはずだったのに、骨で止まった……ヅラは、それを見て立ち上がった。
『銀時、走る、ぞ』
 俺は再びヅラの腕を掴む。ヅラが、俺から逃げらんないようにしないと、俺は逃げらんない。
『走れんのか?』
『走るしかないだろう? 貴様が一人では行けないのなら、俺が死ぬつもりで走ってやるしか、ないだろう?』

『そりゃ、御厚意痛み入ります』

 地面を蹴った。
 腕を斬られた方の手でヅラの腕を掴んで、反対の手で刀を握って、ヅラも何度か足をもつれさせながら、それでも俺達は走って、斬って、走って、走って走って……








 地面に転がったまま、俺はヅラに向かって手を伸ばした。

「ヅラ?」
「……喉、乾いた」

 あ、そ。

「歩狩汗飲みたい……」
「俺も」
「なんか、水分的なものが欲しい」
「俺の唾液か血液か汗ぐらい?」
「要らん……ああ、ここに自動販売機があったらいいのに。歩狩汗があったら五千円でも買うぞ」
「寝言言ってんじゃねえって。そんだけあったらパシリするから。148円のコンビニで買ってきて、残り貰うから」
「一万円持っているが」
「マジでか」
 軽口叩いてたヅラに何とか這いずって近寄ると、ヅラの顔色はただでさえ青白いのに、血の気なんてどこにもなかった。

「ヅラ?」
「……」
 ヅラの頬を叩いたが、ヅラの目は俺を見なかった。呼吸は、まだあった……まだ、だ。まだってだけで、それがいつ止まるのかなんて、俺には解らねえ。
 俺は医者じゃねえから、ヅラがどんだけのダメージ負ってるのかは解らねえが、致命傷じゃなかったかもしんねえが、かなり酷いことぐらいは解ってた。早く陣営に戻って、こいつの事どうにかしなけりゃって、そればっかりに気が急いて、俺はヅラの肩を掴んで揺さぶった。
「ヅラ、おい、ヅラ!?」
「………」

 返事は、してくんなかった。
 寝てるんだろ?

 寝てるんだよな?

 こいつ、奇襲があったとか、夜襲とかそういう命にかかわるような場合じゃなけりゃ、一度寝たら朝起きるって決めた起床時間が来るまで目を覚まさないって事になってるらしいから、ただ、それだけだよな?


 ヅラの身体を持ち上げて、引きずって、俺は木の根元に座った。

 火を起こせねえから、ヅラの身体を抱き抱える。
 いつもは見た目と違って体温高いのに……ヅラの温度が下がってきてて。いつもは指先まで白いくせに、真冬でも暖かい手をしてるヅラの手が、冷たかった。

 俺が、体力戻るのはどのくらい先だろう。
 追っ手が来るかも知んねえ。
 あんまり派手に動いてる場合じゃねえ。俺の腕の血は止まってたけど、途中までは垂れ流しちまったから、それを追って、近くまでは敵が俺達の事を追いかけてきちまうかもしんない。

 ヅラの甲冑外して、俺の甲冑も外して、俺はヅラを抱きしめた。俺の体温、少しでもこいつにって。あんまり勉強好きじゃなかったけど、熱伝導だっけ? 俺はただ、ヅラの身体を抱きしめてた。

 夜のとばりが落ちてくる。
 雪が降るような季節じゃなかったことだけは、本当に安心した。


「……銀時、」
「ああ、起きたか?」
「なんだ、死んでなかったのか」

「勝手に殺すな」

 お前を絶対に死なせないって思ってる俺のヅラを勝手に殺さないでくんねえかな。

「冷えるな」
 暑い時期なのに、体温下げてんじゃねえよ。
「まあ、夜だしな」
「俺はもうとても寒いから、お前は先に帰って布団を暖めておけ」
「ばっかじゃねえの? 寝言は寝て言え」
「……眠い」
「起きろよ」
「寝ろと言ったり起きろと言ったり……」
「起きろって」
「仕方がないだろう、昨日のウノやってて夜更かしをしてしまった」
 してねえだろうが。
「寝かせねえよ」
「楽しいことでもあるのか?」

 楽しい事ねえ。今、この状態で敵に見つかったりしたら、俺もヅラもそこで終わりってこの状態で、どう頑張ったら楽しい事が見つかんだろう。

 俺は、ヅラの事抱きしめる腕に力を込めた。俺の体温がこいつに伝わればいいって。俺だけじゃ、嫌だって。ずっと一緒に育ってきたんだ。同じもの見て同じ空気吸って同じ飯食って、そうやってこいつとガキのころから一緒に居たんだ。これからも、きっとそれが続くって思ってる。
 これからも、そうやって俺達が続いてくって俺は確信してるから俺があるんだ。

 その為だったら、俺は何でもする。

「ヅラ?」
「あ?」

「こういうのは? 俺がお前のこと好きだって言うの、ガキの頃から」

 何だっていい。
 つまらねえことでもいい。何でもいい。
 ヅラが寝ちまうのが怖い。寝たら、もう起きてくんないような気がして、だから、怖いんだ。

「……つまらんな」
「ったく、俺の一世一代の告白とかその扱いかよ」

「知っていたし、お互い様だろう」

 答えなんて初めから期待してなかった。そんなんもともとどうでもいい。
 ヅラがどう思ってたって俺には関係ないし、俺がヅラの事何よりも大事だって思ってたって、ヅラはヅラの信じたままに生きてる。

「ああ、まあ、そうだな」
 それを知ってるか、知んないか、その辺はどうだっていい。
 俺達は基本的に自分が主体として生きてる。同じ色を見て、同じ香りの中で、同じ遊びをして、同じ経験を積んで、俺達はそうやって生きてきた。これからだって、きっとそうなんだ。
 だから、俺がお前のことどう思ってたって、ヅラはどうだっていい。お前が俺をどう思ってたって、俺は気にしちゃいけないって。
 ヅラに、そう言われた。これは、俺達の暗黙裏の黙約のようなもんだ。

 別に、何だってよかったんだ、話題なんて。
 お前がその眼を閉じなけりゃ、何でも良かった。

「……銀時」
 抱きかかえてたヅラの手が、俺の首に回った。
 白くて、細い腕。刀握って、ぼろぼろになって、返り血で汚れてるのに、ヅラは綺麗な白い手をしていた。

 髪を斬られた時に、低い位置で結わいていた結びは解け、不揃いな髪を晒したまま、ヅラの背を覆う。

「……帰ったらそのみっともねえヅラ、整えてやるよ」
「そう言えば、お前に最近、切ってもらってない」

 ヅラの髪、暇だったら俺が着る事が多かった。自分で切る事もあったけど、ヅラは基本的に不器用で、俺の方が手先が器用だった、高杉は面倒がってたし、坂本はヅラよりも器用じゃない。それだけの理由で、俺がヅラの髪を切る事が多かった。

「ヅラのメンテナンス、約束だかんな」

 俺が、そう言って小指出したのに、ヅラは小指を絡めることもしないで、俺の顔を見て笑った。弱弱しく伸ばした手は俺の手を握って、そのまま下した。


 その笑顔。どっちの意味か、わかんねえよ……。


 怖かった。置いていかれそうな気がして、怖かった。

 睡魔に吸い込まれるように眠りに落ちたヅラを見てて、俺はただヅラを抱きしめる事しかできなかった。
 出血はなかったけど、内側にダメージ負ってて、俺がこんな事やってちゃまずいかもしんなかったけど、でも俺はヅラの事抱きしめてた。



 そうじゃなけりゃ、だって、怖くて……………








「おい、起きちょるがか。迎えに来たぜよ」
「……あ?」

 デカい声で目が覚めた。
 目の前に、能天気な天パがあった。

「あ」
「金時とヅラはほんに仲良しじゃき」

 俺が、ヅラの事抱きしめてるとか………!!!

「っ、これは!」
 ヅラの冷えてく体温をどうにかするために、ヅラの甲冑脱がせて、俺も鎧脱いで、なるべく体温伝わるようにして、ヅラのこと抱きしめて寝てた、わけだから……今、その大勢で……。
 って、ちょ、おい! 何でいんの、こいつ、何でここに居るの!?

 しかも坂本の後ろで高杉がすげえ形相で俺を見下ろしてる! いや、晋ちゃん怖いですよ!
「てめえらの部隊の奴らが、俺達に泣きついてきたから、こっちは休みなしでわざわざ迎えに来てやりゃ、こんなとこでグースカ寝てんじゃねえ!」
 ああ、そりゃ、ごもっともですが……だって、ヅラが、って思って、ヅラを見た。

 ヅラは、俺の腕の中で、俺の胸に盛大に涎を零しながら……寝てた。

 息は、確実にある。


 しかも、かなりの間抜け顔で……

「って、違うんだ! これは違うんだって!」
 慌ててヅラを突き飛ばしたら、ヅラはごろごろ転がった。って、すまねえヅラ! 生きてるか? 今ので死んだか?

 一瞬慌てたけども、転がった先でヅラは不機嫌そうな顔で、のそりと起き上がった……生きてた、ようです。

「……なんだ、朝か? ああ、銀時、昨日はすまないな。色々と助かったぞ。礼を言う」
 しかも、どうやらちゃんと覚えてるとか……これって、もしかして拷問か?

「てめえ、起きるな! 死んでろ!」
 頼むから余計なことは言うんじゃねえ! いくらヅラだって、そのへんの空気ぐらいは読めるだろ?

「死んでろと言われたって、一晩寝たらだいぶ回復したしなあ」
 でっかい武器に腹を叩かれて吹っ飛ばされてかなり強く背中打ち付けて、内臓にダメージ受けてる、はずなのに。いや、ちゃんと看たわけじゃねえけど、てか俺が看たって良く解んねえけど、あれか? もともとほとんどこいつ怪我なんてしてなくて、疲れてただけなのか?
 ってことだったら、俺の昨日のアレとか、アレとか、だって、聞いてたよな? いや、こっちも必死で在る事無い事言っちまいましたが……いや、ある事だけども、それだって!

 いや、昨日の俺、結構アレだったから! 嘘言ったわけじゃねえけど、でも、あれだろ? 普通はなかったことになるだろ? あんな状況じゃノーカンだよな?

「ふぁ……」
 欠伸をしながら、身体を伸ばしてた。え? そんな格好して、痛くねえの? 大丈夫なの? もしかして、ホントは怪我なんかしてなかったとか? いや、まあ無事ならいいんだけど、無事で良かったわけだけど、無事でよかった以上終わりだ! 俺が!

「ヅラ、無事か? 銀時に変なことされなかったか?」
 変なことってなんだよ! 何にもしてねえよ! むしろ、俺命の恩人だろ?

「ああ、変な事はされなかったが、昨日銀時に……がっ!」
 俺は、思いっきりヅラの着けてた甲当てをぶん投げた。ヅラの顔面に命中した! ゴミはゴミ箱に投げてもあんま命中率良くねえが、ヅラの顔めがけるといい感じにぶつかる。てことは、だ。ゴミ箱にヅラの顔書いときゃいいのか?

「貴様! いきなり何をする!」
「言うんじゃねえっ! てめえ今何言おうとした! ざけんな、何で起きたんだそのまま死んでろ!」
「起きろって言ったり寝ろって言ったり何なんだ貴様は! 昨日貴様が言った俺を好きだということは嘘だったのか!」
「っあああああああああ黙ってろ寝てろ! そのまま起きるな! てめえの頭がどうなってんだよ、マジでふざけんな!」


「なあ、俺、先帰っていい?」

 高杉がなんか言った気がするけど、俺達はしばらく手元にあった小石をぶつけ合った。

 しばらくヅラと喧嘩して、落ち着いてきてから帰った。四人で戦争中だって自覚も無いような馬鹿みたいな軽口叩きながら歩いてた。
 ヅラは、自分で歩けてた……って事は、本当に一人で大丈夫だったって事じゃって、そう思った途端、
 突然糸が切れたように倒れたヅラを見た俺が半狂乱になって、高杉が俺を殴って止めてくれたらしくて、気が付いたらヅラの隣に寝かされてた。

 そんな思い出。

 しばらく、坂本のニヤニヤした目が煩かった。
 しかもヅラは一向に気にするどころか、てめえの方が当事者だろうがって状況なのに、一緒になって同じような目で俺を見てきやがって、本当なんなのアイツって、思い出。








 冷たい視線に、その、あん時の気まずい気分を思い出した。


「……」
「…………」

 うちの子達が、俺見てる……。

「……あ、いやこれは!」

 さっきヅラが、来て最近寝てないとか言いながらテレビ見てたら俺の肩で寝やがった。確かに最近、取り締まり強化月間だったらしくて夜中もサイレンの音うるさかったし、まあヅラが妄想したってことはあっても、嘘いう事は無いから、眠いってのは事実なんだろう。
 俺の肩を貸してくれとも賃借料も払わないまま寝こけたヅラを起こそうかとも思った。ヅラは相変わらず体温高いし、こんな時期本当に暑いのに、ったくふざけんじゃねえって思いながらも、起きてたら起きてたでうるさいし、俺はテレビ見てたかったから、ヅラに肩貸したままテレビ見てた。

 さらさら流れてる髪の毛触って、相変わらず真っ直ぐで真っ黒で、本当にヅラ見たいな髪の毛、それだけは悔しいけど俺は大好きでさ。
 せっかく寝てるんだから触り放題だったから、ヅラの髪触ってて……
 そうしてるうちに、ヅラの放つアルファー波があまりにも強烈で……


 俺も寝てた。

 から、今、そのまんまの姿勢。ヅラが俺の肩で寝てて、俺がヅラの方に腕回してて……何で、こうなった! いや、俺のせいだけど、どうしてこうなった!

「銀さん?」
「ちょ、起こすな! 頼むから静かに!」
「別にいいですが、薄々気づいてましたが、そう言うことだったんですか?」
 違います何言ってんのそうじゃねえって! こいつに気遣いを求めらんねえから俺の為にもみんなのためにも大人しくさせとくのが一番いいって、そういう意味だって!
「なんだかんだ言って、銀ちゃんヅラに優しいアル」
 優しいとか、そういうんじゃなくて、こいつは大人しい方が世界のためだってそういう意味だ! 何よりも俺のためだから、お願いだから起こさないでやってくれ!

「お取込み中らしいし、神楽ちゃん、行こうか」
 いや、違うんだ。全然何にも取り込んでねえから! 全体的何もかも君たち間違ってるから! って言おうにも、ヅラが起きたらもっと大変なことになるような気がして……

「ん……あ、銀時」

 ヅラが、眠そうな顔を持ち上げて……俺を見た。いい年した、もう所謂オッサンの年齢なくせに、昔からだけどそのへんの美女なんかよりもよっぽど美女で、そんなヅラが、寝起きのあどけない顔で、俺のこと見て………





「ぅっ、わぁあああああああ!」


 俺は思いっきりヅラを、ぶん投げた!



 そん時に気付いたけども、肩が冷たい。どうやらヅラにヨダレを垂らされたようだ……ってキタネエ!
 ヅラは壁に激突して変な姿勢で……床に伏した。

 よし! たのむ、起きるな! 起きたんだったら寝てろ! そのまままた寝ろ! って俺の祈りは天に届きませんでしたのは無念すぎる。

「何をする! 貴様、寝込みを襲いおって、それでも侍か!」
「もう、侍じゃねえよ! 一般の健全な納税者だ!」
「身分の問題ではない! 一発殴らせろ!」
「ざけんな、てめえが許可も無く俺の肩で寝たんだろうが!」
「眠かったんだから仕方がないだろう!」
「仕方なくねえよ、何でヨダレ垂らすんだよ、きったねえ!」
「寝たからだが?」
「威張ってんじゃねえ!」

 そんな事言いながら、殴りかかってきたヅラを交わしつつ、俺も防戦一方じゃなく攻撃に出たりして、ヅラの髪の毛引っ張ったりして、いつも通りの喧嘩をして、

 ヅラが俺のマウントとって、胸ぐら掴んでタコ殴りにしかけてる時、ふとヅラが気付いたようにして、言った。


「銀時? ところで、何故俺達は喧嘩をしているんだ?」


 そんな事してたからか、気づいたら、新八と神楽、二人とも居なくたってた。



 喧嘩の理由以前に……何やってんだろうな俺達。



「………知らね」









20130713
8200

WJ32読んであまりにも理想的な攘夷銀ヅラ過ぎて、空知先生に私の毛根が殺されるかと思った。
07月11日03:50頃にピクシブにアップしましたが、そちらは削除しました。そちらでご覧になってしまった方は申し訳ありません。ピクシブにアップした時の表紙絵(写真加工)

本当にいつもいつも、タイトルを思いつけません。