戻んなけりゃ……
重力に負けてついた膝をなんとか奮い立たせて、俺は立ち上がった。重い身体を引きずって、ボロボロになった身体引きずって、それでも戻んなけりゃって。
早く戻って、あいつらの顔見て、俺がいるって、あいつらが居るって、それ見て安心しないと、身体中痛くてたまんねえ。俺が、敵本陣に辿り着くまでに、坂本も高杉もヅラも向かってくる敵を抑えてくれて、だから俺が行かなけりゃなんなかった。
ひでえ、戦だった。毎度、いい戦なんてもんは存在しねえけど、それでも酷い戦いだった。俺の仲間が何人死んだんだ?
敵の大御所にたどり着くまでに、仲間が総員でぶつかって、たくさん倒れた。俺が知ってる奴も、知らない奴も、たくさんやられた。
金属が鈍くぶつかる音がした。敵のでっかい武器が俺の刀を押してくる。力は同じ程度だったから、つまり一瞬でも気を抜けば背骨まで潰されちまう……ってことか。力で押し合って、一気に気合を入れて押し切るか、引いて油断誘って潰される前に足をかけられれば……イチかバチか、か?
どうする?
どう、動きゃいい?
「銀時!」
叫び声がした。
敵が一瞬、そっちの声に気を取られて、だから、俺は引いた。敵がバランスを崩して、そのまま俺に倒れる前に、ヅラが上から降ってくる。降ってきて、そのまま俺と押し合いをしていた敵を一刀両断した。肩から肉を切り裂き、骨が砕ける音がして、真っ二つに割れた敵は、断末魔もなく敵じゃなくて肉に変わる。
「わり」
「要らん」
ヅラは、俺の背に立つ。俺もヅラの背に立って、前を見た。伝わる……こうしてると、ヅラが、何を見てんのか伝わる。ヅラは俺たちに向かって間合いを詰める敵を目算している。俺はどいつから斬ろうかって思ってんの、ヅラにも伝わってるはずだ。
「行くぞ」
一瞬だけ肩が触れた。それが、合図、
「ああ」
俺達は走り出す。
ヅラが近くで戦ってんのは見えた。高杉も坂本も居る。俺達が揃ってるんだ、大丈夫だ、大丈夫なんだからって思うのに、届かねえ……まだ、あそこに行けない。あそこに敵がいるのに、解ってんのに、まだ届かねえ。早く、早くってジリジリとした焦燥感が全身を支配しそうになる。周りが見えなくなったら、それで終わりなのに。でも、早くしねえと。一刻も早く本体を斬らねえと……今だって、きっと仲間はどんどん死んでいく。
怖くなって、刀を握る手に力を入れた。敵を斬ってると、手の平が関節になって、刀が俺の一部になったような錯覚をする。刀が、じゃなくて、俺が敵を斬る。斬って、その感覚は、俺自身に伝わる。
重い。重くて、一つ命を奪うごとに、俺に負荷されていくんだ。重くて、歩けないくらい重いけど、ヅラがいて、高杉も坂本もいて、仲間がいて。
ここに居んなら、地面に足がついてんなら、その重さは俺達に均等に負荷されてくんだ。俺達が背負ってくんだ。
戦いながら、ヅラの動きを横目で負う。
おかしい……ヅラの動きが、いつもよりも鈍い。一撃で仕留められるはずなのに……スタミナ切れか? ヅラは俺らの中で一番体力足んないから、燃料切れは一番先だけど、それにしたってまだのはずだし、何だ?
キンて、高い音がして、カラカラと乾いた音が響いた。
ヅラの刀が折れて、折れた先は地に落ちた。根元からじゃねえから、ヅラはそれでもまだ刀を握って動いてた……が、ヅラの戦力がこれで落ちる。
代わりになるような武器を拾ってる場合じゃねえ、か。
なんとか、俺とヅラの距離を縮めていった事に、ヅラも気付いていた。刀を振るいながら、敵を斬りながら、ヅラに視線を送ったら、届いた。ヅラは俺に一瞬だけ視線を返す……了解。
どうしたんだ? ヅラの、動きが悪い。
腹に突き立てた剣は、普段だったらそのまま切り裂いてるはずなのに、何やってんだって、訊きたかった。絶命したのか、痛みのためか敵が倒れた。刀は折れててたから、どっかからさっさと調達したいんだろうが、力技よりも機動力に特化したヅラが、敵のでかい武器は効率が悪い。倒れた敵から、再び刀を抜いて……
それが、左手、だった。ヅラの利き腕は右だ。
そっか……
一瞬だけ丸腰になったヅラを狙って、ヅラに背後から斧みたいなトンカチみたいな武器でヅラを潰そうとしてた敵を斬るために、俺は地面を蹴って跳んだ。跳んで、投げられた小さな刃物を叩き落としながら、落下の勢いで脳髄に刀を突き立てた。
どうっと地面に音を立てて沈んだ敵から、刀を引っこ抜いてたら、ヅラが俺の背に来た。ヅラに、届いた。
「……銀時」
「あ?」
再び、ヅラと背を合わせて、そしたらヅラの体温を感じた。まだ、立ってる。まだ、生きてる。俺も、ヅラも。
「高杉は、脚をやられた。坂本も背を斬られている」
そんで、お前は利き腕、か。
外傷は無いようだったけど、つまり、俺以外、使いもんになんねえって……
誰だって良かった。敵を斬るのが、俺達の志を遂げる為に敵を排除するのは誰だっていい。俺達が四人が、戦闘能力に長けていたから、前線に立つことが多いが、誰だっていい。俺達が目指す未来が俺の手に届くなら、俺じゃなくてもいい。
その時に一番動けて一番可能性があったのが俺だって、ヅラが言いたいのはわかった。
「損な役割を俺に押しつけんじゃねえよ」
「どっちが地獄かは解らんからな」
「そうかよっ!」
ヅラが、走り出す。呼吸を整える暇もねえ。
俺は、走って、向かってきた敵の腕を蹴り上げた。俺が握っていた刀よりも細い、それに似た武器は高く宙を舞う。
「ヅラ!」
ヅラが、その刀を受け取る為に、跳んだ。宙にあって方向転換できないヅラに向かって投げられた小さな武器を俺が叩き落とす。
ヅラが、空中で武器を受け取った……な、よし!
「銀時、行け!」
俺は、ヅラのその声とともに、地面を蹴った。走り出す。ヅラが、俺の進む道切り開いた。俺の仲間が俺達が進む道作った、俺は……だったら、走るしかねえんだ。
俺は、敵に、向かって走る……
■
■
敵を斬って、俺は勝って……勝った、だから、戻らねえとって……情けねえほどに動かねえ身体をずるずる引きずって歩いてた。死体が転がってる。
この辺りには、俺達以外来てないはずだ、だったらこの死体は全部敵のだから、怖かったけどまだ安心してた。知ってる奴の肉じゃない。
戻んなけりゃって……早く、笑った顔が見たい。だから、早く戻んなけりゃって……
「銀時っ!!」
ヅラの声が聞こえた。俺の横から、そっちにいたのか、……良かった、無事だったのか。
俺に駆け寄ってきたのは、ヅラで……ヅラが生きてるって、そういう事は、つまりみんな無事なんだろう。誰かが駄目だったら、俺の所に走ってくるはずねえし、てか走れる体力まだ残ってんだったら、ちゃちゃっと終わらせちゃって、さっさと手伝いに来いよ!
「銀時!!」
ヅラは、走ってきたその速度を弱めることなく……って、ちょ、おい! ぶつかる!
って、覚悟したままに、ヅラは俺に体当たりしてきて、だから本気で倒れそうになって限界で踏みとどまった。こっち死にそうな思いして疲れてんのに、何で無駄な体力使わせんだよこいつ!
ヅラが、ぶつかってきて、俺の身体に両腕回して、俺のこと抱き殺しにかかってきてる。ヅラは細い割に力は強いから……苦しいし、痛い。
「ったく、痛えって。こっちボロボロなんだから体重かけんじゃねえよ」
こっちは腕に攻撃受けて、血まみれだってのに、頼むから気にしてくれよ、マジで痛いって!
「知るか、馬鹿が。俺が心配した分ぐらい受け止めろ」
「へえ、心配してくれたの?」
「いや、していない!」
「どっちだ」
「してない」
だったら顔、見せろよ、俺に。
同じように俺はヅラに苦しいって言いたいから、でも言うの面倒だから、手から刀を落とした。カラリと、乾いた音を立てて転がる。自由になった両手で、俺はヅラを抱きしめた。
居る。
在る、こうやって今、ヅラがここに在る。
腕に攻撃を受けた。血は止まらねえ、けど、俺は両手で、俺の全部でヅラが生きてるって、生きてここに居るってそれを感じるためにヅラを抱きしめた。
「銀時、良かった、無事か。怪我はないか?」
「お前が今握ってる腕」
「そうか」
うん。
離せって意味、通じろよ。痛いんだって気がついてよ。そう、言いながらも俺は、痛いって以上に、ヅラの肩に押し付けた自分の顔見られたくねえから、ヅラのこと離せなかった。
俺だってお前の顔見るまで、不安で潰れそうだったんだ。
お前がちゃんと居るって確信ができてないのに、もし居なかったらって思ったら、歩けなくなりそうだって思って……良かった。
「心配したんだ?」
「してないって言っている」
心配してないって言いながら、だって、俺のこと抱きしめてるお前の身体、震えてた。
「俺が守ると決めているのに、お前が死ぬはずないだろう?」
「こっちの台詞だ、馬鹿」
「ああ……そうだな。俺も死なない」
そうだろうな。お前は何があったって死なないだろう。立ち止まったら呼吸できなくなって死ぬかもしんないけど、ヅラがヅラとして走ってる限り、こいつが死ぬことなんかない。
顔、見たいって意味でヅラの背を二度叩いた。俺の顔、今きっと情けねえから見られたくねえけど、でもそりゃきっとお互い様だからって思ってた。ヅラが俺の背に回してる腕、力を弱めたからヅラの顔を見た。
ひでえ顔してる。せっかく綺麗な顔してんのに、なんで斬られてんだよ、馬鹿!
しかも、目が赤くて、鼻が赤くて……きっと俺も同じ顔してる。情けねえな、お互いって思って笑っちまった。ヅラも笑ってた。やっぱお互い様だった。
俺は、今ヅラのこと見てるから、ここにいる。
ヅラも俺のこと見てるから、ここにいる。
まだ、生きてる……。
「なあ、もし俺がいなくなったらどうする?」
訊いてみた。
ヅラが、どう思ってんのか、訊いてみたかった。俺の決意が変わるわけでもねえし、ヅラはヅラで、俺は俺なんだって、ヅラも俺も解ってるけど……お前がどう感じてんのか知りたかった。
「……言っている意味が解らん」
そりゃ、そっか。そう言うことにしといてやる。今の俺達、そういう事になってるもんな。
「だが、本当にお前が居なくなったら、ぐれるかもな」
「へえ、お前が?」
優等生の桂小太郎君のグレるとこなんか、それはそれで見てみたいけど、お前のグレるって、結局妙な方向に突っ走ってるだけな気がするから、俺は居なくなりたくなんかねえけど……
「だがな、銀時、上を見ろ……空が青いな」
「いや、曇ってるから灰色じゃね?」
「どこから見ても、空は空だ」
「………そっか」
誰の上にも空があって、俺達は公平に空の下に居る。空が青いって、見たらそう思ったら、そんだけで繋がってる。
どこに居たって、それは同じなんだ。
「じゃあ、さ。もしこの世界に俺がいなかったら?」
「死ぬのか?」
「死なねえよ、そうじゃなくて……」
「ヅラ、金時、なにやっちょるき」
坂本が、来た。背中やられたって言ってたけど、こんなに死体の転がったばしょでも坂本の天然な笑顔は崩れることがなくて、坂本は坂本だったって思えば、なんとなく安心する。
「ヅラじゃない桂だ!」
「誰が金時だコラ!」
「先行くぜ」
馬鹿にしたような高杉の声。
高杉も、俺と同じような場所が斬られて、血はまだ止まってないようだったが、動かせてるようだったから、骨は異常ないみたいだ。
「おい、待てよ」
なんとなく今の見られてたら気まずいような気もしながら、俺は慌てて二人のあと追いかけようとした。
「銀時、」
ヅラに、手首を捕まれた。腕、怪我してない方だったけど。
「なあ銀時、もし俺が死んだら? 俺でなくとも、あいつらや、他の奴等が居なくなったら?」
何、言ってんだ、こいつ?
毎日だ、そんなこと。今回だって、こいつらは生きてて、きっとまたこれからも同じ不安と戦うんだ。戦争で、俺達の志のために、斬って殺して、そうやって地べたに這いつくばったら立ち上がって、泥水すすってでも生き延びて、生きて……
明日にはまたこうやってこいつに触れるかなんて、解らねえことやってんだ。戦いなんてそんなもんだろ? 怖くて、たまんねえ。何やってんだろうな。
「ばーか」
俺は、ヅラが握ってた方の腕を曲げた。ヅラはそのまま釣られて、俺の方に寄ってきた。
「お前が死んでも、俺が知ってるお前が居なくなる訳じゃねえ。お前が居たってこと、俺が知ってるなら、俺が生きてる限り、俺が知ってるお前は全部俺のもんだ」
死んだって、離れたって、俺はお前を知ってる。俺にとってのお前は俺が知ってるお前が全部だ。
どこに居たって、お前はお前のままだ。
泣きそうなヅラの顔が忘れらんねえ。
ヅラは気づいてたのかもしれない。臆病者だって罵りたくないから、気付いてないふりしててくれたんだろうな。
あれから、すぐに俺は戦線から離脱した。
それから、何年か経って、
紆余曲折あって……なんか、また、ヅラと江戸で出会って。
いっぺん死んで来い介錯は俺に任せろって言いたくなること多いけど、結局ヅラは俺にとってのヅラの場所に居る。
居るんだけど……
なんでこうなった!!
「何ですか何なんですか馬鹿ですかアホですか何時だと思ってんだよ! 警察引き渡すぞテメエ!」
なんで、俺んちに知らない間に上がり込んで、酒呑みながら居間のソファで寝てた俺の顔覗き込んでんだよ! こええよ! てか、不法侵入だろうが! 鍵、ちゃんとかけてたのに!
「銀時……」
ヅラの顔は半分ぐらい泣きそうで……って、何? 間違って泣かせたの? いや、俺が正しくて、俺間違ってなくて、いや、なんで泣きそうなの? 泣く必要ねえだろ?
「ちょ、なっ……ヅラっ?!」
泣きそうな顔のまま、ヅラは俺にしがみついてきた!!
「な、何だよ! 何がしたいんだよ!! どうした?」
ヅラが、俺に抱きついてるとか、それ何? ちょっと嬉し……いや、どうしたんだ、こいつ。しかも今、深夜だぜ? ここで転寝どころか朝までぐっすりな熟睡してた俺にとっちゃ、目覚めのこれはかなりキツイ。色んな意味で。
「……いや、すまない。少し、嫌な夢を見てな」
「はあ?」
いきなり鍵かかってる人んちに上がり込んで、夢見たからって、一体それ何?
「夢って、何だよ! 何で鍵開けてんだよ!」
「銀時が……いや、何でもない」
俺が、何?
そこまで言うなら言えよ!
「確認できたので帰る」
「確認って、何?」
「銀時だな、と」
色々、意味分かんねえ。いや、ヅラ自体を理解する方がむつかしい様な気がする。
俺が今吐き出した溜息は、胃よりもさらに深い心の底からのもんだった。
本当に、何があった? 何かあったのか?
「……まあ、せっかく来たんだし、目、覚めちまったし、一杯付き合えよ」
明日、仕事入ってないし。ヅラは何かやることあるかもしんないけど、俺は知らない。
「ああ」
承諾したくせに、ヅラは俺の事、しばらく離してくんなかった……本当に、何なんだ?
■
■
「で? どんな夢見たんだよ」
ヅラに酒の瓶突き出すと、グラスを差し出した。酒をヅラのグラスに継ぐと、ヅラはそれを両手で握って膝の上に置いた。酒がグラスの中で揺れてた……震えてる、のかもしんない。
ったく、大の大人が、何なんだ。こいつが夢なんかで弱気になってるとか。
「……」
「聞いてやるから話せ」
人の安眠妨げやがって、しかるべき理由ぐらい聞かせてもらわねえと、割に合わねえ。聞いたら大損するような気もするけど。
「銀時がチン……、いや」
チン……何? チンがつく言葉で重い浮かぶのは、沈没、賃上げ、珍妙……チンコだけは嫌なんですが!
「すまない。妙な夢を見て混乱していたんだ。お前が毒キノコ食べて、野垂れ死ぬ夢だったと思う」
「はあ? 毒キノコって、俺毒キノコで死ぬとか、勘弁しろよ。1UPにしとけよ、ブラザーズっぽく」
「いや、毒キノコで死ぬのではなく、それで腹を下して、コンビニのトイレで映画泥棒による爆発に巻き込まれて……世界から、お前が消えてしまうんだ。そしたら、世界が滅亡してしまい……」
「へ?」
意味わかんねえ。相変わらずこいつの頭ん中まんま電波すぎてついてけねえんだけど、夢って何だか辻褄合わないこと多いけど、それ以前に、江戸の夜明けを見ようとしてる奴が世界滅亡させてんじゃねえって思うけど、何で俺が死ななきゃなんねえの!?
「だいぶ、混乱をしていたようだ……だが、お前がいたから、それでいい」
本気で混乱していたようですね。
今まで、そんなことなかったじゃねえか。
戦争してる時分に、上官が作戦ミスって俺達の半分近くが居なくなった、そんな戦もあった。俺たちが攘夷戦争に加わってから最初の頃だったけど、俺は見てないけどヅラだってきっと泣いたんだろう。憔悴しきって目の下に隈つくって、ただでさえ細いのにまた痩せて……そんでも、人前じゃ毅然とした態度崩さなかった。俺に対しても、いつも通りに振舞ってた。
戦争が末期に近くなってきても、ヅラは弱音を吐いたことなんかない。
ヅラは自分が正義だって信じてるモノのために、潔癖な生き方してたのに、ずっと。
どんだけ妙な夢見たんだ?
「混乱をして、怖かったから……」
ヅラの膝に置かれた手は震えてた。自分でもそれに気づいて、俺が注いだ酒、テーブルに置いた。
どんだけ怖い夢だったんだろう。
俺から見えるのは、横顔。
横顔でも、こいつは昔から綺麗な奴だった。男のくせに、俺と同じくらい身長はあるけど、それでも細くて、繊細な容貌で、刀握るなんて信じらんないくらい、細い手首で……俺よりも強いくせに。力が、じゃなくて、いや、力だって、戦闘能力だって俺と変わんねえし、機動力だけみたらヅラの方が速く動けるけど……見た目からは信じらんねえと思う、外見してる。
でも、俺は騙されねえけどな。
俺はお前のこと知ってる。
ヅラが強いって知ってる。力が、よりも、心が強いって。曲がらねえ意思があるって、知ってる。
「……ばーか。俺は居るだろ?」
ここにいるだろ?
「ああ……怖かった」
素直なコイツの言葉聞いたの、久しぶりだ。怖かったって震えてるの、別に寒いわけじゃないの解ってるけど、俺の体温で温めてやったら震えるの収まるかなって、あったかくなったら、怖かったのも消し飛ぶようなそんな気がしたから、俺は震えてたヅラの手を握った。
ヅラは、驚いたように俺を見たけど……
ヅラが来て二人の時は、ヅラは前のソファに座んのに、わざわざ俺の隣に坐たってことは、そういうことだろ? 俺が障れるかどうか、知りたかったんだろ?
「どうやら、空を見たら青いんだってさ」
「今は夜だが?」
「そう、言われたんだよ」
お前に。
目の前に居なくたって、誰の上にも空があるんだって。
お前がそう言ったんだ。俺が出てくって、ヅラが気づいて、そう言ってくれたんだ。
ヅラのことだから忘れてんのかもしんないけど。
「俺が生きてる限り、俺がお前を知っている限り、俺が知ってるお前は俺の物だ……か」
「……ち」
覚えてたのかよ。覚えてたなら、怖がる必要ないんじゃねえの?
「夢は変な夢だったんだ。お前がだいぶ昔に死んでしまっていて、俺の知るお前はそこで終わっていた。一ヶ月前俺の蕎麦からお揚げを奪ったお前さえ居なかった」
毒キノコとコンビニで爆発した理由が何なんだよ、本当に支離滅裂な夢見て俺の安眠邪魔してんじゃねえ! てか、油揚げ一枚を一ヶ月も根に持ってんじゃねえ!
「不吉な夢、見ないで下さい」
俺を殺さないで。
夢だって、お前から、俺を奪わないで。悲しいだろうが。
「だから……怖かった」
ヅラのくせに……どんな夢見たんだよ。
お前が俺のこと知ってる。お前が一番俺のこと知ってる。ガキの頃から、同じ空気で生きて、同じもの見て同じ話聞いて同じ経験して、空は青だって知ってるんだろ?
「ヅラ、あのさ、俺、居るだろ?」
触れるだろ、こうやって。
握った手、引き寄せた。
ヅラは軽いから、力入れてないヅラならすぐに引き寄せられる。
「……ああ。お前は、居る」
ヅラのこと引き寄せて、抱きしめた。俺の腕の中に閉じ込めて、俺がここにいるぞって主張するために、俺はヅラの身体をだく腕に力を込めた。
俺は、ここにいるだろ? ちゃんとお前に伝わってんだろ? 俺は、俺だろ?
「俺は、誰だ?」
「お前は銀時だ」
「ヅラは居なくなるのか?」
「俺は居なくなったりしない」
「お前が知ってる俺がいなくなんなけりゃ、俺は居なくなったりしねえ」
「……ああ、そうだな」
ヅラの体温、あったけえな、なんて思ってた。白い顔してて、体温なんかなさそうな顔してるくせに、平熱高いし。
あったけえなってそんなこと思ってたら……寝やがって。
どうすんだよ。
起こせねえじゃねえか、こんなところで寝られたら。
幸い、神楽は起きてこないようだし、どうせ朝になんないと起きねえだろうし、ヅラだって一度寝たら、殺気以外には反応しなくて、何があったって朝までぐっすり寝ちまう。布団は敷いてあるから俺の布団でいいとしても、大の男が二人で一緒に寝るのもどうだろう。
「ヅラ?」
声をかけてみても、安定した寝息しか聞こえない。
ったく。
何なんだよ。どんだけ怖い夢見たんだよ。
俺が、居なくなるなんて……。それが、そんなに怖いって、思ったんだ、お前は?
俺は、ここに居たいから、だからここに居てやるんだ。俺のためにここに居る。何があったって、俺はここで自分の守りたいもん見つけた。俺にとって何よりも大事なもん見つけた。俺の全部で守りたいもん、ここにあるんだ。居なくなるわけねえだろ?
お前が今でも変わらずにその志を大事にして前見つめてるように、俺もここに居て大事なもん大事にしてたいんだ。
知ってんだろ? お前が一番解ってくれてんだろ?
昔と同じ。変わらねえ。ヅラが変わんないの知ってるから、俺は変わらない。
お前が、今こうやってここに居るってことは、それを保証してくれてるってことだろ?
だから、お前だって、ここに居ろよ。俺が知ってるお前が、俺が解る場所にいてくれよ? お前が俺を認識できる場所にいろよ?
変わったら、お前が俺の事ぶった斬ってくれるらしいじゃねえか。
信じてんぞ、ヅラ。
■
■
「銀時っ!」
あれ?
俺……戻んなきゃって、戻んなけりゃって、俺の仲間がいるところに戻って、あいつらの顔見て安心しねえとって、それだけ思ってて……何か、今、白昼夢か?
ヅラが、向こうから走ってくる。
俺は、今、敵を倒して……んで、戻んなきゃって、戻って早くあいつらに会って、生きてるって、俺はまだ死んでない、俺の大事な奴らとまだ笑う事が出来るって、それを実感したいって、そう思ってそれだけでずるずる歩いてて……。
走り寄ってきたヅラは、勢いを殺すことも無く、そのまま俺に突撃してきたから、ボロボロだった俺は尻もちつく限界だった。手加減しろよバカ。
ぶつかって来て、俺の事抱きしめてたヅラは、すぐに顔を上げた。俺が抱き返してやる余裕もくれなかった。
「ヅラ?」
「良かった、銀時。どうやら無傷のようだな」
「あ、おう」
「昨日グラサンに振舞われた酒が抜けてないのかと思って心配した」
「ああ、さすがにちょっとヤバかったかもしんないけど……って、お前の方がボロボロじゃねえか」
「バカ言え、返り血だ」
返り血って、そりゃ、そっか。ヅラだもんな。何心配してたんだか、俺は……良かった。
こいつ、まだ居る。俺もまだ居て、ここに居て、こいつのことちゃんと触れる俺がいて……。
「どうした? 銀時」
「いや、もし俺が居なくなったらどうするって……」
「何を弱気になっているんだ? そんなに危なかったのか?」
こいつ、わざとか?
知ってるって、知ってる。俺が今どう思ってて、何考えてて、どうしようと思ってんのか、こいつが知ってる事なんて俺は知ってる。でも、
「なあ、銀時。空は、青いな」
「おもっくそ曇ってるけど」
「空は、誰の上にも、変わらず在る」
綺麗な男。返り血浴びて汚れてるくせに、ただそこに居るだけなら、細くて女みたいに華奢な容貌で、それでも強い。それが、こいつの事余計に綺麗に見せてるんだろうな。
俺は、こいつにどう思われてんだろう。俺が決めた事、ヅラはどう思ってる?
「……あ、そ」
どうやら、容認してくれてるらしい。俺が俺ならいいって、そう言ってくれたって事で、俺は……。
「ヅラ、金時、ここにおったがか」
「金時じゃねえって!」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「いいからさっさとしろ、置いてくぞ」
坂本も、高杉も無事だったらしい。坂本は豪快に笑ってた。
俺を見て、俺が無事なのみて、高杉ですらほっとした顔したの、俺は見逃してねえ。憮然とした表情取り繕いやがって、あとで馬鹿にしてやる。
二人はさっさと歩きだしたから、置いてくんじゃねえよって思って、俺が歩き出そうとしたら、ヅラが俺の手を握った。
「銀時、」
ヅラが俺の手を握って、やたらと不安そうな顔をした。ヅラに似合わねえ顔だった。
「なに?」
「あ、いや……何を言うか忘れた」
きっと、おんなじ顔をしてたと思う。
ヅラが笑ったから、俺も笑った。
了
20130710
10000
映画見て頭パーンてして、そのまま書き殴りました。映画の感想とネタバレを全力でぶち込んで書き、書き終わったら果てたので、ピクシブにそのまま貼っつけて置きましたが(up20130707
06:47)、余裕が出来たので収納します。ピクシブの方は削除いたしました。ご覧になった方は申し訳ありません。
↓ぴく支部にアップした時の表紙。

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