目が覚めた。
一瞬で、自分が覚醒したのか解るような、心地好い目覚めだったけど……久しぶりに目が覚めたような、そんな感じ。本当に気持ちよく目が覚めた。
昨日は昔の夢見てすげえ気分悪くて一日寝た気がしなかった。
仲間が斬られて、仲間が殺されて、俺が斬って、俺が殺して、そうやって地面じゃなくて足元は人間だったもので埋まってた。そんな夢を見た。
やけに生々しい夢見て……夢、じゃなくてあれは俺が昔見た光景だって知ってた。眼蓋閉じたらそこにあって、まだ生暖かい死体を踏みそうで、生臭い匂いがしそうで、手に刀が握られていて、何度洗っても肉を斬る感触が手の平の上にこびりついているような、そんな黒いほどに赤い夢だった。
また、そんな夢見る時期かなって……思って寝たのに、目覚めはすっきりとしていた……不思議だ。夢なんか見ちゃいない。
こんなに気持ちよく起きれたの、久しぶりってくらいに、よく寝れた。
もう、部屋の中は明るい。明るいけど、朝ってほどの朝じゃないくらい。
朝だけど、でも、もう少し早いかな。
まだ、もったいない……から、目を閉じて、寝心地のいい体制を求めて、腕を回して横に寝てる温もりを俺の腕の中に包み込んだ。
それで、再び眠りに就こうと……して。
ようやく、俺はは違和感に気がついた。
俺、今何を抱きしめてンだ?
いや、この細くて硬い身体も、長い髪も勿論よく知ってる、こんな奴が他に居んなら見てみてえくらい、これが誰だか俺はよく知ってる……けど。
何で、ヅラなんだ?
いや違う。違わねえけど、大いに違う。なんだそりゃ?
何でだ?
昨日普通に寝たときには居なかったはず……またこいつ玄関ピッキングしやがったのか?
時々夜中に警察に追い回されて俺んちに逃げ込んできたのは別に今に始まったことじゃねえから、ここにヅラが居たとしてもまあそれはそれで置いておくけど、そこじゃない!
いや、そうじゃなくて! 何で、目が覚めなかったどころかよく寝れたりしたの?
しかも、俺、ずっとこの体勢で寝てたりした? いや、腕確かにしびれてるけど、ヅラ抱き枕にして、安寧な眠りとか、すげえ気持ちよく寝れてたとか……何で?
「う……ああああああっ!」
「うるさい! 黙れ」
「じゃねえっ! 何なの? おまえ、いつから、てか、もうっ! 何なんだよ!」
何がどうで、なんて言えば俺のこのどうしようもないどうしようって想いを言葉にできるのか、誰か助けてくれ!
その前に、いつ戻ってきたんだよ! ここんところ、お前んちに遊びに行っても居なかったし、噂なんか聞かなかったし、姿も見かけなかったし……きっとこの街には居なかったんだろう。ちゃんとお仕事してんのかしてねえのかまでは解んねえけど……ここに居るってことは、ようやく戻ってきたって、そういう事?
「また、すぐに発つ。今度は少し長くかかりそうだ……すぐに、行かないと……」
「……何それ」
今までだって結構長かったじゃねえか。二週間ぐらい? もっとか? そんでまた居なくなるって何だよ一体! 貸した漫画早く返せ!
「……だから」
「だから?」
だから、それで、ここに居るって……だからって、もしかして、さ。そう言う意味? どっかいなくなる前に、俺のところに来たって……もしかして、俺に会いに来たとか……
「だからあと、二時間……頼むから寝かせてくれ」
「……………」
いや、うん。
解ってた。
解ってる、俺は一体何を期待してんだか、いや期待ってなんだよ。何がしたかったんだ俺は、なんて言われたかったつもりだよ! 馬鹿じゃねえの? 俺が!
てか、本当に何なの? 何がしたいの? マジで寝に来ただけかよ、何なんだよって思って……布団から蹴り出してやろうかって思ったけど、でもまだ俺の腕はヅラのこと離したくねえって、ぎっちり抱え込んでいた……だって、仕方ねえよな、こいつ体温高くてあったけえし。
悔しいから、せめて体温奪ってやる。ヅラが布団奪ったせいで背中に布団かかってなくて、足とか出てたから結構寒かったし、てめえが勝手に俺の布団って領域に侵入したんだから、俺のテリトリーなんだから俺が法律だって。
そんな言い訳は誰も聞いちゃいねえけど、やっぱヅラを抱きしめるために、俺は俺への口実が必要だった。
どうせ、一度寝ちまったらヅラは叩いても蹴っても引っ張っても殴っても殺しても、自分が起きようって思わない限り起きないだろうし。
せっかく目が覚めたし、朝だって時間でゆっくりと部屋の中の彩度が増してきているから……このまま起きたっていいんだろうけど……ちょっと、もったいないって思った。
まだ、時間あるんだし、せっかく……
せっかく……なんだ? 今なんて思ったんだ俺? せっかくコイツが安心して俺の腕に収まってるからって……んなわけ、ねえよな? 俺が今ヅラのこと抱きしめてんのは、いい年した成人男性が狭い布団で抱き合って寝てるとか絵面的にゃ寒すぎるけど、いや、そりゃ見た目だけで言ったらヅラはどっちかって言うと美女に見えるような見た目をしてるけど、だからってもガキの頃から知ってんだし、裸なんてガキの頃から何度も見たことあるし、こうやってくっついてても女みたいに柔らかい訳じゃねえし、むしろ骨ばってて硬いし、そもそも……いやだから!
ただコイツがあったかいだけで、それ以上でもそれ以下でもねえって! あるはずがねえ!
「……ん」
起きたのかと思ったけど、ヅラが寝返りうって、俺の胸に顔を擦り寄せてきた……。
……寝てるんたろうな、だからこんな無防備で、俺の隣で安心しきって寝てるとか……んで、こんなんで刀振り回してるなんて信じらんないくらい白くて細い腕を、俺の身体に回して……ぎゅうって、俺にしがみついてきて……
ちょ……なにそれ、いや、なにこれ! 何で今俺……
なんか、うわあああああって気持ち。ああ、もう何だかわかんね!
って気持ちそのまま表現してみる。
ヅラを抱き締めた。ヅラが俺の事抱きしめる力なんて比較になんないくらいの力で、ヅラのこと抱きしめた。ってか、もう、何なの、お前は! いや違う、俺だ。俺は一体なんなんだよ!
今だって、すげえ意味分かんねえくらい擽ったいような気持ちで心臓が破裂しそうになってて、頭沸騰しそうになって……いや、沸騰した。んで爆発した。
「っ……銀時、苦し……」
「るせ!」
「だから、あと二時間寝かせろって!」
「知るか! 勝手に寝てろ」
俺の腕の中にヅラがいんの、嬉しいとか、何でだよ!
あったかいし、ヅラがいたらよく寝れてたし、髪の毛サラサラでいい匂いするし、俺のそばで安心しきったバカ面さらして寝てくれんのとか……
なんだよ、これ……だって、これ、ヅラなのに
「銀さんっ! いつまでも寝てないで下さい」
スパーんっていい音たてながら、新八が襖開けた……なんだよ、いい夢見てた最中だってのに……朝かよ。
って……思って、
布団の中に当然俺しかいないことに気がついた。
「あれ、ヅラは?」
さっきまで、ここにいていい匂いがする男のくせに細い身体抱きしめて、暖かくなってたのに……あれ?
「へ? 何言ってるんですか? そういえば最近姿を見ませんよね、もしかして、桂さん来てたんですか?」
「いや、さっきまで………」
いや、夢か?
「あ、いや。何でもねえ、寝ぼけてた」
そっか、夢か。
そりゃ、夢だろうな。
いや、夢にしたって俺はなんて夢見んだ! 昨日に引き続き、今日までろくな夢見てねえとか、何なんだよ。もっと寝てやろうかって思ったけど……なんだか異様にスッキリと目覚めてる……寝付きは良かったらしい。
にしても、本当に俺はなんて夢見るんだ……だって、ヅラだぜ?
どこをどう見たって、ヅラって100%ヅラでできてるんだ、喋んなけりゃ見た目は多少好みだったりもしないわけじゃねえけど、ヅラが男だって性別云々の前に、そもそもヅラだって!
のに……何だろう。
いや、ただの夢だったはずなのに……だって、ヅラが俺の腕の中で、居心地良さそうにして、安心しきった寝顔晒して、俺の事抱きしめながら寝てて……そんな夢見て……。
青くなる所のはずだってのに、頭の芯が熱くなるような、そんな気がして……。
「あ、なあ。神楽は?」
「姉上と買い物行ってから戻ってくるそうですよ。お昼前には帰ってくるんじゃないかな」
「朝帰りどころか昼帰りとか、あの不良娘め」
気持ちよく起きたから、とりあえず布団を畳んで押し入れに突っ込む。
本当になんて夢見るんだ? まだ心臓がなんか変な音して動いてるような気がする。
これ、なんつうんだっけ……知ってるような気もしたけど、知らないほうが身のためだって思うような、この感覚……いや、夢だから。
夢だったんだ、さっさと忘れりゃいいんだって。
「あ、銀さん。どうせ盗られる物なんか有りませんけど、鍵あいてましたよ。ちゃんと寝る時は戸締りしてください……銀さん? どうしたんですか? 顔真っ赤ですけど」
了
20130416
3,400
今更自覚する話。
「朝すっきり目が覚めたのは隣で寝てたから」ネタ、銀桂Ver.でした。
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