お前さあ、狡いよ。
お前ばっか卑怯じゃねえの。
だって、どうしたってどうしようもねえだろ、俺達?
どーせ、お前は変わんねえし、俺だって今更整理整頓して棄てられるほど自分の持ち物少なかねえ。ぐちゃぐちゃに絡み合った中で、一本大事なものだけ残すような筋の通った生き方をもう選ぶことなんざできねえから、俺だって結局変わるなんか無理なんだよ。
変わんないでいいよ。
そのままのお前が好きなんだよ。そのままのお前に惚れてんだよ。
だから、オマエはそのまんまでいいや。それがお前なんだ。そのままでいろよ。そのままでいてくれよ。
だから、もう無理なんだよ。
わかるだろ?
お前だってわかってんだろ? お前は俺と違って馬鹿じゃねえ。俺より小難しい脳味噌持ってんだろ? きっと俺よりわかってんだろ?
どうせ無理なんだよ、ってさ。
だってオマエを変えちまいたくなる。一緒にいたら、お前の道を塞ぎたくなる。
それじゃ駄目なんだよ。
だってどうせ、結果はわかってんだ。
別れるよ、俺ら。
また、別れるよ。
もう懲りただろうが? 何度繰り返したって、結果は同じなんだ。
何回くっついて、何回離れたかだなんて覚えてない。今更。
無理なんだよ。
なぁ、お前の方がわかってんじゃねえの?
そんな甘い声で俺の名前を呼ぶなよ。
そんな目で、俺を見るなよ。
抱き締めたくなんだろ?
離したくないって……。
わかってんだろ?
どんだけ長い時間お前の隣にいたと思ってんの?
俺の気持ちくらい察してんだろ? 気付いてねえはずがないことぐらい、俺にだってわかりますよ。
アンタ、狡いよ。
だって無理なんだよ。
もう俺の腕が、二度とこいつを包まない事を、俺は決意している。
戻って……その時は幸福だよ、確かに。普通に考えるよ、けっこう頻繁に。
昔みたいに頬くっつけて、昔みたいに手ぇ握って、昔みたいに身体全部くっつけて、そんだけで全部伝わってさ。戻りたいだなんて、当たり前なんじゃねえ?
アンタのこと好きなんで。人生でいっちゃん大事にしてきたつもりなんでね。魂賭けて、惚れ込んでた。どんだけお前のこと大事にしてたか、お前だって少しくらいは理解しててくれてんだろ?
ずっと俺のものであって欲しいけどさ。
……俺だって、いっぱしに傷ついたりするわけよ。
どうせ、また別れんだろ?
そん時にどんだけ俺が悲しくなんのか知ってる? お前だって苦しいだろ、どうせさ。
離れなきゃなんねえ時に、俺がどんだけ心臓潰れそうなのか、お前知ってる?
放したくなくて、ずっとお前のそばにいたくて、お前がずっと俺しかいなきゃいいって……俺のいねえお前の未来は呪いたくなるくらい、切なくなるよ?
俺を見ないお前の目なんか潰れちまえって、思うぐらい恨むよ?
だから、もうくっつかない方がいいんじゃねえ?
お前の手が俺に、二度と触れないようにって決意している事なんか、俺にもわかってんだよ。
だからって……甘えんなよ。もう、俺だって我慢すんの嫌なんですけど。アンタに俺の気持ち全部ぶつけて、アンタを抱き締めて、全部俺のだって……。
俺にだって我慢は限界あんのよ?
そんな声で俺の名前呼ばないでくれない?
お前の声聞くだけでオカシクなりそ……。
離れるのが辛くなる。居なくなる事に耐えきれねえ。
お前がいなくなる事に、居ない状態に耐えられなくなりそう。
お前が全部棄てて俺のとこに来ればいいんじゃね? だってそうしなきゃ、俺達は俺達にくくれない。だってそうしなきゃ俺達は俺とお前のままなんだよ。
でもそれは、お前じゃないだろ?
棄てたらお前じゃないだろ?
棄てる事のできるお前を俺はきっと好きじゃない。棄てない事くらい知ってる。棄てないお前だから、俺はお前に惚れてたんだよ。それでも。
俺も動けねえ。
お前の立ち位置も不動だ。
だから、駄目なんだよ。
ほら、どうせ無理じゃん。
触んないでよ。近くに来んなよ。声を聞かせるなよ。俺の前に現れるなよ。お前なんか見たかねえよ、もう………。
限界。
抱き締めたくて、やっぱお前は俺のだと言いたくて限界。
お前に向かって伸ばした手が……
「銀時」
「あ?」
ヅラは、うっすらと口許に笑みを浮かべた。
俺に対する牽制だってことぐらいはわかる。
空をさまよった手を、俺は握り締める。どう、始末つければいいんでしょうか、この行き場のない手を……。
……触んな、ってさ。
わかってるよ。
そんなんわかってますよ。
あー、もう、さっさとどっか行けよ。どっか俺の目の届かないどっかに行っちまえよ。もう、俺の前に来んなよ。
「俺は、銀時、お前が好きだ」
「へえ」
「だから………」
ヅラは、言葉を濁した。その後は言わないつもりらしい。だから……ってさ。わかってるよ。
どうせ俺達は最期を一緒に向かえることはもうない。
その機会は逃しちまった。
そっから、別々。終着点が変わった。途中までは一緒だったんだけどな。
また、別れを経験なんかしたくねえ。そん時の絶望の重さをきっとわかってる。わかりたくもねえ。きっと次はもっと重い。そんくらいの予想なら簡単にできる。
初めて別れた時は、胸が締め付けられるように思った。次に別れた時は、心臓が握られるような感覚がした。その次は、心臓が……潰れた。今度は、どうなんだろうな、どうなっちまうんだろうな、俺。
だから、お前を俺の所有にしたくねえ。俺のものじゃなけりゃ、お前が笑ってりゃいいって、きっとずっとそう思ってられる。お前がどこかで笑っててくれれば、お前の幸せを願っている事だって出来る。
俺のものじゃなけりゃ、きっとお前をずっと俺にとっての最高の存在として位置付けてられる。
でも、離れることだってできねえんだよ。どこにも行くんじゃねえよ。俺の手の届くとこにいろよ。傍に居ろよ。
「お前って、卑怯だよな」
「ああ……すまない」
俺が拒絶すんの知ってて、擦り寄ってくる。俺が手を伸ばせば身を引く。
……俺の手は宙を掴む。
駄目なんだよ。
無駄なんだよ。
どうせ、お前、居なくなんだろ? どうせ最期まで俺のもんじゃないだろ? そのうち、俺のとこからいなくなんだろ? もう、俺のじゃないんだろ?
「銀時……お前が愛しいんだよ」
声だけで、背中がゾクゾクした。触れたらどんだけなんだろうな。
お前、知ってんの? 俺がどんだけお前が愛しいか知ってんの? 本当は、殺してだってお前を傍に置いときたいって、そう思ったことがあるくらいお前に執着してる俺が居ること、知ってる?
「あー、はいはい」
そろそろ、……限界。
早く、どっかに行って下さい。
俺が、抱き締めちまう前に。
おまえなんか、いなけりゃ良かったんだ。
了
090303
書いたのは0711頃……
銀桂、2個か3個目に書いた話……
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