「会いたい」








 ……寒い。
 生きてるだけで寒い。
 エアコンも電気ストーブもポンコツ過ぎて、石油ストーブは灯油切れてるとか、スイッチ入れても炬燵が赤くなんないとか、この寒さをどうやって乗り越えろって?

 神楽は早々にテレビで言ってる夜の気温見て、即座に我が家の現状を把握して、パジャマパーティーの予約を入れてた……裏切りやがった。

 何なの?
 今日は何でこんな寒いの?
 何で、俺一人でこんな寒い目見てなきゃなんねえの?

 もう、寒くでどうしようもねえから、布団の中に入ってテレビつけて……つまんねえ。テレビん中だけ楽しそうだけど、実際俺が今つまんない。
 何で今一人なんだよ。てかせっかく今誰も居ないのに、アイツどこ行ってんの? 一か月も顔見せねえし、ここに居たらいい湯たんぽになるんだろうな、見た目と違って体温高いし……とか、なんか俺一人で可哀想で、もうあまりにも可哀想だから、何となく幼馴染の熱い体温とか思い出したついでに、布団かぶって一人で右手のお世話になろうかと思い股間に手を伸ばしかけた。

 って、時に、電話。

 何だよこの寒いのに、って布団かぶって無視しようとしたら、切れた。
 まあいいか、とりあえず普段一人じゃ呑気にいかがわしい事出来ないから寒いけどせっかく一人で気にせずに出来るんだって、また下着の中に手を突っ込もうとした時に、鳴った、とか、何なの?
 で十回ぐらい鳴ってまた切れて……、そんで……うるせえっての! 寝かせろ! 何時だと思ってんだ! 一人にして! 一人でさせて! 鳴り響いて止まろうとも思わない電話を叩きつけるために、ずるずると布団被ったまま引きずりながら居間の電話機まで何とか辿りつく。ホント寒い。家の中で吐く息が白いとかもうここ外なんじゃねえの? 悲しくて泣けてくる。


「あい、万屋っ!」
『なんだ、居たのか』

「……………………」


 何だ、いたのか。
 じゃ、ねえっ!

 もう俺の事なんて忘れてんのかと思ってましたがね! すっかり俺の事なんか忘れて大事な大事な攘夷活動とか何とかに励んでいるんだと思ってましたがね!
 一か月も顔見せないとか、てめえ、どういう事だ!
 どこ行ってやがった今まで!

「あ? なに?」

 声は予想以上に冷たいもんになっちまったけど仕方ねえ、こんだけ寒いんだ。

『今銀時が、何をしていたかと思ってな』
「別に……なんも。寒いから寝てた」
 実際にそうだし、ストーブも炬燵もお利口じゃないから、結局自分だけが頼りだから、自家発電しようって布団の中に埋まってた所だけどさ。

「お前は?」

 お前は、今まで何してた?
 ずっと顔も見せねえで、噂も入ってこないって事は、江戸には居なかったって事なんだろうけど……どっか行くなんて聞いてねえ。勿論聞きたいって言ってないし、教えろって言っても教えてくんないかもしんないけど。

『雪を見てる』
「へ? さっきまで雨だったけど」
『今は、もう雪だ。外はすごく寒い』

 外って、何やってんだよ。
 さっさと来いよ。
 無事なのかどうなのか確認させて、俺を安心させろって!

「今、どこ居んの?」
『外だ』
 だから、外のどこに居んだって聞いてんだ。今すぐ、会いに行くから、場所言えよ。外って事はまだ何かやってんのかよ。いいから早く来いよ。
 会って、抱きしめたい。俺のこと忘れてんじゃねえよって、怒鳴りたい。
 こんなに寒いんだ、仕方ねえよ。
 だって、お前、体温高いから、すげえ温かいから、こんな寒い日に会いたいって思うの仕方ねえだろ?

 だって、俺が触ると、お前もっと熱くなるだろ? 寒いんだから、お前だって会いたいだろ?

『で?』
「でって、何だよ。てめえが電話かけてきたんだろうが」

『いや、銀時が俺に言いたい事があるだろうと思って、わざわざ電話をかけてやった』

 あるよ。色々あるよ。
 言いたい事、たくさんある。
 忙しのかもしんないけどさ。江戸じゃない場所に居たのかもしんないけどさ。んでも、俺が忘れられてんじゃねえのかって不安になるくらい放置してんじゃねえよ!
 どこ行ってたんだよ。心配かけんじゃねえとか、俺のこと忘れてなかったよな、とか。もういい加減にしろって。俺の事も少しは考えてくれって……。

 何だよ、その上から目線は?


「顔、見たい」

 俺達、結局ずっとおんなじもん見ておんなじように感じて、ほとんど同じもので出来てた。
 お前が何考えてるのかなんて解ってるつもりだし、一番近い考え方してると思ってるし……殆ど同じ気持ちは共有してる事は、知ってる。

 から。

「顔見て、キスして、抱きしめたい」

 だから、俺が言いたい事って、つまりお前が言いたい事だろ?

 俺が、こんなこと思ってんだ。
 だから、お前だって同じこと考えてんだろ?
 会いたいって、会いたいって、会いたいって、そう思ってて、ここにお前が居なくて、声聞けただけでも嬉しいけど、でも結局お前は触れる場所に居なくて、この電波は何処に繋がってんのかも見ねえし、どこに居んだよ今。


「……会いたい」

 って、お前が思ってる事だろ?




「遅い!」




 ………って、聞こえたのは俺の背後から。


「っな……!!」
「いい加減に気が付け、馬鹿!」
「な、てめ……」

 玄関!! 鍵かけてたよな! ちゃんと!

「てめ、またピッキングしやがったのかっ!!」
「お前、玄関の呼び鈴を今すぐ直せ! 土産を渡そうと、わざわざ家に戻る前に寄ってやったのに、呼び鈴は壊れてるし。かすかにテレビの音がするから居るのだろうかとは思って、電話をかけてみたが、出る気配はないし」
「てか、いつの間に携帯なんか持ってたんだよ!」
「あまり私用では使わないから言わなかっただけだ。それに俺もお前の携帯の番号を知らんから、同じだろう?」

 文句を言いながら、頭の上とか、肩には白いもんが積もってた……今まで、もしかして外にいたのかよ。
 肩に乗る白い雪を払ってやったら粉みたいにサラリとしていたけれど、床に落ちたらすぐに水滴になって、多分明日の朝には乾いてるだろうから、拭かなくていいか。
 頭の上にも少し。
 冷たい。
 髪が、凍ってるみたいに、冷えてるとか、馬鹿か。

「今しがた戻ってきたばかりだ」
 どこに行ってたか、までは聞かないでおいてやる。

 ほんとこいつ、馬鹿。こんなに冷たくなって、せっかくお前体温高いのに、身体冷え切ってんだろ? こんなの抱きしめたって、湯たんぽにもならねえじゃねえか!

 

「で?」
「でって、なんだよ」
「俺に会って、何をしたいんだったか?」

 ほんと、なんでこんなに上から目線なんだよ、こいつは! いつの事だし昔からの事だしきっとこれから先もずっとの事だろうから慣れてるけど、
 会いたいなら、俺に言わせるよりも先に、てめえが素直にそう言えばいいじゃねえか!

 とりあえず、重力は重いし、部屋は寒いし、ヅラも、冷たくて、いい加減に寒いから、俺は今すぐにでも布団に入りたい、から俺はその欲求に負けただけだ。


「……とりあえず、温めてやろうかって思うけど、ど?」

 こんなに冷え切って……ほんと、何やってんだよお前。


「ああ。そうしてくれ……このままでは寒くて、この俺が風邪をひてしまいそうだ」








20130222
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好きカプの左側の人に「会いたい」って言わせてみよう企画Ver.銀桂でした。
ジャンプで最近銀さんがやたらとヅラに優しくて……銀桂って甘く書いてもいいカップリングだったのかって銀桂書き始めて6年目の新事実に、私の銀桂感が迷走し始めております。